To Be With You
(タマ←カゲ・DC1第3話後)
最近、一人でいる時間が無性に淋しく感じる。
孤独には慣れていたはずなのに。
「独りでいるなんて・・・寂しいじゃんか」
タマキの台詞が蘇る。
・・・そうだな。寂しい。
『・・・それじゃあ、寂しいだろ』
もうひとつの苦い記憶が蘇る。
周りの人間が、誰一人信じられなくて、拒絶していた自分にただひとつ、差し伸べられた手。
失って、初めて気づいた友情。
あの時感じた寂寥感は嘘じゃない。
だけど、その時以上に募る感情を。
あの時になかったこの感情を。
今は、はっきり自覚している。
なぜ、こんなに寂しいのか。
それは、きっと相手がタマキだから。
こんな風に自覚させられのはお前のせいだ。
好きな奴が出来たから、感じるようになったんだと・・・思う。
お前のいない寂しさを・・・。
To Be With You
「ええい。くそっ」
一人で、パソコンに向かいながら、悪態をつく。
新しいハッキングのプログラムに奮闘するものの、行き詰ってしまった。
勤務時間ではないが、思いついたら試してみたくて、ついつい深夜までいろいろ作業してしまう。
(やはり、ヒカルがいないときついな・・・)
カゲミツは、一人ゴチながら、ワゴンのシートにもたれかかった。
諜報の仕事をするのに便利な機材一式と、パソコンと、フリップベッドの置かれたワゴン車の中。
いつもはヒカルと一緒に、作業したり、くだらない話をしながらラブホの盗聴などしているカゲミツだが、さすがに一人の時は、盗聴も面白くない。
それに、ヒカルが大人の時間を過ごしているということは、隣のラブホテルから彼らの声を拾いかねない。そいつはごめんをこうむる。
(キヨタカのサドっぷりなんて、聞きたくもねーし。・・・つか、そんなこと想像したくもねーや)
思わず頭を振りながら、想像を打ち消す。
(しかし・・・。いつもお熱い事で・・・)
こうも頻繁に逢瀬に出かけるヒカルが正直うらやましい。
バンプアップでも、ほぼ公認の親密さだ。気づいてないのはタマキくらいだろう。
(いやいや、今突っ込むところはそこじゃなくて・・・)
タマキのことに脱線しがちな考えを戻す。
(両想いなのにな・・・)
別々に暮らすなんて。
自分が、タマキと両思いになったら、絶対離れてなんて過ごせないと思う。
いつも一緒にいたい。
寝ている時も、起きてるときも。
片想い今の状態でさえ、そんな思いでいっぱいなのに。
両想いになれて、離れるなんて想像も出来ない。
今度ヒカルに聞いてみようかな・・・。
「なあ、ヒカル」
カゲミツが躊躇いながら声をかける。
夜半過ぎに帰ってきたヒカルは、ワゴンに入るなりベッドに倒れこんだ。
「何?」
情事の後の気だるそうな様子で、顔だけこちらに向けながら、ヒカルが応えた。
「前から思ってたんだけど、お前ら両思いなのになんで、一緒に暮らしたりしないんだ?」
「・・・いろいろ理由があるけどさ。第一の理由は、キヨタカに守ってもらう生活は御免だし、ちゃんと独り立ちしたいってことかな」
「なんで、一緒に暮らすことが『守ってもらう』ことになるんだ? お互い守り守られ、助け合うのは理想じゃないか。俺なんかタマキに守ってもらえたら超嬉しいけど?」
諜報と実行部隊と間柄のせいか、守られることにあまり違和感を感じない。
後方から援護し、実戦面で守られる。対等な関係が好きだ。
「・・・守られって・・・。キヨタカが守られる事を喜ぶようなタマに見えるかよ」
「うーん・・・」
確かに、キヨタカには似合わないかもしれない。
「それに、それだけじゃないぞ。SEXだって、こっちが受身一辺倒なんだぞ」
「そ、それは仕方がないような。ネコのキヨタカなんか想像もできない」
またもや、想像したくないことを想像しそうになって、必死に考えまいとする。
「他人事だと思って。もしお前が、受身の立場になったらどうなんだよ」
「えっ、俺がタマキに? ・・・それってタマキが俺に欲情して勃つって事で・・・」
欲望の滲んだ瞳で、タマキが自分に迫ってくるシーンを思い浮かべて、急速に顔が火照ってくる。顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「いや、それはそれで嬉しいような・・・。いや、でも・・・しかし」
ひとりで想像してジタバタしている。
カゲミツのうぶな反応は面白いが、どうも深刻さに掛けるというか、こっちの真意が伝わってないというか。
「ほんと大変なんだぞ。それでなくてもキヨタカは、ところかまわずちょっかい出してくるし、とんでもないことさせるし・・・。一緒に暮らしていたら身が持たないんだよ」
さらに言い募ろうとしたヒカルだが・・・。
「・・・おい、聞いてるのか?」
返事のないカゲミツを見てみれば、
「俺が犯られるってこと? ええーっ。無理だよな、絶対無理・・・」
パニックに陥ってて、聞いちゃいなかった。
「・・・」
(別に、いいけどね。どっちがタチでも)
「ただ、カゲミツがタチをする気なら、もうちょっと鍛えろよ・・・。お前のほうが生っちょろいし、筋肉ないし」
「え、嘘っ」
正気に返ったものの絶句するカゲミツ。
自分の腕を見つめながら、考え込む。
そして。
一緒に暮らす前に、まずは筋力をつけよう――と決意したカゲミツだった。
(END)
2010/02/15
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