第八幕 誘惑
タマキが捕まってからの、上層部からの要請は凄かった。
「さっさと引き渡せ」だの。
「尋問しろ」だの。
いくらなんでも、重症人を掴まえてそれはあんまりなんじゃないかと、カゲミツは思った。もちろん他のみんなも。
キヨタカがのらりくらりと、それらの攻撃をかわしていたものの、業を煮やした役人が数名、病室まで乗り込んできた。
「お前たちでは埒が明かん。こちらでさせてもらう」
同席しようとした、俺たちを拒否して……。
上層部の人間だけがタマキの病室に入っていく。
そして数十分後──。
けたたましい叫び声に、飛び込んでみれば……。
局部を血で真っ赤にして、のたうちまわっている理事官と、
タマキを殴りつけている管理官。
そして、殴りつけられベッドから転がり落ちながらも、不敵に笑うタマキの姿。
そして、その口からは血が滴り落ちていた。
「いったい、あなたの部下はなにしに来たんだか……」
「その件については返す言葉もない」
銀縁眼鏡の上司も、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「タマキについて処置は?」
「今回のことについては不問に。……この件は秘密裏に」
キヨタカは内心ホッとしながら頷いた。
「まあ、公に出来るような内容じゃありませんからね」
「今後の対応はすべてそちらに任す」
「了解です」
「しかし、こちらの要求していることはすべて呑むこと。情報を得る為には拷問も辞さない覚悟で」
「………わかりました」
キヨタカが上層部へ呼び出されていたその時。
J部隊は、解散を言い渡され、それぞれ帰途についていた。
明日のミーティングまで具体的な対応をすることも出来ず、みんなそれぞれにタマキを案じながら。
しかし、カゲミツは一人病室に向かった。
こんな状態のタマキを放ってはおけない。
そんな思いを抱きながら──。
病室の前には見張りが1人置かれていた。
J部隊の人間だと分かってるので、特に言われることもなく中に入ることが出来た。
病室では拘束具で身体を固定されたタマキが横たわっている。
「よう、カゲミツか」
こちらに気付いてタマキが顔を向ける。
顔色が悪い。
……あの時、殴られたのだろう。頬にもあざが付いている。
「タマキ……大丈夫か?」
「大丈夫じゃない。……気分悪い」
「……」
カゲミツは自分の間抜けた問いに、歯噛みしたくなった。
「でも、まあ。カゲミツが気分良くしてくれるならいいよ」
「え?」
「こっちこいよ……」
そう言いながら、蠱惑的な微笑を浮かべるタマキに。
カゲミツは釘付けになる。
痛々しくて、胸はこんなに苦しいのに。
それでも、胸の動悸が高まる。
カゲミツは、乞われるままに傍に寄っていった。
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