欲しいものは一つ
(オミ×カゲ・DC2第4話)
石油ターミナルの任務の後、俺は医務室で手当てを受けていた。
今頃制御室は、バックアップの復旧や、ウイルス侵入経路の探索で、てんやわんやな状態になってるだろう。
だが、俺はヒカルの「お前はいいから帰れ。俺一人で十分だから」という言葉に甘えて、このまま帰ることにした。
実行部隊はすでに、ヘリで戻ってるはずだ。
俺は、どうやって帰ろうか思案しながら、建物の外に出た。
「J部隊の方ですか?」
横から声を掛けられてそちらを見ると、パトカーの前に制服の警官が立っていた。
「ああ…。そうだけど?」
「隊長から、車でお送りするよう言付かっています」
キヨタカが手配してくれたのか…。
「あ、サンキュ」
そのままパトカーに乗り込む。
「えー。どこの所属?」
警官に話しかける。制服までこの件に駆り出されてたっけ?
「湾岸署の所轄です。青島と言います」
「そう…」
「…ってそこ、突っ込むところなんだけど…」
警官が、呆れたような声で言った。
「え?」
聞き覚えのある声。今までの口調とはがらりと変わって砕けた言い方。
振り向いた警官が、目深にかぶっていた帽子を上にあげる。
今まで顔が隠れていて気付かなかったが、そこには見覚えのある顔があった。
「まさか、オミ?」
「もうちょっと、早く気付いてくれない?」
プシューという音と共に、顔にガスを吹き付けられた。
「うっ…」
息を止める間もなく、吸い込んでしまう。
体が…痺れて動かない。
「逃げられたら面倒だからね。しばらくそうしていてよ」
そういいながら、オミは発車させた。
車は、湾岸から首都に向かって走り出した。
「なんで…こんなこと?」
「んー。ズタズタになったお前の顔を拝むため?」
「…なっ……」
「それに単独のお前を捕まえたかったしね…」
「一人になるところを狙ったっていうのか?」
「そう。実際リニットには、いい仕事をしてもらったよ。こう都合よくいくとは思わなかった」
やっぱり、あの狙撃はカナエか──。
「これも…お前の復讐のうちなのか…」
「……」
俺の、こんな姿を見るのがお前の望みなのか──。
確かに、お前には恨まれて仕方のないことをした。
だけど、このままで終わらせたくない。
どうやっていいかわからないけど、ずっと償いたいと思っていた。
(──俺はそいつを探し出す。)
(──それからいっぱい謝って、自分に出来ることを探すよ。)
タマキに言われた言葉を思い出す。
そうだ、探す手間が省けたと思えば、ラッキーじゃないか。
今出来ることを…。しようと思った。
「オミ…こんなこと止めろ。復讐なんかしても意味がない」
「……」
「俺…。ずっと、お前に謝りたかった。あの時友達になってたらって…ずっと後悔してた。…今でもそう思ってる。だから、俺の出来ることなら何でもするから」
だから、許してほしいっていうのは虫が良すぎるかもしれないけど。
俺はそう言うしかなかった。
「へえ…。何でもしてくれるんだ?」
オミの声のトーンが、下がったような気がした。
…なにか、気に入らない言い方してしまったのだろうか?
「じゃあ、俺のものになってよ」
「なっ…」
オミは急停車させると、こちらを振り向く。
「…単に、顔を拝んだら返してやろうと思っていたのに。そんなこと言われたら返せないじゃないか」
「どういう意味だよ?」
オミはシートを倒して身を乗り出した。
こっちに腕を伸ばしてくる。手が頬に触れる。
そのまま、口付けされた。
「こういう意味だよ…」
俺はまだ痺れて身動きが取れず、されるままになっていた。
「ズタズタになったお前の顔を拝むなんて嘘だよ。──本当はカゲミツに会いたかっただけなんだ」
切ない表情を見せるオミに、俺は言葉を失った。
オミが俺を好きってこと?
恨まれてるはずだと思っていた相手に告げられた言葉は俺の想像の範疇を超えていた。
ずっと、友達になりたかった。失って初めてお前の事が好きだと気付いた。
だけど、それは──。
「ごめん。俺…お前のものにはなれない。好きだけど、そういう意味じゃないから…。」
「ふ−ん…。なんでもするって言ったその口でそういう事言うんだ」
「仮に体はやれても、心はやれない」
オミの表情が険しくなる。
「誰だい。君の心を占めているやつは」
「……それは…」
「ま、聞かなくてもわかってるけどね」
「え…」
何故? と聞く前に、もう一度口を塞がれる。
今度は、激しい口付けで息もつげない。
「んっ……」
そのままオミの手が、つなぎの上を伝っていく。
「じゃあ、体だけでもいただくことにするよ」
つなぎのファスナーを下ろす。
するりと手が差し込まれ、胸の上を撫ぜていく。
「オミ…」
「ふふ…もっと呼んで。カゲミツにずっと、名前呼ばれたかったんだ…」
「オミ…あっ…」
そのまま俺は、オミにされるがままになって、奴に抱かれた。
他にどうする術も見つからなかった。
何度も貫かれて、最後には意識を失って──。
気が付いたら、オミは去った後だった。
(──それからいっぱい謝って、自分に出来ることを探すよ。)
俺に出来ることを探さなければ。
これからも…。
痛む体を起こして、ため息をつく。
実際、どうしたらいいのかわからなくて混乱して、途方に暮れている。
俺の出来ることって一体なんだろう。
「帰らなきゃ…」
俺は、痛む体と足を引きずりながら──。
寂びれたスラムの裏道を、歩き出した。
2010/04/13
(扇夏さんからのリクエスト)
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