第六幕 襲撃
イチジョウ邸から、公用のリムジンが出発する。
その前後に、先導車、SPの覆面パトカーが並び、物々しい行列が出来上がる。
リムジンの真ん中に座るイチジョウ侯爵を気づかうように右隣りのトキオが話しかける。
「大丈夫ですよ。米国大統領のザ・ビースト並みです」
左隣からキヨタカも話しかける。
「ロケット弾や化学兵器でも大丈夫ってやつですね」
驚いたような表情でイチジョウ侯爵がキヨタカのほうを見る。
「マジで?…えー、コホン…。公用車でそのような仕様の車を作った覚えはないんだが…」
「あー。それは言い過ぎでした。本当のところは警視庁のS600ロングです。防弾レベルはEN-B7ですから7.62mm NATO弾の徹甲弾頭でも耐えられますよ…あいつが出てきてもね」
意味深な言い方をするトキオを一瞥すると、侯爵は前を向いた。
「それで済めばよいが……コホン」
実際、かのスナイパーはロケットランチャーを平然と撃ち放つような奴だから、何が出てくるかわからないというのが警備側の正直な意見だ。
「あっちは大丈夫なんだろうな」
「それは抜かりない」
「ならばいいんだが…」
とその時、外で大きな爆音がしたかと思うと、車体が揺れた。
真横のビルが爆破されており、爆風でまわりのものが吹っ飛ばされている。
「来る!」
ドアを開けてるやいなや、キヨタカが飛びだしたかと思うと、ドンっと衝撃を受けて、イチジョウ侯爵はトキオに体当たりされたまま外に放り出された。そのままトキオが覆いかぶさったまま地面に伏せる。
その直後に、車の爆音が響いた。
「グレネードランチャーだ!」
「二時の方向だ」
キヨタカが指示を出す。
「侯爵、お怪我は?」
「大丈夫だ」
「あれー。死ななかったんだ」
背後からの声にハッと、身を起こすとそこに立っているのは、黒い服に身を包んだ若い男だった。手には銃を構えて侯爵を狙っている。
「あいつの腕が落ちたのかな」
すこし癖のある黒髪に黒い瞳。小柄で童顔だが、無駄のない筋肉のついたしなやかな身体。ぴったりした服装の為、その体型がよくわかる。
「タマキ!」
思わず叫んでしまった人物をまじまじと見つめ、少し驚いたような表情をしたが、それからニヤリと笑うとそちらに向いて喋り出す。
「おまえが囮になるとはな…カゲミツ。そんなに俺に会いたかったのか?」
パン!
銃声が響いて、タマキの銃がはじけ飛ぶ。トキオの銃が正確にタマキの銃を射抜いていた。
「投降しろ!」
キヨタカも銃を向けて叫ぶ。
「嫌だと言ったら?」
痺れた手をさすりながらタマキが聞いてくる。
「その時は撃つ!」
そう答えたキヨタカの銃が、はじけ飛ぶ。
続けてトキオの銃も正確に射抜かれる。
タマキはその様子を見て満足そうに微笑んで、それから言った。
「…よかった、あいつの腕は落ちてないみたいだ。じゃ囮を殺ってもしかたないから、今日はこのへんにしようか」
手元から手りゅう弾のようなものを取り出して、落とす。
「閃光弾だ」
「行かせるか!」
落とされた瞬間、カゲミツが隠し持っていたグロック17の引き金を引く。
足止めだけでいいんだ…。
だから、最小の傷で…。
そう祈る。
閃光が消えて、視界が戻ってきた時。
目の前に倒れるタマキが真っ先に目に入った。
そして、その胸元は真っ赤に染まっていた───。
2010/07/28
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