Project DC 11
(DC2パラレル)
ロザリオを元の状態に戻した俺は、リビングに戻った。
データが空振りだったことで、落胆と焦燥を感じずにはいられない。
だけど、出来るだけ自然に振る舞わなければ。
タマキがグラスポット片手に、こちらを見た。
「あ。今、呼ぼうと思ってたところ。コーヒー出来たぞ」
「サンキュ」
俺は、席についた。
「…なんもない部屋だろ?」
タマキがコーヒーを注ぎながら訊ねる。
まるで、今のタマキを反映するかのようなうつろな部屋だった。部屋主の個性をまるで感じさせない、お仕着せの仕様で。
「これから、そろえていけばいいさ」
「うん…そうだな」
タマキは、ぎこちなく笑った。
あのなかで、唯一異彩を放ってるのはあのロザリオだが。タマキはロザリオのことをどこまで憶えているのだろう。
「なあ…。サイドテーブルに置いてあったロザリオは……?」
「ああ。あれは…俺が病院に運ばれたときに握りしめていたものらしい。…だけど、誰のものかは思い出せないんだ。…」
「そう…か…」
やはりカナエと逃げる時に、なんらかの形でタマキの手に渡ったものなのだろう。
話題を振っておいて、そのことを聞くのが怖くて、言葉が続かない。
不用意な言葉で余計なことでも思い出させたら…と思うと身がすくむ。
何を馬鹿なこと言ってるんだ俺は。その事調べに来たって言うのに。
「だけど…」
俺が黙っていると、タマキが、その続きを紡ぎ始めた。
「だけど、ロザリオを握った自分が海に落ちたことは覚えているんだ。…血が流れてた。たぶんあの怪我で記憶を失ったんだと思う」
おそらく、海へ転落して、記憶を失うほどの大怪我をしたんだろう。
よく無事で生きていてくれたと、思わずにはいられない。
「…誰かを探していた。…あれは誰の事なんだろう…」
ぎくりと体が強張った。
「何度も、何度も、くりかえしその夢を見るんだ。そのたびに不安になって…」
「……」
…そんな夢、さっさと忘れちまえ。
「カゲミツは…なにか、心当たりある?」
「いや…」
あっても言うつもりはない。
「…なあ…。カゲミツ…もしかして俺は、その誰かと一緒に、逃げ…」
「タマキ!!」
思わず、声を荒げて話を遮る。
「そんなこと思い出さなくてもいい!!」
「カゲミツ…」
「思い出さなくたって、お前はお前だろ。そんでいいじゃないか。」
俺は、かなり悲痛な声で叫んでいたと思う。
タマキはそんな俺をみて、困惑しながらも、自分の考えを確信に変えてしまったに違いない。
「……だけど、やっぱり思い出したい。思い出して、ちゃんとおまえにも謝りたいんだ」
タマキは静かな声でそういった。
「だから…教えてくれないか」
まっすぐに俺を見つめてくる。
そんな瞳で、見つめられたら…逆らえないじゃないか。
たとえ、どんなに苦しくても。辛くても。言わざるを得ない。
「…わかった。…教えるよ」
「カゲミツ…。サンキュ」
「だけど、条件がある」
思わず、言葉を続ける。
「条件?」
タマキが、首をかしげる。
…自分でもいったいどんな条件を言うつもりだ…と、思考の纏まらない頭で言葉を紡ぐ。
「俺…。お前が思い出しても、出ていかないって確信が持ちたい…。お前が俺のものになってくれたら…話してもいい」
言ってしまって愕然とする。
俺、なんて卑怯なこと言ってるんだ。
タマキをそんな形で、留めようだなんて。自分の欲を押し付けて、なんて浅ましい。
罪悪感で、顔を上げることが出来ない。
コーヒーカップを握り締める手が震えて、ソーサーとカップの触れる音がカチカチと響いた。
どれくらいの沈黙が続いただろう。
「…いいよ」
タマキが答えた。
思わず、顔をあげると、真剣な瞳で俺を見つめるタマキと目があった。
2010/04/21
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