「いやもうてっきりボスたちの妹さんだと…ここまで似てるんだから聞くまでもないかと…」

「その気持ちはわかるーほんと、ぼくとノボリにそっくり!」

「ですが確認はしてくださいまし…」

「あ、でもコレはないねコレ。モミアゲ。」









05. 妹疑惑









えーっと、よくわからないんだけども…
どうやら関西弁さんは、この黒白の双子と顔のよく似た私を、この人たちの妹だと思い込んで話を進めていたらしい。
あ、だからさっきお茶出してくれたのか。
ボスとか呼んでるし、制服も他の駅員さんとは違って特徴的なコート着てるし、上司で偉い人なんだろう。若いけど。
上司の妹だと思ったからお茶を出したと。
あ、あと顔見られたのは似てたからか。乗務員室の他の駅員さんの反応もそれか。「似てる」って言ってたもんね。
ふむ、とりあえず納得。


「ねねっ、君名前は?」

「あ、えっとナマエです」

「そっか〜あのね、ぼくクダリ。それでこっちが」

「ノボリと申します。」

「は、はじめまして…」


白い方がクダリさん、黒い方がノボリさん…か…。
この双子のご両親はどういうセンスでこの名前にしたんだろう。
忘れはしないがどっちがどっちかごっちゃになりそうだな。
ノボリさん、クダリさん、ノボリさん、クダリさん…
…よし、とりあえず覚えた。


「ね!ナマエはポケモン持ってないの?」


おおぅ初対面で呼び捨て。


「持ってないです」

「えーつまんない!」

「こらクダリ。」

「だってぼくたちと顔そっくりなんだよ?ポケモンすっごく強いかと思ったのに!」


ぷ〜!
クダリさんは頬を膨らませている。
なんか、愉快で可愛い人だな。子供っぽい。クダリさんが弟かな。
黒い方のノボリさんはちょっと仏頂面でクダリさんを窘めていて、お兄さんっぽい。


「あの〜確認なんですけど…本当にボスらの妹さんじゃないんで?」

「ちがうよ!ぼくとノボリ、ふたりっきりのきょうだい。」

「ええ、私達に他の兄弟姉妹はおりません」

「えーそれにしちゃ似すぎてませんか…生き別れの妹とかじゃないんですか」

「…ありえないでしょう。ここまで似ているのであれば片親の子供、というのは考えにくい。
母様が懐妊なさっていた記憶はございませんし」

「ねぇノボリノボリ。それだと他人だってほうがもっとおかしくない?」

「いや、っていうかあの、冗談なんで」


…ヤバイ見ていて面白い。ちょっと無表情保つのつらくなってきた。
ノボリさん、しっかりしているように見えて案外天然とみたぞ。
んでクダリさんは案外鋭い。
この二人がトップの職場って楽しそうだな〜


「ていうかそうですよ、そもそもナマエ様にはナマエ様のご両親がいらっしゃるでしょう。」


あ、ヤバ、話の矛先がこっち来た。
ていうかそうだよ。ノボリさんクダリさんの登場でうやむやになりかけてたけど、わたしこの場乗り切らなくちゃいけないんだった。

えーあーうー…どう答えよう…
あっ、三人の視線が集まってる。そうですよねそうですよねここで黙るの変ですよね。
な、なんでもいいからなんか答えないと…

えっと…



「あ…りょ、両親…ですよね?……

あー、えっと………



い、いませ ん…………」



「「「………」」」


ああーっとこれは失敗したようです沈黙が痛い。
そうですよねとりあえずにしてもいませんはないですよね何でいないんだよって話ですよね!
ああああ顔が上げられない…。
やっぱりこんなトンデモ状況を取り繕うなんて無理があるよおおおお

でもここで親がいるって答えたら、無賃乗車で呼んでくださいってことになる。
いもしない人を呼ぶことはできない。だから何にしろいるとは答えられない。
それにこの"ポケモンの世界には"いない。それは間違ってない。嘘は言ってない。
で、でもこの後どうしようなんて言おう!?えーとえーとえーと…


「…孤児、なのですか?」


私が答えられないでいると、ポツリとノボリさんが呟いた。
え。えっ、孤児?そっち!?
私今死亡説で設定考えてた。ちょ、ちょっと待って…
孤児孤児…こ、孤児がす、住んでるとこって孤児院??
…それだとその孤児院に連絡取る流れになる!駄目だ!
そんなところは無いし連絡を取ることもできない。
えっとえっとえっと…


「ひ、ひきとられたんですけど…

追い出され…て……」


「「「………。」」」


い、痛い?無理ある?ありえない?
でもこれくらいしか…!?
あ、あ、あでもこのあとどうしよう。
保護者がいないにしてもお金が払えるわけじゃないし、借りられるアテも無ければ返せるアテもない。
ど、どうしよう、なんとか考えて乗り切らないと…
か、考えろ考えろ考えろ!

…だめだ頭真っ白になっちゃって何も考えられない。
あ、これ…


「…っ!」


…まただ…パニック症状出ちゃった…
涙とまんない… な、なんとかしなきゃいけないのに…!
なんとか…!!

あああもうどうしてこう上手くいかないかな…



「…よしよし。つらかったね。」


え?

気付いたらいつの間にかクダリさんが横に来ていて、うつむく私の背を撫でてくれていた。
あ、なんだか安心する…。

つらかったね、か…。
…なんだか、つらいとか、苦しいとか。
自覚する暇もないまま色々目まぐるしすぎたけど、つらかったのかな、私。
1日に2回もこんなふうになることないもんな。それだけ精神参ってたのかな。
そうかもしれない。
疲れていたのかもしれない。

そう思ったら、パニックになったせいだけでなく涙が溢れてきてちょっと止まらなくなってしまった。
あああノボリさんとか関西弁さんとか絶対困ってる。


「…っぁ、う…あ、す、すいませ…」

「ううん、いいよ。つらいときは泣かなきゃダメ。
でもちょっと落ち着くまで医務室いこっか?」

「…っぅ、は、ぃ…」

「うん。じゃあこれ、ぼくのハンカチあげる。使って? 歩ける?」


クダリさんはわたしにハンカチを差し出すと、手を取り立ち上がらせてくれた。
そして「ちょっと行ってくるね」と二人に声を掛け、私の肩を抱きながら医務室まで連れてきてくれた。
わーかっこいいなぁ…クダリさんモテるんだろうなぁ…

医務室では先程のお姉さんとタブンネが迎えてくれ、ベッドに案内してくれた。
クダリさんがお姉さんに何か話してくれてる。
あ、タブンネが蒸しタオル持ってきてくれた…もう本当何から何まですいません。
話もうやむやにしてきてしまったし、後でちゃんと謝らないと…。

…あと…うん、なんかもういいや。


警察のお世話に、なろう。


こんな泣いてばっかの調子じゃどうしようもないし。どうせここを乗り切っても一文無しで寝るところもないし。
元々嘘つくのバカみたいに下手だし。上手くできないし。
…疲れたし。

でもちょっと寝させてもらおうかな。
ガッツリ泣いたせいで頭重いし、ちょっと痛いし、眠い。
タブンネが持ってきてくれた蒸しタオルを目に乗せて寝れば腫れも大丈夫だろう。
起きたらご迷惑お掛けした方々にお礼言って、謝って、警察だ。


本当、何でこんなことになったんだろうな…

私、何かしましたか。神様。










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すごくどうでもいい伏線なのですが、01で駅員さんがバッグを思い出せないヒロインを怪訝な目で見たのはサブマスの二人に似ているのが気になって接客スマイルが崩れたためだったりします。
特に不審に思っていたとかではない。
そこはヒロインのパニック障害故のマイナス思考。
今回の孤児うんぬんのあたりの3人の沈黙もそうです。
三者三様に「え、孤児とかもしかしてガチで血つながってんじゃね?」みたいなことを考えてるだけです。


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