全てを君に
(カゲミツ BITTER END後)
俺がワゴンを飛び出すと、ワゴンのドアの前にタマキが立っていた。
「あっ」
突然開いたドアに驚いたように見上げるタマキ。
「タマキ!?」
俺も、タマキの来訪に驚かされる。
「俺…カゲミツに話がしたくて」
「お、俺も。今からタマキのところに行くところだった…」
「あの…」
「俺…」
同時に話そうとして、互いに顔を見合わせる。
「立ち話もなんだし、…入らないか?」
「ああ」
俺は、ワゴンにタマキを招き入れた。
* * * *
缶コーヒーを手渡して、タマキとならんでシートに腰を降ろす。
どう切り出そうか迷う。
互いに缶コーヒーを握り締めながら、前を向いて俯いたままだ。
俺が、話を切り出そうとする前に、タマキが先に口を開いた。
「ごめん。カゲミツ!」
タマキが俯きながら、苦しい息を絞り出すような声で言った。
「タマキ?」
思わずそちらを見る。
タマキは少し顔をあげ、俺と目が合うとまた、辛そうに目を逸らした。
「俺…。お前に酷い事して」
「……」
「嫌がるお前に無理やりあんなこと」
「……」
「ほんと、ごめん。謝って許される事じゃないけど」
「いや…俺こそ。ごめん」
「……なんで、カゲミツが謝るんだよ」
思わずこちらを見つめるタマキに、俺は反対に目を伏せた。
「ちゃんと受け入れられなくて…」
「ばっ…馬鹿野郎。あんな無理やりを受け入れられるわけないだろう」
「でも…。もっとお前を理解していたら受け入れられた」
「な…」
「あの時は、理解も覚悟もなく…お前の隙に付け入ろうとした」
「……」
「だから、俺のほうこそごめん」
「理解って?」
タマキが不思議そうに見つめる。
「お前が、カナエに振られて…苦しんでるのをちゃんと理解していなかった。まだ好きなのに……。彼らを見なきゃならないなんて…。そういう気持ち、俺が一番知ってたはずなのにな」
「……」
「そんな、2人が隣に住んで、愛し合う姿見せつけられて…。ほんと、俺なら気が狂うよ。……なのに、お前はずっと耐えてたんだな」
「……」
「辛かっただろう」
「……うん」
「気付いてやれなくてごめん」
「ううん。……お前が俺を想ってそばにいてくれたから。救われてた」
「…そ、そうか」
「うん。……だから、お前に甘えてしまいたかった」
「甘えてくれればいいよ」
「…甘えてたよ。しょちゅう一緒にいただろ」
「あ……うん」
「だけど、それが甘えだけでなく…好きって気持ちに気づいてしまって」
「え…」
「そしたら不安になった」
「…?」
「お前がどれくらい俺を好きでいてくれるか。……心変わりしないでいてくれるか。カナエみたいに去ってしまわないか」
「タマキ」
「そう、思ったら不安で不安で…」
「……」
「もう捨てられるのは嫌だ。俺を愛してくれるのなら全部じゃなきゃ嫌だ…。そうでないのならいっそ無しにでもしてしまいたい……」
「……」
「そんな気持ちで、お前を……。ごめん」
俯くタマキを見つめる。
手元の缶コーヒーは、開けられぬまますっかりぬるくなっていた。
俺はそっと、互いのコーヒーをサイドボードに置くと、タマキの手を取った。
「全部やるよ」
「カゲミツ…」
「俺の全部、お前にやる」
そう言いながら、タマキをぎゅっと抱き寄せる。
「だから、もう不安にならないでくれ」
「カゲミツ」
お互い、顔を見合わせてキスをした。
それから、きつく抱きしめ合って、今度はより激しい口付けを交わしていく。
「もう一度、カゲミツをくれる?」
「一度と言わず、何度でも……」
そう言いながら、互いの服を剥いでいく。
激しく求めあいながら、今度は心まで貪りあう。
「ん…っ…カゲミツ…。愛してる」
「…俺も…愛してる…」
「俺も、愛して……」
「いいよ……」
タマキの懇願に、今度はタマキの中を溶かしていく。
「……っあ……くっ」
「タマキっ…」
愛し、愛され、お互いの中で何度ものぼりつめながら……。
疲れ果てるまで抱き合った。
結局、5日目も欠勤する羽目になるのだけど…(余談)
2010/07/08
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