第三幕 動揺
カゲミツを抱きかかえてたトキオと、他のメンバーがバンプアップに戻ってくる。
ほどなくカゲミツが目を覚まし…そして、事の顛末を聞いた。
そして、みんなに動揺が走った。
「こっちに来いって…タマキ君が言うなんて」
ユウトが信じられないという表情でつぶやく。
「それ、正気で言ってると思うか?」
ヒカルも確認するように訊ねる。
カゲミツは、苦い表情で首を振る。
「判らない…。少なくとも俺のことはちゃんと認識してたし、自分たちと敵対してるのも分かって言ってると思う。しかし……」
あんな表情のタマキは初めて見た。
妖しく誘うような眼差し。
色っぽい声音と、ちらりと見せる舌先。濡れる唇。
不謹慎だと思いながらもゾクリときた。
もしあんな場面でなければ、自分は落ちてたかもしれない。
だけど、同じくらい激しい違和感を感じて動けなかった。
タマキはそう簡単に寝返ったりしない。
屈したりはしない。
それに、タマキはあんなふうに人を誘ったりはしない。
じゃあ、あのタマキは…。
この事実をどう納得して、折り合いを付ければいいのか。
混乱する自分がいる。
「人はその状況で生きる為に、自分の精神を歪めていく。あまりに酷い目に遭わされてると、自分の壊さざるを得ない」
トキオが淡々と言った。
「俺は今までにそういう人を何人も見てきたよ」
「タマキもそうだっていうのか…」
「たぶん……」
精神が壊れるほどの、酷い目…。
タマキがそんな目に遭ったかと考えただけで、胸が苦しくなる。
そして、そんな目にあわせた奴を、殺してしまいたい衝動に駆られる。
(カナエ…。おまえが付いていながらどうしてこんなことになるんだよ)
カゲミツはギリっと唇を噛みしめる。
口の中に血の味が広がった。
「そういう場合は、どういう対処を?」
キヨタカが訊く。
「応戦中に抵抗すれば射殺。仮に生きたまま確保出来たとしても一生病院に隔離。…復帰するのは難しい」
「だろうな…」
分かりきったことを聞いてしまった、というふうに呟く。
「タマキは…」
カゲミツはキヨタカをすがるような目で見る。
「タマキは絶対殺すような目には合わせないでくれ。生きて治療して…」
「もちろんそのつもりだ」
「キヨタカ…」
安堵の息が漏れる。
「しかし、抵抗されてこっちの身に危険が及べはその限りではない。…それはカゲミツも解ってるな」」
「…ああ」
解ってる。解ってるけど。
タマキに銃を向けられて、果たして自分は彼を撃つことが出来るだろうか。
タマキを拒否することは出来ない。
それは…自分が一番よくわかってる。
だけど、一緒に堕ちることも出来ない。
どうすればいい?
カゲミツは、どうやってタマキを救い出せばいいのか考え続けた。
2010/07/20
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