全て受け入れろ
(カゲミツ BITTER END後)
カゲミツが高熱を出して、三日経つ。
譫言のように繰り返す、「タマキ…やめ…」という言葉。
極端な、接触嫌悪。
それから、着替える時に見える、体中の赤い痕跡。
これで、なにがあったかわからないほうが嘘だ。
(タマキの奴、許せねぇ──)
俺は、カゲミツの汗を拭ってやりながら、キリと唇を噛みしめた。
「一体、どんなひどい抱き方したんだよ。お前」
いてもたってもいられなくなったのは、その日の夜。
カゲミツが、寝付いたのを見計らってタマキの部屋に押しかけた。
「どんなって…。別に普通だ。……初めてだって言うから、懇切丁寧にほぐして、これ以上ないくらい優しく抱いてやったよ。なんなら実践してやろうか?」
そう言いはなつタマキはいつになく黒くて、だが男っぽい気がした。
「って、そもそもなんで、お前がタチなんだよ」
「俺が抱きたかったから。カナエに振られてむしゃくしゃしてたし…」
いとも平然と言う。
「そんな理由で抱かれる身になってみろ。カゲミツも同意したわけじゃないだろ」
あのうなされ方は絶対、無理やりに決まってる。
まくしたてる俺を冷めた目で見ながらタマキが答えた。
「そもそも、レイに当てられたと言う話したら、じゃあ俺たちも付き合わないかと言い出したのあいつなんだぜ」
「そりゃ、抱かれるなんて夢にも思ってないだろうからさ」
「じゃ、失恋した慰めに抱かれるのはOKで、抱くのはNGだとでも言うのか? どういう理屈だよ!」
…確かにタマキの言い分も解らないではないが…。
「…抱かれる時は、誰だって自分を愛してくれる相手を望むさ」
「はっ…どんだけ乙女だよ」
「タマキ…」
タマキのいらだった口調に、なんだか救われた気がした。
解ってしまった。
こいつ、カゲミツが好きで…。
そんで、自分を受け入れられないカゲミツに苛立ってるんだ。
「あー、でも、俺は乙女じゃないからな…。気晴らしでも、お前に抱かれてもいいぜ。そのこれ以上ないくらい優しく抱いてくれよ」
からかい半分で挑発してみる。
タマキが、俺を驚きの目で見つめ……そのまま黙り込む。
それから、眉間にしわを寄せて、一言絞り出した。
「…無理」
「どうして?」
「いくら、慰めて欲しいからって、好きでもない相手に勃つほど酔狂じゃない」
「……じゃ、カゲミツにもちゃんと好きだって言ってやれよ」
「嫌だ!」
「ターマーキー…」
駄々っ子に諭すように呼びかける。
「そんなんじゃ、気持ち通じないだろ…」
「カゲミツが抱きたいっていうなら、抱かれてもいいさ。だけど、あいつだって俺に全部くれなきゃ嫌だ」
「……」
「三日も寝込むほどの拒否られようがショックだ…」
「……」
「失恋した痛手ごと受け入れられないなら、手を出そうなんて思うなよ…」
「……」
「俺のすべてを受け入れられないで、俺を手に入れようなんて思うな…」
「……」
「カゲミツなんか…大っ……」
なんか、一生懸命言い募るので、思わず黙って聞いてしまったけど。
ここにきて言い澱むのが可愛いくて、噴きそうになるのをこらえる。
「嫌いにはなれないんだろう?」
「…うっ」
「覚悟のないカゲミツもカゲミツだけど、ちゃんと言わないお前もお前だよ。お互い様だ」
「……」
これ以上何か言うのは野暮な気がしたから。
俺は、タマキの頭をポンと軽く叩いてから……。
部屋を出ることにした。
2010.7.5
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