手を伸ばせば…
(DC2 カナ→タマ)
手を伸ばせば、すぐそこに君はいるのに。
俺は、君をさらって逃げ出すこともできない。
君をまた、あの逃避行に誘うことはできない。
あの逃げ続ける日々──。
追手にいつも目を光らせ、物音一つに怯え、精神を疲弊していく日々。
追いつかれ、銃撃戦にもつれこむことも一度や二度じゃなかった。
目の前で君が死ぬかもしれない恐怖。君を失う恐怖。
俺はそんな恐怖にはもう耐えきれなくなってたんだ。
あの時崖から落ちるときに感じたのは、それから解放される安堵の気持ちだったかもしれない。
このまま君と一緒に死ねれば…。
だけどその願いが叶うことはなかった。
今、君がこうして生きていて。
J部隊に戻って、みんなに守られて過ごしている状況は、どんなに幸せか…。
たとえ、俺がそばにいられなくても。
たとえ、君が俺を覚えていなくても。
君を失うことは、決してないから。
君が、もし記憶を取り戻したらこんな俺を見て怒るかもしれない。
君に触れることも抱きしめることも出来きない状況は失ってる状態とどう違うかと、問われるかもしれない。
「一緒に居るためならそれくらい耐えろ」
って一喝されるかもしれないね。
もし、そんなこと言われたら、俺の事だからすぐに「わかった」とか言っちゃいそうで怖い。
しんどいのわかってても、やっぱり君と居たくなるから。
抱きしめたくなるから。
君にまた死と隣り合わせの逃避行を選ばせてしまうことになるのに。
そんな目には合わせたくないのに。
って。
そんなもしも…の話で悩む俺って馬鹿だね。
今の君は、不安定な記憶を抱えて、心細い日々を送ってると思う。
そんな君が俺と会うのは、はっきり言って危険だ。
もし、記憶が戻ったら…?
期待と不安が交錯する。
危険だとわかってるのにまた会いたい。
触れたい。
キスしたい。
抱きしめたい。
記憶がない君が、俺に好意を抱いてくれるのが、嬉しくて苦しくて。
もうどうしたらいいのかわからない俺がいる。
今度会った時は…。
2010/04/01
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