第七幕 入院
その後の敵からの襲撃はなく、狙撃地点と思われるビルにA部隊が向かったがもぬけの殻だった。
カゲミツと入れ替わっていたイチジョウ侯爵も無事国会に送り届けられ、そちらは引き続き警護されることになった。
タマキ他、負傷者は病院に搬送された。
キヨタカは申し送りと報告に、トキオは現場に残ることになったので、病院へはカゲミツが同伴していった。
任務の交代をしてから、他のJ部隊のみんなが病院に集まる。
「タマキの容態は…?」
キヨタカが声を掛ける。
病室でタマキのベッドの横に座るカゲミツは、泣き笑いのような顔を上げながら答えた。
「…弾が肋骨に当たって心臓から逸れた。骨折はしたけど、命に別状はないって…」
みんなそれを聞いてひとまずほっとする。
右側胸部の第7肋骨が骨折し、そこに、射入口と思われる銃創があり、左側胸部の皮下に弾丸があった。つまり、右側胸部から入った弾丸が、胸部を横方向にほぼ水平に入ったのだ。心臓に近いところを弾丸が通り抜けたことは間違いない。
そして、重体であることも…。
「よく頑張ったな…」
キヨタカが、カゲミツに近寄ると、頭をかかえ込むように抱き寄せた。
「…俺、タマキを殺してしまうところだった…。足止めするだけでよかったのに」
目の前で、タマキが血を流して倒れてるのを見た時、血の気が引いて、目の前が真っ暗になった。例えようのない恐怖と喪失感に襲われる。タマキが死んで自分は生きてはいけない。
しかも、それを引き起こしたのは自分自身だ。自責の念に駆られる。こんな自分を殺してしまいたい衝動。
「だが、おまえの腕では下手に外そうとすると掠りもしないだろう。…本気で止めようと思ったら狙うしかなかった」
「っ…」
「…こうするしかなかったんだ」
「うっ…」
今まで堪えていたものが耐えきれず、涙が頬を伝う。
改めてタマキが生きている事への安堵を感じ、それから、少しは自責の念から解放される気がした。
「よかったね」
ユウトも声を掛ける。
「タマキを奪還できたしな」
ナオユキもカゲミツを褒めるように言った。
「しかし…この後、タマキはどうなるんだ?」
ヒカルが疑問を投げかける。
「…意識が回復したら…。まず事情聴取になるだろうが」
キヨタカが考えながら答える。
「その後の身の振りは…すんなりとはいかないだろうな」
「………」
少なくとも、今のタマキはJ部隊の人間とはみなされないだろう。
敵に脅されて…とは、どう頑張っても庇いきれない現状だ。
上層部に、どう言い繕うか頭を悩ませる。
そして、意識が戻ったタマキに、それ以上に悩まされる事になろうとは。
この時はまだ思いもよらなかった─。
2010/08/06
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