見つめるだけで
(DC2 カゲタマ)
窓から差し込む朝の日差しに目が覚めた。
タマキはそっと腕枕から頭を起こすと、横を向いて片肘を付いた。
そして、隣に眠る恋人を見つめる。
隣のカゲミツはまだぐっすり眠っている。
(腕が痺れて……大丈夫かな)
そう思いながら、腕をそっと撫でる。
しかし、目覚める様子はない。
タマキは伸ばされた腕の先から、肩、うなじ、顔へとゆっくり視線を移していった。
指はすらりと細く、しかしすこし関節を感じるのはやはり痩せてるせいだろう。腕も筋肉はあまりついてないが、男のそれとわかる骨格をしている。
陶器のようになめらかで白い肌はしかし、しっとりと温かみがあって血の通った人間であることを思い知らされる。
短く跳ねた髪は日の光を受けて蜂蜜のような金色に輝き、透けるような長い睫毛は目元に淡い影を落としている。
整って、気品のある目鼻立ちは、西洋のお伽噺に出てくる王子様のようだ。
口をきかず遠目に眺めていれば、西洋人形様と囃したくなる気持ちも解らなくはない。
でも、こんなべらんめえ口調で、熱くて、真摯で、激しいのを知れば人形などと言ってられないだろうと思う。
激しい──
昨日の行為を思い返して、余韻の覚めやらぬ身体が再び熱くなるのを感じた。
かーっと頬に血がのぼるのを感じる。
昨日も、遅くまで仕事をしていたカゲミツ。先に休んでいた自分が、深夜にようやく倒れ込むようにベッドにもぐり込んできた彼を煽って、行為に及んで、ここまで疲労困憊にさせてしまったかと思うと、申し訳なさが募る。
でも、求めずにはいられなかった。
寒々しいベッドに、一人でぽつんと眠る頼りなさに耐えられなくて、何度となく一緒に起きてようと思ったのを、優しく寝るように促され。
しかたなく寝たものの、カゲミツが恋しくて堪らず。
だからあれは意趣返し。
でも、掛け値なしの本音。
熱くなった体を持て余しながら、再びカゲミツを見つめる。
そして、視線をゆっくり移動させていく。
寝る前に申し訳程度にかぶっていたシーツは足元に落ちていて、お互いの体をすっかり晒している。
カゲミツの指先に、昨日の愛撫の感触を思い出す。
唇に、口付けを感じ。
腕に、抱擁を。
胸に、鼓動を。
腰骨は、カゲミツの痩せ加減を感じるとともに、密着した時の実感を感じる場所で。
それから金色の叢と……。
恥ずかしくなって思わず顔を戻すと、こちらを見つめているカゲミツと目があった。
「わっ……! カ、カゲミツ! いつ起きて……」
自分の視線に気づかれたと思うと、恥ずかしさでますます血がのぼる。
「いや……、今起きたところだけど……」
そう言いながら、頬をポリポリと掻く。
「そんなにしげしげと身体を見られると照れるというか……」
「ご、ごめん」
「でも、おたがい朝だし、生理現象だし……恥ずかしがらなくても……」
「わー。言うな」
タマキが真っ赤になって遮る。
「というか、俺はお前を見つめてるうちに……だから……」
口ごもって俯くタマキに、カゲミツが顔を赤らめながら手を伸ばしてくる。
「そんな顔で、そんな事言われたら……堪らなくなるだろ」
そう言いながら、抱きしめてくるカゲミツの指の感触と、腕の感触と、腰骨の感触に……。
しっくりとした安堵感と、さらなる身体の奥の火が点るのを感じる。
「俺も……堪んない……よ……」
そのまま腕を回すと、口付けを強請るように顔を寄せていった。
(END)
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