ずっと一緒に
(DC2 カナエグッドエンド後前提)
タマキとカナエは墜落したヘリから無事救出され、病院へ搬送された。
その他のナイツのメンバーも捕まり。
彼らとの戦いは終わった。
二か月後──。
「キヨタカ!」
「カゲミツか。どうした?」
「オミが、明日からJ部隊へ入るって……。マジかよ」
「ああ、傷も大分癒えたし、手術も施したし。…今や問題児の集まり場所のような部隊だが……。それも悪くないだろう。彼は彼でなかなかよい素材だしな」
「手術って。例の…あれか」
「そう、カナエと同じあれ…だ」
ナイツの崩壊の報道がマスコミに騒がれる中……。
それとは別件として、フジナミ家汚職事件の全貌が公表された。
汚名を雪ぐことは出来たとはいえ、オミが表舞台に戻ることはなかった。
依然、行方不明の扱いのままである。
華族がテロ組織にかかわっていたということはもみ消された。
全てを公表すれば、組織のリーダーである彼が死刑に処せられることは免れない。
それは、貴族社会のこの国への大きなダメージでもあるし、引いては宮への不信につながる。
それが、上部の見解だ。
かといって、オミをそのまま放置するわけにもいかず、キヨタカが引き取る形になったわけだ。
体よく押し付けられた感がしないでもない。
しかし、当のキヨタカは楽しそうだ。
そして、意外にもオミもそれに同意しているようだ。
『取引だし、彼女をちゃんとした施設に入れてもらえるならね。問題ないよ』
そういってあっさり承諾したらしい。
妹を、スラムの病院からきちんとした病院に移すのを条件に投降したオミ。しかし、自身の身柄がその後どうなるかは覚悟していただろう。
カゲミツも、上からの決断が下りるまでは、正直生きた心地がしなかった。
せっかくもう一度捕まえることが出来た彼を、単に死なせる結果にしかならなかったら何の為に説得したかわからない。
あの時──。
罪のないオミの父親が陥れられて、自殺に追い込まれ。家庭崩壊した時。
自分の父親がそれ加担していると分かっていて何もできず、ただ見ているだけで。
彼に掛ける言葉もわからず。
ただ、後姿を見送るしかできなかった自分。
失くして初めて気づいた存在の大きさ。
今ならそれが何だったか、自分は知っている。
『ボタンをかけ間違えただけだろ』
『大丈夫!』
あの時の失敗を、やり直すように助言してくれた黒い瞳の同僚の存在は、今でも大切に思っている。
彼……タマキがいなかったら、今の自分はいないのだから。
そんな彼への想いを恋と思った時期もある。
強く憧れて焦がれたこともある。
だけど──。
自分の過去を打ち明けた時、彼に指摘された一言。
『カゲミツはオミのことが好きだったんだな』
……とっさに言い返せなかった。
そんなことはない。自分が好きなのはお前だと。
……言えなかった。
言いよどんだその時、自分の心の根底に、ずっと存在していた想いに目をむけないわけにはいかなかったから。
掛け違えたまま、置き去りにしてきた想い。
オミへの想いに。
気付かないわけにはいかなくなった。
これは──恋だと。
「ま、華族のお坊ちゃん同士、仲よくやってくれ。同じ諜報班として」
「なっ……お坊ちゃんは余計だ」
「お似合いだぞ」
笑いながら去っていくキヨタカを見送りながら、一体どんな風に顔を合わせればいいんだか、あれこれ考え悩むカゲミツの姿があった。
「というわけで、今日からメンバーの一員として、オミとレイを迎えることになった。よろしく頼む」
「えー。こいつもなの〜」
アラタの露骨な嫌な顔に、レイも負けずに言い返す。
「俺だってお前なんか嫌だけど、カナエがいるから入っただけだ」
「こら、レイ」
カナエにたしなめられて、しゅんとするレイ。
「こちらこそよろしくな」
タマキは明るく二人を迎え入れようとする。
カゲミツはなんと声を掛けようか、言いよどんでいると、オミが口を開いた。
「まさか、こんな風に生きながらえるとは思わなかったけどね。てっきり抹殺されるものと……」
軽々しく死を口にするオミを見て、頭に血が上った。
気が付いたら、手が動いていた。
ガターン。
大きな音を立てて、木製の椅子が倒れ、カゲミツとオミも一緒に倒れ込む。
頬を殴られ、唇が切れたオミが、倒れた状態で不思議そうにカゲミツを見上げた。
「そんな簡単に、死ぬなんて言うな!」
倒れてなお、オミに馬乗りになって、襟元を掴みあげる。
「俺がどれだけの想いをしたと思ってるんだよ」
涙が零れるのをこらえることが出来なかった。
想いが溢れる。
こんなに、彼の事を求めていることに気付いて、やっとやり直せると思った矢先に。
そんな風に投げやりな言い方をされては、やってられないではないか。
「だって……。カゲミツも俺が憎いでしょ。……お前を殺すようカナエに命令したのも、お前の父親を殺そうとしたのも、その他たくさんの人を殺したのも全部俺なんだよ」
そう言いながら、オミがカゲミツのこめかみに手をやる。
そこは、一年半前に彼がカナエに撃たれた痕が残っていた。
痕を触られて、カゲミツの肩がびくりと震える。
「だったら、なおさら、……そんな簡単に死なせてなんかやらない!」
声が震える。
「カゲミツ…?」
「生きて償えよ……。俺に、親父に……。それから亡くなった人たちの為に」
「一生?」
「一生とは言わない……」
カゲミツは何と言っていいか悩んだ。
オミにずっと生きて欲しい。
これから自分と一緒に生きてほしい。
それは、今まで彼と出来なかった事を埋めるためでもあった。
そして、それらを埋めてなお、これからも変わらずその気持ちを伝えていきたい。
贖罪の為だけに自分に縛り付けたいのではない。
いつまでも、そんな思いに縛られて欲しくもない。
「お前が、自分の罪の意識に苛まれることなく生きていけるようになるまで。…その後は自由に生きればいい」
「お前への罪の意識が消えることなんてないかもしれない……」
「……そんなの…まっさきに消してしまえ……」
手はまだなお、カゲミツのこめかみを撫でている。
「けど……それ以外の贖罪を果たすことができたら……。好きなことをしていいかな?」
「何?」
「カゲミツの為に生きてもいい?」
「…なっ」
「ずっと、一緒に生きたいんだ。カゲミツと一緒に。……昔からの望みだったんだよ」
「オミ…」
「……ダメかな?」
自分が、オミと一緒に生きたいと思ってるように、オミも自分とそんなふうに生きたいと思ってくれるなんて。
それ以上の幸せがあるだろうか。
「……ダメじゃ……。ない……。俺も、そうしたい」
「じゃあ……。ここに誓うよ」
オミの両手がカゲミツの後頭部に回される。
「…え…?」
そして、そのまま引き寄せられて、口付けられる。
「ん……っ………っって! 何すんだ!」
思わず、飛び起きるカゲミツにオミが微笑む。
「誓いのキス」
「ばっ……」
はっと、周りを見ると、みんなが微笑みながら拍手で二人を祝福している。
「よかったな、カゲミツ。お前も幸せになれそうで」
ヒカルがそう言って笑いかけると、
「カゲミツ、幸せにな」
とタマキも微笑んでいる。
「あーっ……」
そして、今更のように、彼にはとっくにこの想いがバレていることに思い当たる。
ここでジタバタしてもしかたない!
「みんな。ありがとなっ!!」
カゲミツは、顔を真っ赤にしながら、やけくそのように叫んだ。
幸福で胸がいっぱいになりながら……。
(fin.)
潮様に捧げます!
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