Project DC 11.5
(DC2パラレル)
キヨタカの家に着いた途端、ヒカルはキヨタカを求めた。
キヨタカとの距離を埋めたかった。
過去の事件のせいで、今更ながらに自分と彼との間にある確執を思い出した。
もうほとんど、忘れていたのに。
まだ終わっていなかったなんて……。
「ごめん……キヨタカ。俺のせいでこんなことになるなんて…」
「『UNK』の事か?」
「うん……。後生大事に、プログラム残しておくんじゃなかった…。さっさと消してしまえばこんなことにならなかったのに」
「だが、これはお前がアンチウイルスを作る為に、必要だったんだろ?」
「うん…」
「『UNK』は実行形式しかない。ソースはとっくに破棄したって言ってたよな」
「そうなんだ…」
「そういうのは…普通、デコンパイルすりゃ済むものではないのか?」
「コンパイラも特殊なものを使ったから…」
「逆アセは…」
「シンボルも抜いたから…」
逆アセ…逆アセンブラは、機械語を理解しやすいアセンブリ言語に変換することだ。
だけど、デバッグシンボル情報を抜いた実行形式は、それは容易なことではない。
「それは……難しいな」
キヨタカは、顔をしかめる。
「キヨタカ…けっこうプログラミング詳しい?」
「そりゃ…伊達に大学4年も行ってないさ」
「…だから、あの時の任務を任されたんだ」
「ああ」
7年前の、政府のコンピュータがサイバーテロに遭った時、対策本部の指揮を任されていたのはキヨタカだった。
そこでヒカルはキヨタカと出会った。
事件の真相が明るみになった後、ヒカルは家を出た。
その後キヨタカのところを頼ってきた。
あの時の、せめてもの罪滅ぼしに作成中していたアンチウイルスは、今回の事件には間に合わなかった。
ほぼ完成していたけど、全く同じものが作れた自信はない。アンチウイルスを作っても、パターンが違う。完全に防げるかどうかは自信がなかった。
もっとも、それはPCが壊されるまでの話だが。
よりによって最新のデータをバックアップする前にこんなことになるとは…。
「……もしかしたらさ。タマキ以上に、俺の方がお前のお荷物になってないか?」
「どうして…?」
「問題児だし…。それなりに監視もされてるんだろう?」
「その件は、一任されている。お前はJ部隊の優秀な諜報部員だ。…それに俺が…」
そう言いながら、キヨタカはヒカルに手を伸ばす。
「お前を……。手放すことなんて出来はしない」
「キヨタカ」
そのまま、抱きすくめられて、口付けを交わす。
再び、火がつきそうになるのを、必死で抑える。
「キヨタカ…。カゲミツが来る……」
「俺は気にしない」
「馬鹿。…それにしても。カゲミツ、おせーな」
「…もしかして、今頃タマキとうまくいってるんじゃないか?」
「まさか」
「…まさか、か…」
「だって、一晩一緒に寝ても手を出さないやつだぜ…」
そう言いながら、何かに思い至ったように口をつぐむ。
「でも…。アイツの存在が…」
「アイツ?」
「あ、いや…。詳しくは後で話すよ…」
(カナエの存在が、カゲミツを脅かすかもしれない)
ヒカルは心の中で密かにそう思った。
2010/05/11
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