「あら、おかえりなさい。大丈夫?」
「あ、はい」
「タブンネ〜」
医務室に戻ると常駐のスタッフさんらしきお姉さんとさっきのピンクのポヨポヨが迎えてくれた。
よかったタオルの返却場所ここで良さそうだ。
03.異世界?
「おなかの調子が悪い?」
「あ、いえ違います。大丈夫です。」
自分で遊んだり色々考えてただけです…
体調は特別悪くないのです
「そう?…うーんでもちょっと顔色が悪いわね。タブンネ、お願い。」
「タブンネ!」
え、な、なにするんだろう…
ここに座って。とお姉さんに促されるままにベッドに腰掛けると、私の目の前にピンクのポヨポヨが来て、耳?あたりからくるんと伸びている触手?のようなものをこちらに伸ばしてきた。
こ、この子はいいこだから悪いことはされないんだろうけど…なんだか怖くてつい目をぎゅっと瞑ってしまう。
だって未知の生命体になんかされるとか怖い。
目を瞑ったままでいると、左右のこめかみあたりに優しく何かが触れた。
い、痛くはない…これは指?じゃないか。さっきの触手なのかな…?
ちょっとするとふわっとした温かさを感じた。
なんだろう…静かに触れられているだけなのに、なんだか優しく頭を撫でられているような心地のような。
とても気持いい。寝ちゃいそう…ってあ、もう終わりなの?案外短いな。
触手が離れたようなので目を開けてみる。
ピンクのポヨポヨがどう?って感じの表情で私を見ていた。
「はいおつかれさまです。どうですか?」
やっぱり今のって処置だったの?
気持ちはよかったけど………って、ん?
…あれ?
さっきまでごく軽い耳鳴りと頭痛がしてたんだけど、無くなってる。
…えっ、なにこれすごい。
「え、あ、すごいです。ちょっと耳鳴りとかしてたんですが、取れました。」
「それは良かったわ。あなたもありがとうタブンネ。」
「あ、ありがとう!」
「タブンネ〜♪」
お姉さんに頭を撫でられたポヨポヨがうれしそうにしてる。
今のはこの子が…やってくれたんだよね?一体何者なんだろうこの子。
「…うん。心拍数も正常みたいね。
あなたを案内した駅員から軽く話を聞いたのだけれど…精神的なもの?」
「あ…はい。あまり無いのですが時々…もう本当に大丈夫です。」
メンタルが豆腐なのか、極度のストレスを感じるとたまーにパニック障害っぽくなってしまうんだよね…。
日常生活に支障をきたす程では無いにしろ、めんどくさいなぁと日々思っている。
「そう。でも遺失物の捜索を頼んでいるのよね?その結果が出るまでベッドで休んだら?無理はよくないわ」
「あ、ありがとうございます。お借りします……」
他にできることもなさそうだし、ベッドはありがたくお借りしよう。
…………しかし。
「タブンネ?」
何よりこのポヨポヨが気になる。
…ええい聞いちゃえ!何なのですかこれは!
「すいません、お聞きしたいのですが…。そ、その子はタブンネっていうんですか?」
「え?ええそうよ?見たことない?」
「…はい」
なんだろう、この口ぶりだとこの生物はポピュラーなものなのだろうか。
今、ここが異世界である確立がぐんっと上がったよ。
日本にしか思えないけどもしかして日本じゃないんですかここ。
少なくとも私が知る日本ではこんな生物はいなかったぞ。
「あら、じゃあ旅行者か、最近引っ越してきたのかしら?ここイッシュ地方はどこのポケモンセンターにもこの子がいるのよ。
確か他の地方だと違う子がいるのよね。ラッキーだったかしら。」
…ポケモンセンター?
え、今お姉さんポケモンセンターって言った?
『プルルルル プルルルル』
「あ、内線。ごめんなさいちょっと出てくるわね。寝ていて?
タブンネ、カーテンしめて差し上げて」
「タブンネ!」
ポケモン?
ポケモンって、あの?
「あなた…ポケモンなの?」
「? タブンネ」
「? そうよ」って言ったな今。
何言ってるの?って感じで。
−−−−−−−−−−
ポケットモンスター、略してポケモン。
摩訶不思議なうんぬんかんぬん。
それなりにゲーム好きな私は幼少期、ポケモンは初代の緑をやったことがある。
アニメはカスミがトゲピーを抱っこしてるあたりまで見ていた。
以降の、新しいDSのとかはやっていないが、俗に言うポケモン世代ってやつの生まれだ。
だからポケモンというものがどういうものかはだいたい知っている…が!
「…ポケモンの せかいへ ようこそ! …っての…?」
意味が分かりません!
「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…?」
ベッドにもぐって毛布を頭から被り、体育座りの姿勢で膝を抱える。
そうだ落ち着け私。落ち着いて現状を把握するんだ。
立ち向かえ不条理と。
ハイ深呼吸。すーーーはーーーー
…で?
ポケモン?が?実在している??
現実社会に?
…夢?これ?
ゲー●リはついにポケモンの実現まで可能にしてしまったんだろうか。
さっきのタブンネという生物は、本物のポケモンなのだろう。
技らしき不思議な力も体感してしまったのだ。本物だと納得せずにはいられない。
「んーーーでも…ちょっと待てよ?
さっきお姉さん、ここを『イッシュ地方』とかって言ってたよな…」
ポケモンセンターって単語に気を取られていたけど、ちゃんと聞いてたぞ。
イッシュってのに聞き覚えはないんだけど、確かポケモンの世界って○○地方、って呼び方したような気がする。
もしかしてここは、現代社会に思えるけど、ゲームやアニメのポケモンの世界…なの?
…ここで笑い飛ばせないのがつらいわぁ〜……
でもそうだよね。そう考える方が自然だ。いや何も自然ではないけどあああもう!
だって昨日まで私は現代社会の日本で普通の日常を送っていた。
ポケモンなんつーものはいなかった。二次元の存在だった。
なのにたった一日で当たり前のようにポケモンが馴染んでいるわけない。
だからここは日本じゃない。うん。
私がポケモンがいる不思議な世界に来てしまった、という方が納得がいく。
しかもだ。
ここにはどうやって来たかも分からないし、
朝からの記憶はないし、
挙げ句の果てに姿が変わってしまってるし、という状態なのだ。
なんというかこう、the☆異世界来ました〜!っていう要素というか、裏付けになってしまうものが揃っている気がする。
…………。
「うん。異世界決定」
ついでにポケモンの世界に決定。この線でこの後のことは考えよう。
しかしなんというか、自分のオタク故の順応力に感謝する。
普通そんなすぐ理解できないよねこんなの。
レイアースあたりだと思っとこう。異世界異世界。うんあんな感じ。
「つまり、ガチ『ポケットモンスターの世界へようこそ』なわけだ…」
何でこんなことになったのかは一向に分からないが、 つまりそういう事らしい。
取り敢えずはそれで納得する事にしよう。
事実を受け止めよう。
じゃないと何もできない。
うん。
自分に言い聞かせて、被っていた毛布を剥がす。
「さてこれからどうしようー…」
ここがポケモンの世界だということは納得したけど、現状はなんか余計詰んだ気がする。
だって私を知ってる人は誰もおらず、帰る家もなく、お金もない。
そして乗った覚えはないが私は電車に乗ってここに来ていて、その切符が無い。
… 取り敢えず切符代、どうしよう。
親なり友達なりを呼んで対応することも出来ない訳で…。無賃乗車で警察とか呼ばれてしまうのだろうか。そしてその後は?警察で何ていうの?
…あぁまた頭痛くなってきた。
ていうかバッグ、そうだよバッグ。というか財布。
正直本当に持ってたのかも今となっては分からないけど、取り敢えず財布があれば多少なんとかなりそうなのに!
ポケモンの世界の通貨って確か円だしさぁ…一文無しは流石にきついよー…
「ごめんなさい、起きてる?」
「あ、はい!起きてます!」
うおびっくりした。 カーテンの向こうでお姉さんが呼んでる。
「遺失物の件で、担当の者が乗務員室まで来てほしいそうなんだけど、どうする?もう少し休んでいく?」
「だ、大丈夫です!行きます!」
噂をすれば!
あー!ありますようにありますようにありますように!!!
どうか!どうか神様!
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レイアース大好きです。