目を開けると、白い天井が目に入った。
周りを見回すと、カーテンで囲まれている。
ここ…は…
…ああそうだ。わたしポケモンの世界に来ちゃってるんだった。
06. 嘘?本当?
毛布を簡単に畳んで、カーテンをめくって外に出る。
あ、タブンネいないや。モンスターボールの中なのかな。
「おはよう。よく眠れたようね」
「重ね重ねお世話になってしまってすいません。ベッドありがとうございました。
…あの、もしかして私結構長い時間寝てしまいましたか?」
「あらいいのよ。起こさず寝かせてあげてって言われてるから。」
つまり爆睡していたのか。やってしまった。
部屋に備え付けられた時計を見ると、もう夕食刻をいくばくか過ぎた時間を刻んでいる。
「っえ、も、もうこんな時間なんですか!?」
「あ、そうね。フフ、ここは地下だから時間の感覚が無いでしょう?」
「ハイ……」
寝る前の時間は確認しなかったから覚えて無いものの、3時間くらい寝てたんじゃないのかなこれ…
これからまた色々お話しなくちゃならないのに、あちらの時間は大丈夫なのだろうか。
私のせいで残業とかになってしまったら本当に申し訳ない。
「あ、あの、私実はまだお話とか済ませていなくって…」
「ええ。貴方が目が覚めて落ち着いているようだったら、連絡を入れるように言われているわ。もう大丈夫?」
「はい。お願いします。」
お姉さんが内線で連絡を入れてくれている。
…さぁ、最後の一仕事だ。
でも寝る前に決めた通り、もう警察に行くだけだから結構気が楽だったりする。
「こちらで待つようにとのことよ。迎えに来てくださるらしいわ」
「そうですか、ありがとうございます」
軽く身を整え待っていると、ノボリさんとクダリさんのお二人が迎えに来てくださった。
…のだが。
「…あ、あのぅ…」
「ん?なーに?」
何故か…外へ連れ出されました。
しかも二人は既に私服です。
「…どこにいくんですか?」
「ん?レストランだよ!おなかすいたから!」
「私達のお気に入りの店がこの先にあるのですよ」
「はぁ。」
「ホラはやくいこいこ!」
…いやちょっと待てよオイ。
どういうことなのですかこれは。
「わたくし達に聞きたいことなどおありかと思いますが、話は店で致しませんか?」
「…私、お二人と一緒に駅から出てしまって良かったんですか?」
「それも含めて、お話致しますので」
そう言われたら仕方ない。
レストランまでお二人について行くとしよう。
−−−−−−−−−−
「ハイッ なんでも好きなもの頼んでねナマエ!」
「え、でもわたしお金持ってませんし」
「食事の席で女性に払わせる等、そんな無粋な真似はいたしませんよ。」
わぁ紳士。お冷のみで済ますつもりでおりました。
でもまぁ…奢ってくれると言うならやぶさかではない。いただきます。
と、思いつつ本当に食べたいものより1ランク低い価格帯のものをオーダーしてしまうあたりが悲しい。
だってこのお店高い。フレンチでしたよフレンチ。
悲しきかな、ディナーにフレンチのお店なんか行ったことねーよ。
「では…何からお話しましょうか」
ウェイターにメニューを返しながらノボリさんが言った。
「はぁ、わからないことだらけではあるんですが…
まず、さっきも言ったんですけど、私って無賃乗車だったと思うんですが、駅から出てしまって良かったんですか?」
「え、うん。だってナマエお金盗られちゃったんでしょ?払えないじゃない」
「ええそうです。でも払えないなら出られないですよね。警察呼ぶとか、普通そうなりますよね?」
「警察?ナマエなんか悪いことしたの?」
「…いえ、悪いことは…してないですが」
は、話が噛み合わない。
助けを求めるようにノボリさんに目を向けると、苦笑したような顔で口を挟んだ。
「そんな難しく考えずとも宜しいのですよ。
ナマエ様の乗車賃はクラウド…先程のコガネ訛りの喋り方をする鉄道員が肩代わりしました。」
「えっ」
「わたくし達の妹君であると一方的に勘違いをしてしまったお詫びだそうです。」
「あ、そうだったの?ぼくそれ知らなかった」
えっ、えーーーー!?
クラウドさん?ってさっきの関西弁さんのことだよね多分。
え、でもそんな、そんな勘違いしたってだけでお金……えー?
あ、ありがたいけど、この上なくありがたいけど、いいのかな!?いやもう私駅出ちゃってるから過ぎたことになるんだろうけど!
あああお礼も言えていない…
「そして…
大変申し訳ございませんでした」
「へ?」
突然聞こえた謝罪の言葉に顔を上げると、ノボリさんが椅子からから立ち上がってキッチリ45°に体を折り曲げた最敬礼の姿勢をしていた。
…えっ!?の、ノボリさん何やってんの!?
ちょ、お店の他のお客さんとか見てる見てる見られてる!
「先程は、知らなかったとはいえ、踏み入られたくないであろう事を不躾にもお聞きしてしまいました。
申し訳、ございませんでした。」
「え、え、い、いえそんな…お、お気になさらないでください…!」
私がそう言っても、ノボリさんはふかぶかと頭を下げ、顔を上げてくれない。
待って待って私ノボリさんに何か言われたっけ?
全然記憶にないんだけど…えっと……あ、あーもしかしてあれか?孤児かって言われたアレか?
…いやいやむしろ私今あなた方騙してるので!やめてくださいその優しさが痛い!
現実世界では両親も健在です!小さいころはお父さん似だったのに最近はお母さんに似てきたねぇと実家近所のおばちゃんに言われます!親子の仲も悪くないです!
てゆうかなんかアレだなノボリさん見た目に反して体育会系だな!?
謝り方が熱血過ぎる暑い!
「あの、えっと、平気ですので本当に気にしないで下さい」
「ですがわたくしはわたくしが許せません…」
「…。」
ノボリさんは最敬礼の姿勢を崩そうとしない。
え、え〜?
なんかめんどくさい人だなこの人〜?
「ノボリノボリ、そのへんにしとく。ナマエ困ってるよ。」
「あ、は、はい…」
クダリさんに言われてやっとノボリさんは椅子に腰を下ろした。
クダリさんありがとう…。
「ですが本当に…本当に申し訳ありませんでした。」
「いえもう本当に大丈夫ですので。」
…ノボリさん気にしすぎじゃないかコレ。
そりゃ、女性に泣かれたら申し訳なく感じるかもしれないけど…でもあれは…
…あ。そうか。
ノボリさん自分の発言が原因で私を泣かせてしまったと思ってるのか。
あの時泣いてしまったのはただのパニック障害のせい。
でもそんなことを知らない人たちにはどう映る?
『孤児として育ち、引き取られたものの、家を追い出されたというつらい境遇(ってことにあの場でしてしまった)』を不躾に突きつけられて泣いた。
という様にしか見えなかっただろう。
…なるほど?
…うっ、うわああああ罪悪感パネエエエエエエエエエエエエエエ
ちょ、これはダメだ!アウトだ!人の心を弄んでいる!!
ああああ多分クラウドさんもコレがあったから乗車賃の肩代わりなんてことをして下さったんだ!
あああああああすいませんんんんんんんんんんん
話そう!本当のことを話そう!嘘ですって言おう!!
もう信じてもらえなくても病院送りになっても警察呼ばれてもここで殴られてもなんでもいいや!
人の良心につけこんで騙してるなんて詐欺じゃないか!立派な詐欺じゃないか!
そんな人間になるくらいだったら一文無しで寒空の下にいるほうがナンボかマシだ!!
「っち、違うんです!あれは…!」
「いえ!もう何も仰らないで下さいまし!
わたくし共はもう決めたのです!」
「ほ、本当に違うんです!!ノボリさんが私に謝るようなことは何も無くて…!」
「ふたりともうるさーい。他のお客さんにめいわく。」
「え、あ!ご、ごめんなさい…!」
「っす、すみません…」
クダリさんの声でハッとする。
そうだここは高級フレンチのレストランなんだった。
で、でもこのままにはしておけない。ノボリさん話聞いてよ〜〜
「あの、聞いてください。本当に違うんです。お二人は勘違いなさってるんです。」
「勘違い…でごさいますか?」
「はい」
「そうなの?」
「はい!私は…「ナマエは帰る家もお金もなくて、今日寝るところもないんじゃないの?」
「は…」
「クッ、クダリ!」
あああああ貴方はナマエ様の触れられたくないであろうことをおおおおおおおおとノボリさんがクダリさんの口を塞いでいる。
クダリさんはモゴモゴ言ってる。
『帰る家も、お金も、今日泊まるところもない』 ?
…あれ、今クダリさんが言ったことは間違いじゃないや。
孤児で親戚に引き取られてその家を追い出されたのは嘘だけど、帰れる家もお金も、今日泊まるアテもない。
…あれ?
「ご、ご安心くださいナマエ様!僭越ながらわたくし共、ナマエ様のご宿泊先を都合させて頂きました!」
「へっ!?」
「そ〜!今日はいっしょにねようねナマエ!」
「…はっ!?」
「男二人のむさくるしい家ではございますが!」
…いっしょにねる?
ちょっと待て、どうしてこうなった。
−−−−−−−−−−
クラウドとノボリさんの脳内ではそれはそれは、可哀想を絵に描いたような物語が闊歩しています。
クダリさんは嘘だってなんとなく見抜いてるんですが、あんまり間違ってはないんだろなーと思っています。
なのであんな言い方をしました。
不幸な境遇の瓜二つの人間に出会ったら、なんとなく世話を焼いてしまうと思うんですよね。