CROSS DELUSION
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1122
「タマキ、今日何の日か知ってる?」

おやつの時間に食堂で子供たちと一緒に焼き芋を食べていたときの事。

子供たちに聞かれ、答えられないタマキに、そのうちの一人が得意そうに言い放った。

「いい夫婦の日なんだぜ」

11月22日……。確かに語呂合わせでそう読める。

「へぇ、よく知ってるな」

タマキが感心して答えると、他の子も得意そうに言う。

「今日、学校で先生が言ってた」

「夫婦が感謝しあう日なんだって」

「バラとか贈るといいらしいぜ」

「昔は12本贈ったんだって」

「そんでお返しに1本渡すんだって」

「そうなのか」

「だから、タマキもトキオに贈れば?」

「……って……ええっ!!……っんん…っ」

ニコニコ聞いていたが、最後の一言にむせる。

胸を押さえながら、湯呑みを取り上げ一挙に流し込む。

「だ、大丈夫か? タマキ」

「お芋、詰まらせたの?」

「なに慌ててるんだよ」

「ゆっくり食べなきゃダメだよ」

…………。

ようやく落ち着いて、子供たちを見回す。

心配そうにこっちを見たり、タマキの挙動を面白そうに眺めていたりするが、その瞳はとても無邪気だ。

みんな、自分たちをどう思ってるんだろうと疑問に思う。

「いや、あのさ……、俺とトキオってどういう関係と思ってる?」

「夫婦」

「夫婦でしょ」

「夫婦だよな」

「指輪もしてるし」

「ダーリンって呼ばれてるし」

さも、普通のように言われる。

「でも、男同士だけど?」

タマキがおずおずと尋ねる。

「そんなの関係ないよ」

「好き同士なんでしょ?」

「つか、男同士結婚しちゃダメなの?」

「……いや、ダメってことはないけど……。一般的じゃないというか…」

「一般的?」

「法律では認められてないというか…」

「法律?」

「……えーっと………」

タマキが言い澱んでいるところに、ドアが開いて、トキオが入ってきた。

「夫婦ってのは、愛し合う二人が、一緒になって幸せを築いていくものだよ。別に男同士でも無問題だよ〜」

「トキオ!」

トキオの手には赤いバラの花束が握られている。

「タマキに……。感謝と誠実と幸福と信頼と希望と愛情と情熱と真実と尊敬と栄光と努力と永遠の…全てをおまえに誓うよ」

周りから歓声があがる。ヒューヒューと口笛を吹く子もいる。

「トキオ……」

タマキは花束を受け取りながら、頬を真っ赤に染めた。

この男はこういう気障なことを、どうしてこう何のためらいもなくできるのだろう。

「それに男同士の結婚は、今や、宮家公認だしねー」

「いや……それを吹聴するのはどうかと思うが……」

「で、タマキはこの想いに応えていただけますか?」

トキオが跪き、タマキを見上げた。

そのさまもまた格好いい。

「えーっと……」

「タマキ、バラを一本返すんだってば」

横から子供が囃したてる。

「え……、一本?」

「うん。さっきの言葉から一番贈りたい言葉を返すんだよ」

「えー……」

なんだったけ。感謝・誠実・幸福…

トキオに一番返したいもの──。

感謝はしてもし足りない。

こちらも誠実に応えたい。

幸福で、信頼していて、希望に溢れて、愛情を身いっぱいに受けて……。

どれか一つと言われたら迷う。

だけど、それら全部を込めて、今全身で感じている言葉を返したい。

タマキは花束からバラを一本抜き取ると、トキオに渡した。

本当は胸に挿すものなんだろうけど、長くて挿せそうもない。

「じゃあ、俺からは『幸福』を──」

さらに言葉を紡ぐ。

「いつも、ありがとう。今の俺の気持ち。そのまま受け取って欲しい。……本当に幸せだ、俺……」

改めて口にしながら、この幸福を実感する。

「俺も……幸せだな」

そう言いながらトキオが、タマキを抱き寄せる。

そして、ぎゅっと抱きしめられたら……。

もう、些細なことはどうでもよいような……気がしてきてしまった。



バラを握り締めた手を、そのままトキオの背にまわして、幸せを抱きしめた。



《END》



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