微睡みの庭
(カゲミツ BAD END後)
ここはとても居心地がよい場所だった。
不安や恐怖や悲しみをすべて締め出した、安全な場所。
ここに居る限り、カナエの生を信じることが出来た。
現実で、絶望の中のほんの少しの希望にすがりながら生きていくより、夢の中で幸福に満たされたかった。
ここならずっとカナエの迎えを待ち続けることが出来る。
夢の中で微睡んでいられる。
ここに居る限り、傷つくことはない──。
でも、待っても待っても現れないカナエに寂しくなることがあった。
心細くて、体がだんだん冷えて、心まで凍えていくような感覚に襲われる。
そんな時、俺の手を取ってくれるのはカゲミツだった。
カゲミツの温かい手が、俺の手を握ってくれる。
その温もりは、冷えた指先から徐々に心まで染み込んできた。
人の肌の温もりに、安堵した──。
カナエの生死を正面から見つめることが出来ず、夢の中で生きることを選びながら……
カゲミツの温もりも捨てることも出来ない。
自分の心はやれない。なのに、あいつを自分に縛り付けるなんて。
俺は、卑怯だ。
手放せない。
手放したくない。
あの腕の中で守られながら、
微睡みの世界で、……たゆたっていたい。
(おまえが何もわからないふりして言うセリフの一つ一つが、どれだけあいつを傷つけてるかわかってるのかよ)
ヒカルの言葉が胸を刺す──。
自分がどれだけカゲミツを傷つけてるかということは、嫌というほど解ってる。
心無い言葉や、笑顔も、すべて自分の心を守るための盾だった。
だけど仮面が剥され、自分の卑劣さを目の当たりにした今──。
これ以上、偽る自信が……なかった。
決別を告げる時が来たのだと思った。
2010/07/14
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