今夜は忘れさせて
(DC1キヨタカEND・キヨヒカ前提カゲヒカ)
「マスター。おかわり〜」
崩れそうになる体を、肘で支えながら、ヒカルがグラスを上げた。
「ヒカル。そろそろ止めたほうがいいんじゃないか」
マスタ―が心配そうに声を掛ける。
「まだまだ〜。全然、酔っれませーん」
そういう、セリフは呂律が回ってない。
「飲んでも飲んでも酔えない〜。もっと飲まなきゃ〜」
「はやいとこ、カゲミツに頼もう…」
マスターはカゲミツの携帯に連絡を入れた。
* * *
「ヒカル…大丈夫かよ」
ほどなくして、カゲミツが上がってきた。
「ほら、行くぞ」
「嫌だ。まだ飲む〜」
「もうやめておけ。べろべろに酔ってるじゃないか」
「酔ってるか〜? けど、忘れられない〜」
「さっさと寝れば、考える必要もなくなるさ」
「キヨタカ…なんでタマキと…」
今度は、泣きだした。
「と、とにかく、ワゴン戻ろう」
ヒカルを肩に担いで、地下の駐車場に下りる。
なんとか、ワゴンまでたどり着くと、ヒカルをシートに横たえる。
「ほら…さっさと寝ろ」
「寝られないんだ。嫌なことばかり考えて…」
「嫌なこと?」
「キヨタカが、今頃どんなふうに、タマキを抱いてるかとかさ…。考えたくもないのに想像しちまう」
「……」
そうか。今日は、キヨタカのところにタマキが泊まってるのか。
…カゲミツも嫌な想像をしてしまった。
「なあ、カゲミツ。俺に忘れさせてくれよ…。何も考えられないくらい…メチャメチャにして」
ヒカルが腕を伸ばしてくる。
「ヒカル…」
「今夜だけでいいから…どうせ、俺酔ってるし。明日には忘れるからさ」
懇願する表情が切ない。
ヒカルの気持ちが痛いほどわかる。
カゲミツも同じ気持ちだったから。
それに…。ヒカルの事は嫌いじゃない。
二人して、同じ気持ちを抱いて、切ない夜を過ごすよりは、抱きしめ合って忘れるのもいいかもしれない。
「わかった……」
カゲミツは、ヒカルに抱き寄せられるままに、覆いかぶさり、唇を重ねた。
ヒカルの唇が、薄く開く。
カゲミツは、求められるままに、舌を差し入れた。
「…んっ……ふっ………」
カゲミツの、巧みな口付けに、ヒカルが反応する。
この感覚…知っている。
「はぁ…っ。…今、マジで火が付いた」
「うん?」
「もっと……もっとして……」
そのまま、二人、貪るように抱き合った。
互いの心の隙間を埋めるように……。
* * *
──ヒカルが、疲れ果てて、眠ってしまった後も、カゲミツは眠れなかった。
ワゴンの外で、火照った体を冷ます。
体は熱いのに、頭の中は妙に冴えている。
(…俺、もう戻れない気がする…)
キヨタカにはメールを入れておいた。
『ヒカルを抱いた。
もう、お前には渡さない』
なるべくして、なったのかもしれない。
そんな気がした。
カツン カツン──。
靴音が、地下駐車場に響く。
顔を上げると、息を切らしたキヨタカが目に入った。
よほど急いでやってきたのだろう。
シャツが乱れている。
「お姫様を置き去りにして、こんなところに来てていいのかよ」
カゲミツが、冷たく言い放つ。
「タマキは疲れて、朝まで目覚めないだろう」
「どんだけ、激しい事やったんだよ…」
「ヒカルは…?」
「ヒカルも疲れて寝てるぜ」
俺は挑発的に答えた。
怒りすぎてキヨタカの表情が無くなっている。
「…ヒカルには手を出すなとあれほど言っただろう」
「タマキに手を出した奴が何言ってやがんだ」
「どちらも本気だ」
「誰もがお前の価値観受け入れると思ったら大間違いだ」
俺は、吐き捨てるようにいった。
どこの誰が、好きなやつに二股かけられて喜ぶというんだ。
「これ以上ヒカルを悲しませるなら、お前には任せられない。ヒカルは俺がもらう」
「お前は、タマキが好きなんじゃないのか?」
キヨタカが俺の本心を探るように訊ねる。
「タマキに幸せになって欲しい。だけど、ヒカルだって俺だって幸せになりたい。俺、ヒカルの事が好きだ。伊達や酔狂で抱いたんじゃない!」
思わず叫ぶように言う。
「カゲミツ…誰と話してるんだ…」
俺の声に目を覚ました、ヒカルが下りてくる。
「キヨタカ」
「ヒカル…帰るぞ」
「な…。何言ってるんだお前」
キヨタカは俺を無視してヒカルの腕を掴む。
ヒカルは、その腕を辛そうな表情で振りほどく。
「嫌だ。お前のところに帰らない」
「戻ってくれ、俺にはお前が必要だ」
キヨタカは、もう一度ヒカルの腕を掴むと強引に抱き寄せた。
「だって、お前にはタマキがいるじゃないか」
「お前も必要なんだ」
「っ…」
「お前も、タマキも、俺には必要なんだ。…なのに、お前を一人にして悪かった。もう、一人にはさせないから。…一緒に帰ろう」
「キヨタカ……」
ヒカルの目から涙があふれる。
そのまま、キヨタカにしがみ付いた。
「お……。おい、お前それでいいのかよ」
カゲミツが、驚愕の表情で尋ねる。
「うん。いいんだ。一緒に居られるなら」
「じゃ、そういう事だから、ワゴン生活はこれで終わりだ。わかったな、カゲミツ」
「な……」
そのまま立ち去る二人を、カゲミツは呆然と見ていた──。
後日、ヒカルに
「あの時、火のついた原因分かった。カゲミツのキスって、キヨタカのとそっくりなんだ」
と、告げられるが──。
それは、また、別の話である。
2010/04/16
(オスロさんからのリクエスト)
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