「…38.9℃…」

「ハイ、ノボリアウトー」


ノボリ兄さんが、風邪をひきました。











「申し訳…ございません、クダリ」

「ん!大丈夫!今日は特別ダイヤで出発進行!」

「よろしくお願いいたします…」

「はーい!」

「じゃあノボリ兄さん、寝ていてね。後で氷枕とか持ってくるから」

「はい…お手数お掛けします」


…声に覇気が無い。当たり前か、39℃の高熱だもんな…顔も真っ赤だ。
んーと風邪の時は…ビタミンCの摂取、室内の湿度保持、消化が良く食べ易い食事。あとは、すりおろしのりんごや桃缶なんかも美味しく感じるよね。マーケットが開いたら買い物に行こう。

クダリ兄さんと共にノボリ兄さんの部屋を出る。クダリ兄さんとポケモン達は、もう朝食も食べ終わって、そろそろ出勤の時間だ。
…というのも。昨晩、寝る前にクダリ兄さんにこそっと耳打ちされたのです。

『ノボリ、明日ねぼうする。でも起こさないでいいからね』、と。


「…よく分かったわね、クダリ兄さん」

「えへ、そりゃー双子やって長いですから!」

「すごいわ。私全然分からなかったもの」


私が見る限りでは…昨晩の時点では、ノボリ兄さんは至って普通だった。ごはんもいつも通りモリモリ食べてたし、お風呂にも入ってたし、団欒もしてた。
クダリ兄さんは、どこで気付いたのかなぁ。


「ノボリね、時々熱でちゃうの。ナマエは、今日はノボリの傍にいてあげてね。」

「あ、分かったわ。じゃあちょっとだけ待ってね、残り物の詰め合わせになっちゃうけど、今お弁当用意するから。」

「うん、ありがと!」


大至急でお弁当を用意し、クダリ兄さんとポケモン達を送り出す。
ノボリ兄さんのポケモン達もトレインでのバトルがあるから、家に残ることは出来ない。
皆、心配そうな面持ちで出掛けて行った。


「…さて。」


氷枕、飲み物、その他取り敢えず必要だと思うものをすばやく取り揃え、ノボリ兄さんの部屋に向かう。


「…ノボリ兄さん、起きてる?」

「…はい」


控えめにノックをして再度部屋に入ると、兄さんがだるそうに体を起こした。


「はいこれ。氷枕」

「…すみません…」

「こら。そういうときは『ありがとう』よ、ノボリ兄さん。体調が悪い時くらい、他人にちゃんと甘えてちょうだい」


まったくもう、この兄さんは。どこまでも甘え下手なんだから。
…でもまぁ、熱を押して無理矢理出勤しようとしないだけましなのかもしれないけど。
やりそうだからなぁ、この人は。


「…はい。ありがとうございます、ナマエ」

「うん、それでよし。…咳はまだ出てないみたいね。食欲はどう?」

「…あまり。ですが大丈夫です、食べます」

「…分かったわ。
じゃあ栄養価重視で、消化と吸収がしやすいものを用意するわね」


食事は、多少つらくとも頑張って食べたほうがいい。
風邪ウイルスに基本的に薬類は効かないから、体の治癒力に任せるしかない。あと熱も、体がウイルスを死滅させるために上げているものだから、解熱剤はできるだけ使わない方がいい。
風邪は、自分の体だけが頼りなのだ。


「あとこれ、レモネード。喉を乾燥させないように飲んでね。風邪にはビタミンCが必要だから」

「はい。…ナマエ、それは?」

「ん?これ?部屋に吊るしておく濡れタオル。
ウイルス撃退には、部屋の湿度はできるだけ高い方がいいのよ。…ただ加湿器は無いから、こんなんだけど。でも効果はちゃんとあるわ」


ハンガーに引っ掛けただけの濡れタオルを、これまた部屋の適当なところに引っ掛ける。
不格好なのはしょうがない。まぁ今日だけだし、ノボリ兄さんにはガマンしてもらおう。


「…随分と、詳しいのですね?」

「ああ、うん。私も一人暮らししてたから…風邪引いちゃうとめんどくさくって。前に、早く治す為の方法を一通り調べたことがあるのよ」

「そうなのですか…」

「うん、そうなの。
…だから心配しなくても大丈夫よ?兄さんは私が治してあげるわ。」


それなりに知識はあると自負しているし…お母さんが比較的よく風邪を引いてしまう人だったから、看病自体の経験も結構ある。
兄さんは、明日こそは意地ででもギアステーションに行ってしまうのだろうし、ゆっくり休んでくれるのは今日だけだろう。
なら、私がすることは一つ。私に出来る最大限のことをして、今日中に兄さんを完治させる。
咳さえ出てこなければ、多分大丈夫。いける。


「…じゃ、私は食事を作ってくるから。その間にこれで軽く体を拭いて、パジャマを替えておいてね。……兄さん?ボーっとしてるけど大丈夫?」

「あ、っは、はい!」

「…本当に大丈夫?体拭くの手伝う?」

「…!! い、いえ!結構でございます!」

「えっ?あ、ちょ、兄さん!?」


バタン!

…異常な程に顔を真っ赤にした兄さんに、部屋から追い出された。…なに?あの女の子みたいな可愛い反応。
いきなりどうしたの兄さん。裸見られるの恥ずかしいの?…そんな過剰反応しなくても、勿論上半身しか見ないわよ。
それに私、普段からあなたの下着を洗ってるような人間なんですけども。今更照れられてもなんだかなあ。

…まぁいいや。なんだか思いの外元気みたいだし、あれなら手伝わなくても大丈夫でしょ。
さーてと、ごはん作ろっと。





「…うん、下がってきた」


眠っているノボリ兄さんの首筋に手を当て、大体の体温を測る。…細かくは分からないけど、これなら37℃台だろう。取り敢えず一安心だ。
今の時刻は午後の3時。間食にと、ゼリーを持ってきたのだが、兄さんは私の入室に気付くこともなく眠っている。
…ゼリーの為にわざわざ起こすことはないか。お昼に枕の氷は替えたから、まだ大丈夫だろうし。

…それにしてもよく寝てる。
風邪は寝て治せっていうくらいだから、睡眠は風邪を治す上でとても有効なものではあるんだけど…今日のノボリ兄さんは、普通ここまで眠られるか?というくらい、寝ている。ひたすらに寝ている。
朝ごはんから、お昼ごはんまで。そしてお昼ごはんから、今まで。食事以外は見事なまでに寝っぱなしだ。
…まぁそれだけ、疲れが溜まっちゃってたってことなのかな。お仕事、大変だもんね。

ベッドの縁に浅く腰掛けて、ノボリ兄さんの頭を軽く撫でる。…よく私の頭を撫でてくるノボリ兄さんに、いつものお返しだ。
今の私と同じ、固めの毛質の灰色の髪。うーん、でもちょっと兄さんの髪はパサついちゃってるかなぁ。


「…ん…」


あっ、ヤベ。
兄さんが身じろぎした。寝かせておこうと思ったのに、起こしちゃったか…?

咄嗟に、兄さんの頭に手を置いたまま固まる。
…が、それもむなしく、兄さんの両目はゆっくりと開かれ、私を捉えた。


「…母様…」


…かあさま?
未だ夢うつつな様子の兄さんが、私を見ながらポツリと言った。

…え。兄さん、今…私を見て母様って言った…よな?
…なんと反応してよいのか分からずそのまま固まっていると、何度か瞬きを繰り返したノボリ兄さんが、だんだん覚醒してきた。
そして自分の発言に気付いたようで…どんどん顔が険しくなった。…うん、この怖い顔は恥ずかしい時の怖い顔だね…。


「……すみません。寝呆けました…」

「ううん…こ、こっちこそごめん…起こしちゃって…」

「いえ…」


兄さんが、ベッドから体を起こしながら言う。
…この歳になって、他人を「お母さん」呼びは…恥ずかしいよね…。うん…。


「えっと…熱は、もうだいぶ下がってきたみたいだけど、体の調子どう?寒気とか」

「…軽いです。悪寒も…もう感じません。少々暑いくらいでございます」

「そう…良かった。ならもう熱は大丈夫ね。あと、これ食べられる?」

「ええ、頂きます」


ゼリーを兄さんに渡す。…食欲もちゃんと戻ってきてるみたいね。よしよし。

……に、しても。…お母さん、かあ…。


「…笑いたければ笑えばよろしいでしょう」

「へっ?」

「…口角が上がっておりますよ」

「えっ、あ、違うの!違うのよ!…ちょっと、嬉しくって」


ギロッっと、兄さんに恨めかしい目で見られ、咄嗟に口元を両手で隠すように覆う。
…あー、ほんとだ。私笑ってたわ。


「ごめんなさい…そんなつもりじゃなくってね…」

「…今、『嬉しい』と言いましたね。何のことです?」

「いや、だって…ちゃんと安心して養生してもらえてるんだな、って思って。…なんていうか、兄さんに寄り掛かってもらえてるような気がしたというか…?」

「…はい?」


うん、ノボリ兄さんの頭に『?』マークが見えるね。

いや…あのね、世話焼き気質の私としてはね…さっきのお母さん発言は、一種の感動だったんですよ…。
『勝った!』って思ったんだ。…だって夢うつつの状態で「お母さん」なんて、かなり安心しきった状態じゃないと、出てこない言葉でしょう?…しかも、このしっかり者で常に気を張っているノボリ兄さんが…だよ。

誰かを頼るってこと、しない人だからさぁ。朝にも言ったけど…なんというかこう、精神的な面で…ちゃんと私を頼って、休んでくれてるのかなって。そこが気になってたんだよね。
…ばっちりでしたね。…あーヤバイ頬緩む。

怪訝な顔をしていた兄さんも、私の様子を見て、兄さん自身を笑った訳ではないことが分かったのか、表情を緩めた。


「…ナマエ?」

「あー…まぁとにかくね、嬉しかったのよ。」

「…はぁ。なにやらよくは、分かりませんが…」

「いいの。兄さんは分からなくっていいの。…ただの私の自己満足だから」

「そ、そうなのでございますか…?」

「うん。あ、でも…やっぱり似てるの?」

「…あぁ、まぁ…それは。わたくしとクダリの母親でございますから」

「…ま、確かにそっか」


兄さん達とそっくりな私が、兄さん達のお母様に似てないってことはないか。


「…いつもは、一人でございましたからね。」

「ん?何が?」

「本日のように、体調を崩した日でございます。ギアステーションにクダリと共に就職し、実家を離れて以来…こうした日は、ずっと一人でございました。
ですので…看病をしてくださる方がいるこの状況を、昔と錯覚したのだと思います。」


…あ、優しい顔。
昔、お母さんに看病してもらった時のこと、思い出してるのかな。


「…私が嬉しいのは、そういうことよ。兄さん。
昔と錯覚してくれるほどに、安心して休んでくれたのであれば…看病した側としては、これ以上嬉しいことは無いわ」

「…左様で、ございましたか。…ありがとうございます。ナマエ」

「ふふ、うん。どういたしまして!」

「…ここ数年で、病欠の日をこのように穏やかに過ごしたことはございません。」

「…そうよね。体調の悪い時の一人は、ただつらいだけだもの。
朝、クダリ兄さんから聞いたわ。ノボリ兄さんは、時々熱を出してしまうって」

「はい。気をつけてはいるのですが…年に数回程度。ナマエが来て以来、崩さずにこれていたのですが…遂に駄目でしたね」


ノボリ兄さんが苦笑する。


「もう、笑い事じゃないわよ。ノボリ兄さんはいつも頑張りすぎなの!…まぁ、クダリ兄さんほどルーズになれとは言わないけれど…もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかしら?」


健康に気をつけているのに風邪を引くということは、過労によって免疫力が落ちたところを、ウイルスにやられるということだ。
兄さん達のこの口ぶりだと、風邪を引くのは専らノボリ兄さんのようだし。


「…いえ、それは出来ません。」

「どうして?」

「…それは…」


言葉の途中で、兄さんが言い淀んだ。
…何?


「…兄さん?」

「…いえ。…そうですね。

…休めない理由、それはわたくしが…正確にはわたくしとクダリの二人が、サブウェイマスターであるからです。
わたくしたちがサブウェイマスターの職を奉じている以上は…わたくしは休むことは出来ないのでございます」

「……えっと、それは…クダリ兄さんの分までノボリ兄さんが頑張らなきゃ…ってこと?」


まぁ、ギアステーションではよく見られる光景だ。
卓上作業が苦手で、やらねばならないことを溜め込みがちなクダリ兄さんの尻拭いを、ノボリ兄さんがやっている図。
他にも…バトル以外の通常業務はクダリ兄さんは得意不得意が多く、ノボリ兄さんがそれをフォローして回っている印象がある。


「…いえ、逆です。」

「…逆?」

「はい。わたくしがクダリに追いつくため…置いていかれぬようにするために。」

「……置いて、いかれないように?」

「ええ。…クダリは、本当に何でも出来る子なのです。身体も丈夫ですし、バトルセンスも、記憶力も、何もかもがわたくしよりも上回っているのでございます。
日頃は、『出来ない』のではなく『やらない』だけなのです。」

「…そうなの?」

「はい。…わたくしがあの子に並ぶには、努力をするしかないのでございます。わたくしが千回練習してやっと出来ることを、クダリはたった数回やっただけで出来てしまう。…あの子は、そういう子です。
ですから、わたくしは努力せねばなりません。サブウェイマスターとして、クダリとの二両編成を謳う者として。」

「……だから、ノボリ兄さんは倒れるまで頑張ってしまうの?」

「…はい。」


ノボリ兄さんはまっすぐ、私の目を見据えて、言った。


「…そっか。」


初耳、だったけれど…不思議と、あまりびっくりはしなかった。
ノボリ兄さんが秀才肌で、クダリ兄さんが天才肌。
私は以前から、兄さん達に対してそういうイメージを抱いていたような気がする。二人ともすごい人なんだけど、タイプが違うなとは思っていた。

…ただ、そこから生まれる…弊害というか。違うからこそ生まれてしまう差異、問題…そういうものについて考えたことはなかったな。
…そっか…。


「…怒らないのですね」

「…えっ?…何を?」

「わたくしを。『倒れてることも厭わない』という考え方をしている事が、貴女に知られたら…それはもう、大層叱られるかと思っておりました」

「…見くびらないでよ。
ノボリ兄さんは、ただ無茶を繰り返してるだけの馬鹿じゃないもの。色々考えて、試行錯誤して…その結果、今のやり方が最善であると思った。だから兄さんは、倒れるの覚悟でそれをやってるんでしょ?」

「…はい、そうでございますね」


…努力家というのは、大きく分けて二つに分けられると思う。
一つは、『頑張った』という実感だけに執着してしまう人。このタイプの人は、すぐがむしゃらになってしまいがちで、時間や体力、気力を無駄に消耗させてしまう。
そしてもう一つは、目標を達成するための効率的なプランをきちんと構築した上で、頑張ることができる人。このタイプの人は、あくまで『目標の達成』にこだわることができるから、その場で柔軟にやり方を変え、取り組むことが出来る。

ノボリ兄さんは、間違いなく後者だ。


「…無理をしている人に『やめろ』って言うのは簡単よ。…でも、本当の意味で『倒れる程に頑張っている人』に対して…そんなことは、言えないわ。私は、言えない。」


それも、兄さんはそんなことを…自分がやりたくて、やろうと思ってやっているんだ。誰に強要されるでもなく、自分で、選んで。


「…ナマエ。」

「…うん。やっぱり、私だったらこう言うわ。…ノボリ兄さん、頑張ってね」

「…!」


兄さんの目が見開かれた。


「私、兄さんが本当にギアステーションを…バトルサブウェイを大事にしていること、知っているもの。
そして鉄道員の皆さん…ううん、ギアステーション職員の皆さんが、ノボリ兄さんを心から慕ってることも知ってるし、…何より、兄さん達がお互いに、お互いを必要としていること、知ってる。」


サブウェイマスターでいる上で…こうして風邪で倒れてしまうことは、避けられないのだと、仕方の無いことなのだと、他の誰でもないノボリ兄さんが言うのであれば…私は、そのままそれを信じる。
そして応援する。ノボリ兄さんのやり方を。


「…うん。兄さんが倒れたら、また私が一日で治してあげるわ。それなら倒れても大した問題にはならないでしょう?」


風邪で倒れた日は、兄さんの努力の、臨時休業日あたりだと思えばいいんだ。
兄さんにはがっつり休んでもらって…その日は、私が代わりに頑張る。兄さんの体調を翌日まで引っ張らないようにする。


「…ちょっと兄さん、何か言ってよ」

「…っあ、…いえ…まさか、そのように真正面から応援して頂けるとは…思っていなかったもので」

「あら、反対して欲しかったの?」


どちらかというと、背中を押して欲しいのかなと思ったんだけど。
この頑張り屋さんのことだ。こんなことを話したのは、私が初めてなんだろうし。

…まぁ、クダリ兄さんは例外だけど。二人はわざわざ話さずとも、そのへんは把握し合ってるのだろう。


「いえ…そういう訳ではありませんが…しかし、馬鹿みたいでしょう」

「? 何が?」

「…弟に追いつく為に、必死になり…体調まで崩すのですから」


どこか虚しいような、悲しいような顔をして、兄さんが言う。


「…ね、兄さん。それ、自分を誰か他の人に当てはめて考えてみなさいな。…絶対に、馬鹿みたいだなんて思わないわ。」


…体調のせいか、弱気になっちゃってるのかな。
布団の上の兄さんの手に、自分の手を重ね合わせる。…あ、やっぱりまだちょっと熱いな。


「あのね、私は頑張り屋さんなノボリ兄さんが、とても好きよ。
ノボリ兄さんには努力の才能があるんだと思う。頑張ろうと思っても、兄さんみたいに真っ直ぐに頑張れる人って、中々いないもの。」

「…そうでしょうか」

「うん。それは間違いない。」


努力というのは…単純に見えて、とても難しいものだと思う。よく、努力はやっただけが自分に返ってくるって言うけど…それは嘘だ。
皆が同じだけ努力して、同じだけのことが出来る訳ではない。努力というものには基準がないのだ。『これだけやったから、これができる』というものではない。

また、頑張った人であれば頑張った人であるほどに…結果が出せない時、『出来ないのは、努力が足りないからだ』と自分を責め、苦しめてしまう。
本当の原因は、単なる運や偶然だったりするのに、結果が出せない原因を自分にしてしまう。
…でないと、ぶれてしまうから。努力が足りないと思わないと、頑張れなくなってしまうから。


…だからこそ、難しい。一心に努力するということは。


「あと、ノボリ兄さんは頑張り屋だから…自分ができないことばかりに、目が行ってしまうのね。
クダリ兄さんと比べて、ノボリ兄さんは自分を卑下するけれど…兄さんの方が得意なこと、兄さんにしか出来ないこと。それは気付いてないだけで、沢山あるわ。」

「…本当ですか」

「ええ。…でもこれは、私なんかよりクダリ兄さんに聞いた方が、きっと沢山出てくるわ」

「…」

「…さ。私が言いたいことはこれで全部。
これ以上は体に障るわ。ちゃんと今日中に治すんだから、そろそろ布団にもぐってちょうだい?」


最後に、ぎゅっと手を握って、ベッドから立ち上がる。
…うん。兄さんの表情も、ちょっとは明るくなった気がする。


「…はい、ありがとうございます。…全く、貴女には敵いませんね」

「ふふ。そうね、こういうのはちょっと得意なの。よく友達の相談窓口やってたわ」

「それはそれは。」


あ、優しい顔。
…ノボリ兄さんの表情筋って、最初に会った時より、だいぶ柔らかくなった気がするな。

…これは、ちょっと自惚れてもいいのかなぁ。


「じゃあ、また夕食の時間になったら起こすわね。」

「はい、お願いいたします」

「うん。おやすみなさい、ノボリ兄さん。」


しっかり休んで、治してもらわないとね。
…あーそうだ。独学だけど…栄養学とか、もっと色々調べてみようかな。
倒れた時には私が治すってことで、倒れてもいいよって言ったけど…倒れないに越したことは無いわけだし。
兄さんが最大限頑張れるように、私にできることは、してあげたいもの。

…よし!明日は図書館に行こう!



兄さんの健康は、私が守ります!






−−−−−−−−−−

ノボリ兄さんは努力の人。ついでに溜め込みタイプな人。
風邪ネタだし弱らせよ〜(^O^)って思ったら、もったりしたただのカウンセリング話になってしまった…。起承転結ってなに…。

ヒロさんリクエスト『風邪のノボリを看病するヒロイン』でした。病気ネタという美味しいリクをありがとうございました!…なのにもったりしちゃってごめんなさい。
でも、書いてるうちに「ノボリは時々風邪を引く&しかも一日ヒロイン独り占め」って設定ができたので(※いつも見切り発車)、ネタが浮かんだら病気ネタはリベンジしたい所存です…!ぐぬぬ
ノボリが吹っ切れて、もっと妹に甘えてくれるようになれば幅が広がるんだがなぁ…


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