どうしても君を失いたくない
(監禁ネタ…カゲミツ編)
目が覚めたら、ベッドの上で。
ベッドサイドにはカゲミツが腰を掛けて、こちらを愛おしそうに見つめている。
「カゲミツ?」
声を掛けながら左手に違和感を覚えて見てみたら、太い鉄製のリングが付いていて、そこには長い鎖がつながっている。
「これは一体何のマネだ?」
昨日はカゲミツと飲んで……。
楽しくて、結構ハイペースで飲んで……。
その後の記憶がない。
「何のためにこんなことをするんだ!?」
「何のため?」
カゲミツが、不思議そうな顔をしながら鎖を持ち上げる。
「タマキが逃げないようにするために決まってるだろ」
「何故…」
「オレ以外の人間に触れさせたくない。見せたくない。タマキを誰にも渡したくない。何処へも行かせたくない。……だからだよ」
「こんな事…J部隊が不審に思ってすぐ捜査するぞ」
「大丈夫だよ……」
カゲミツは、ゆっくり微笑んだ。
「タマキがいなくなったことに気付いたとしても、ここの事まで気付かないと思うし。……知ってたか? 部隊に配属されてすぐ受け取った、ネクタイピンやバッジって小型発信器になってるって」
「……知らない。でも、じゃあ俺の居場所も!」
そう言いながら、胸元のネクタイピンに手をやろうとするが、そこにはなかった。
「タマキのネクタイピンは、昨日の帰り道に壊して捨てたから…」
「じゃあ、カゲミツの発信器を元に探られる!」
「何のために? ……ちなみにここは俺のマンション。……普段ワゴンで住んでるから知らなかったろうけど、一応マンションは借りてるんだよな。俺が俺のマンションに返って不審に思うやつはいないし、普段も衣替えするために、荷物取りに来ることはあるんだぜ。……タマキが一緒に居るなんて、考えるとは思えないな」
「…でも俺と飲むのはみんな知ってる…」
「その後別れたといえば済むことだ」
「じゃあ俺の消息は?」
「ナイツに拉致られたか、他の事件に巻き込まれたか……。どうとでも取れるし、そのへんの情報操作もちゃんとするよ」
「カゲミツ…」
「いちおう、この部屋を動ける範囲の長さはあるし、トイレもシャワーもキッチンの冷蔵庫にも手が届くと思う。ドアや窓までは無理だけど」
トイレやシャワールームを指しながら説明する。
「カゲミツ」
「食事はちゃんと、届けるから餓死の心配はないから」
そういって微笑むカゲミツは、病的なまでにやさしい表情をしている。
「カゲミツ!」
タマキは怖くなって、カゲミツを抱きしめた。
カゲミツの体がビクリと震える。
「しっかりしてくれよ。そんな事しなくても、俺は何処にも行かないし、誰のものにもならないよ。…誰にも見られないとか触れられないというのは無理だと思うけど」
そういいながら、カゲミツを見上げると、微笑みの中にも苦い表情が浮かんでいる。
「じゃあ、ここに居て…俺だけを見て…」
「それは無理だ。……だけど、お前の事は大切に思ってる…」
そういいながら、抱きしめた腕にさらに力を込める。
「……ずるいな。……監禁する相手を抱きしめるなんて……」
「だって……。それくらいしか出来ないから」
「………」
カゲミツは、タマキの肩に手を置くとそのまま押しやった。
無理やり浮かべていたような微笑みはとっくに消え失せて、顔は苦痛で歪んでいる。
「ごめん」
「カゲミツ……」
「このまま狂っちまって、夢の世界でお前だけと暮らせたら、どんなに楽か……って……思ったけど……」
「うん…」
「俺には出来そうもない……」
「うん」
それが、カゲミツのカゲミツたる所以だと思う……。
タマキはそう思ったが、口にはしなかった。
受け入れられない自分が、それを言うのは偽善ぽく思えたから。
「ほんと…ゴメン…」
カゲミツの苦しそうに絞り出す声が、部屋に溶け消えていった………。
(END)
(拉致監禁未遂事件でした)
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