って

えええええええええええええええええええええええええええええええ




一体誰ですかコレ









02.変身









医務室に案内してもらって早々、私はお手洗いへと向かった。
鏡目当てに。


「………。」


見間違いじゃなかった。
やっぱりこの人が私らしい。

鏡の中の女性は私と左右反転で同じ動きをする。


「一体何が起こってるの…?」


他に誰もいないことをいいことにポツリと独り言をこぼす。
だってもう。なんといえばいいのか。

鏡に映る私は、今までの人生20余年を共にしてきた『私』の面影は無かった。
私、純度100%の黄色人種だったはずだけど、なんか白人っぽい。ハーフくらい?
北欧とかあっち系かな…スウェーデン人とかにこんな感じの人見たことある気がする。

今これが自分だと思うとアレだけど…うん…美人だ。

肌が白くて、吊り目気味の大きい目。まつげも長い。
目と髪が同じ色で、他色が全く混ざってないピュアな灰色。
キューティクルのおかげで髪の毛はちょっと銀髪っぽく見える。
髪型は腰まであるしっかりめに巻かれたウェーブロングで、前髪は眉上で短く切り揃えられてる。

美人なんだけどなんかクールというか、ちょっと無機質っぽい印象。
あーピンク系チーク差したいな。


「髪の毛ここまで伸ばせたことないなぁ…ウィッグ…じゃないよね…うん地毛だコレ。
あ、毛質は結構硬い。
前髪も眉上ってずっとやってみたかったけど輪郭が丸く見えるから勇気出なくてやったことないんだよねー。あーやっぱかわいいな〜。」


新しいお人形を与えられたかのように、自分の髪の毛を触って一人キャッキャしている私。
誰かに見られたら軽く不審者ですね。
だってなんだかもう驚きというものを軽く超えてしまったんだもん。

さっき泣いたおかげもあるかもしれないけど、わたわたするだけの精神は使い果たしちゃったというか。
自分の姿が変わってるとかもうなんていうかファンタジー?
ちょっとテンション上がってきた。ただのハイかもしれないけど。
だってこんな美人だし。体型も元の私よりも一回り細い。美容体重ジャストかそれより軽いくらいかな…
日々頑張っててもここまで細くなったことはない。のに胸はそのままっぽい。Dカップ。
わ〜こんな風になりたい! …って今わたしコレなんですけど!



…フム。

一通り自分で遊んで気が済んだところで鏡を背にして洗面台に寄り掛かり腕を組む。
トイレなんて場所だけど、誰もいないところのほうが気が楽だし、ちょっとここで現状を整理してみよう。


・姿が変わった。
・電車に乗っていたのに手荷物が何もない。 ←盗まれたのかも?
・見覚えのない駅、見覚えのない線のようだった。
・何故電車に乗っていたのか思い出せない。誰かと予定を入れていた覚えもない。
・今日の朝の出来事を何も思い出せない。


「そう。改めて考えてみると持ってきたバッグどころか、今日の朝のことも、今日の予定も何もかも思い出せないんだよね…
逆に昨日以前は覚えてるんだけど…なんだろうこれ若年性なんたらだったりするのかな…」


考えれば考えるほど分からないことだらけだ。
昨日以前は特別変わったことは無かった。姿も変わってなかったし普通に起きて普通に生活して普通に寝た。
問題は今日に集中してる。

他は…


「…あ。」


そうだ。


・電車が地下鉄だった。


私は地方都市暮らしで日常使う交通機関に地下鉄はない。
つまりここは私の住んでいる場所からかなり離れていることになる。


「…はぁ。」


ついため息をつく。
今の私はスマホも財布も身分証もない。そんな状況で家から離れてしまっているのはつらい。
まぁ身分証は見つかったとしても私は今違う人になっているのだから使えるか微妙か…


…前途多難すぎる。
まさにここはどこ私は誰状態。
「分からない」ことしか分からない。


「分かるのは非現実な事が起きてるっていう事実くらいか。」


そもそもなんでこんなことになってんのっていう。
常識的に考えて色々ありえなさ過ぎる。
細かいことを取り上げてグダグダ考えることは多分無意味そうだ。


「もういっそ此処が中世とかで、異世界だったら話が早いのに」


なんかもう逆にここが現代社会なのがつらいよね。あは。
漫画の読みすぎですね分かります。
いやでもこの状況どうすればいいのよもうホントにさぁ。

…あーもうなんだかなるようになれって気分になってきた。


組んでいた腕を解き、後ろを振り向き自分の姿を見る。


「…なーんか、姿が変わっちゃうのってカフカの『変身』のグレーゴルみたいだな。」


不幸中の幸いか、巨大な虫ではなく美人に変身できた訳ですが。
そういえばグレーゴルは突然姿が変わってしまった自分の姿を見ても、比較的すぐ順応してできることを考えていたっけ。
うん、私も頑張ろう。
ここはどこわたしは誰状態でも、コミュニケーションさえ取れればなんとかなる。多分。
とりあえず家に帰ることを目標にしよう。姿は今のところどうしようもない。

…よし!

両手でパンッと両頬をはたく。
こころを強く持て!
大丈夫、きっと現状打破できる!


「タブンネ?」

「……たぶんね?」


なんか今すごく微妙な合いの手が聞こえたような。
声が聞こえた方を振り向くと…なんかよくわからないピンクの生命体がいた。
手にはタオルを持っている。
あれ?現代社会だと思ったけどやっぱここって異世界なの?


「……」

「タブンネ?」


そいつはどうしたの?とでも言うように首をかしげている。
なんかこう…ポヨポヨっとしてて…かわいいっちゃかわいいんだけど…

え、なにこれ。着ぐるみ?生き物?
えっえっえっ何で女子トイレにこんな…えっ?
あっ駄目また混乱してきた。

私が呆然としているとそのピンクのポヨポヨはわたしの前まで歩いてきてタオルを差し出してきた。


「タブンネ」

「あ、ありがとう…?」

「タブンネ〜」


生き物…か…?表面が布じゃない。
とりあえず危害を与えてはこなさそうだし、お礼を言ってタオルを受け取る。


「………」

「………」


……え、えっと…?

なんか見つめ合ってしまった。
受け取ったはいいものの、このタオルどうすればいいんだろう。
わたしがタオルを見て悩んでいると、ピンクのポヨポヨは私に向かって自分の顔を手でトントンっと叩く仕草をした。

ん、ん〜?
わ、分からない…何か伝えたいみたいだけど分からない。
向こうもわたしが理解してないことが分かったらしく、なにか思い悩んでいる風だ。
あ、動き変えた。えっと、泣きマネ?


「ん〜…あ。」


もしかして。
後ろを向いて鏡で自分の顔を確認する。
やっぱり。今まで姿が変わったことにばかり気をとられていて気づかなかったけど、目の下の頬の辺りにさっき泣いたことによる涙跡がついてる。
目もちょっと赤い。


「もしかして、顔を洗うと思って持ってきてくれたの?」

「タブンネ!」


そうだよ!とでも言わんばかりの返事。いや実際そう言ってるんだろう。
すごく賢いなこの子。
まぁいいやありがたく使わせてもらおう。


「どうもありがとう。使わせてもらうね。」

「タブンネ〜」


私がお礼を言うと、ピンクのポヨポヨはトイレを出て行った。
…わたしも顔を洗ったら医務室に戻ろう。





…やっぱりここって異世界なのかなぁ…


ってあ!このタオル返すのって医務室でいいのかな!?
聞き忘れちゃった…。











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カフカを出したのはなんとなくで、別に伏線でもなんでもないですお恥ずかしい。
別に死にません。

ヒロインはなんだかんだで結構神経図太いです。
あと話に絡ませる予定はあまり無いのですがオタクです。
時折言動がっぽいのはそのためです。あまりガッツリではない。


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