「…驚かれましたカ?」
「あ、青い石が…浮いてる…!?」
そ、それに光ってる!宝石みたいな…クリスタルみたいな石が…!
…えっ、えっ、えっ…な、何、これ!?
…すっごく、綺麗。
「この電気石の洞穴ハ、洞穴全体が電気を纏っているのでス。
浮いている石ハ、帯電した石同士の磁力の反発により、浮かんでいるのでございマス」
「へぇ…!」
本当に、綺麗。
イメージは、ライトアップされた鍾乳洞とか、そういうのに近いんだけど…ここは光源さえ自然がもたらしているものなんだよね…
…っえーすごいすごいすごい!ぞわってした!今感動でぞわってした!
「本当に…本当に綺麗な場所ですね…!」
「気に入っていただけたのであれバ、良かったでス」
「はい…!とっても…!こんな神秘的な場所、生まれて初めて来たかもしれません…ここに、ポケモンたちが住んでいるんですよね」
「ハイ。…ナマエ様、あちらニ」
「え…あ!」
インゴさんが指し示した先には、2体のバチュルがいた。
電気を食べた後なのか、ちょっと毛がもさっとしてて、丸い。
あ、仲良しだ…!2匹できゃいきゃいじゃれあってる…!
う、うわーうわー!
…めっっっちゃんこ、かわいい!!!野生のバチュル!
「…仲、いいですね…兄弟とかですかね、あの子たち…!」
「かも、しれませン」
は、はぁ〜ん、もう見ててきゅんきゅんする…たまらん…。
なんだこの生き物…可愛いすぎる…可愛いすぎるだろ…そんな可愛いすぎる子は食べちゃうぞこのやろー!(謎)
「もう少々奥に行けバ、もっと沢山のポケモンが居ますでショウ。行かれますカ?」
「あ、は、はい!インゴさんが宜しいのであれば、是非!」
「勿論でございまス」
…あれ。
インゴさんが笑ってる。
「…何でございますカ?」
初めて、見たかも。
「いえ…インゴさんが笑ってらっしゃるの、初めて見たなと思いまして」
「!?」
あ、口元、手で隠しちゃった。
「…笑って、おりましたカ?」
「あ、はい。うっすらと…微笑、って程度ですけど。」
「……」
あ。への字結びの怖い顔になっちゃった。
でもこの顔はノボリ兄さんで対策済みだから今はあんまり怖くないんだよね。
「どうしました?」
「…イエ。笑うなど、普段無いものですかラ…変な顔をしていたのではないカト。」
「え…え〜?なんですかそれ。…そんなことないですよ。私、今のその怖い顔より、さっきの優しい顔の方が好きですよ?」
…だからその顔怖いっての。
笑顔より怖い顔のが好きな人なんていないでしょ?普通。
「…ワタクシ、今ノボリ様とクダリ様のお気持ちガ、少々分かってしまった様な気が致しまス」
「はい?」
「まァ、だからといって引くわけでハありませんガ。
…では参りましょうカ、ナマエ様。野生のポケモンが襲ってこないとも限りませんノデ、ワタクシから離れることのありませんよう」
「あ、は、はい!」
そうだよポケモン!バチュルにギアルにシビシラス!
…楽しみ!!!
◆
「はぁ…可愛かった…ギアルってあんなに可愛かったんですね…」
なんであんなくるくるまわってるんだ…かわいい…無機物かわいい…
シビシラスもほんと可愛かった…今度カミツレさんに頼んで遊ばせてもらおう…なんで浮いてるの…シラスなのに…
うっ、意味わかんないかわいい。可愛すぎて思い出すのがつらい。
「楽しんでいただけたようデ、なによりでございマス」
「て、ゆか…すいません、なんか私ばっかりはしゃいでしまって…インゴさん、つまらなくありませんでした?」
ていうかぶっちゃけ引きませんでしたか。
場所は移って、今いるところはシッポウシティ。アコーディオンの音色が響くお洒落なカフェ、ソーコ。
もう空はオレンジ色の時間帯です。…私何時間くらい荒ぶってたんだろう…。
「イエ、そんなことはございまセン。ワタクシもとても楽しい時間を過ごさせていただきマシタ。」
「え、え〜…本当ですか?正直に言ってくださって良いんですよ?」
「勿論でございまス。ナマエ様は、常にワタクシに話しかけて下さっていたではありませんカ。色々とお話することが出来、大変有意義な時間でございマシタ」
「…なら、いいんですけど…。」
本当かなぁ…わたし完全にスイッチ入っちゃってたけど…うんまぁ今更気にしても仕方ないか…。
インゴさんは優雅に紅茶を飲んでいる。コーヒー派に見えるけど、やっぱりイギリスのお人、そこは紅茶チョイスなんだなー。
「…さて、そろそろ時間でございますネ」
「あれ、もうお帰りです?」
「ああイエ。ワタクシはもう少々大丈夫なのでございますガ…」
『あああああ!!!!!いたああああああああ!!!!! ノボリー!!!!!!』
「……インゴさん予知能力でもあるんですか」
…なんか今、遥か上空から絶叫みたいな声が聞こえたんだけど。
「まさカ。ナマエ様がサブウェイマスターのお二人と連絡を途絶えさせてからノ、単なる時間計算でございマス。」
「えーそれでもすごいですよ。何ですかそのスキル」
「ナマエ様にお会いする隙を伺うべくお二人を観察している中で把握いたしまシタ」
「なんとまあ」
ああこの紅茶、ミルクが合うなぁ。
「ソコまでだああああああああ!!!!!何仲良さげにほのぼのしてるのー!!!!!」
「知ってる?兄さん。人って共通の敵が出来ると一気に仲が深まるのよ」
「そっ…!!!!それは誰のことを言ってるのでございますか!!!!!誰のことを言っているのでございますか!!!!!」
「強いて言えば、職務放棄して職場から随分と離れた街にそらをとぶとかテレポートとかで来てしまっている駄目な大人」
「お前か!!!!」
「ワタクシは本日、苦労してもぎ取った有給でございマス」
「…っていうか兄さん達、本気で仕事はどうしたの?ん?」
クダリ兄さんが空から落ちてきて、ノボリ兄さんが何も無いところからここに現れたけど。
一体全体、何をやってやがるんだこいつらは。仕事はどうしたコラ。
仕事をちゃんとやるところだけは無条件で尊敬してたのに。このバカ兄が。
ああアーケオスがもうへろへろじゃない。よしよしごめんね…。
「言うことそれ!?ここにきて言うことはそれだけなのナマエ!?心配かけてごめんなさいとかじゃないの!!?」
「数時間連絡がつかないくらいで…どうせ駅員さん問い詰めたんでしょ?知り合いの人と出掛けたって言われてないの?」
「その駅員に相手の身体的特徴を聞いたらぼくたちより背が高い男だったっていうじゃない!髪黒かったけど目の色が青かったって言うじゃない!インゴじゃない!!」
「あらすごいそこまで分かったの」
「ワタクシであると見当をつけられていなけれバ、もう少々のお時間はありましたでショウ」
「あら、それは残念ですねぇ」
「…ですから何故そのように仲睦まじくなっているのですか!!!!! 許しません!許しませんよ!!」
ノボリ兄さんにぐいと腕を引かれ、背に隠される。
「よろしいですか、インゴ様。本日は不覚を取りましたが、次はございませんよ。以降、ナマエには指一本触れさせません」
「うんそう!ぼくたちこれからもっと本気、すっごい本気!」
「…ねえ兄さん。それウザい。」
「ん、なっ…!!?」
「うえっ…!!?」
おお、こうかはばつぐんだ。
「う…ウザ…ウザい!?」とか言ってる。
「今まで黙ってたけどね、サブウェイボスのお二人に対してやりすぎなのよ。ノボリ兄さんも、クダリ兄さんも。
私の交友関係を制限しないでちょうだい。いい大人なんだから」
「大人だからですよ!!」
「そうだよ!ナマエとられちゃうのやだ!!」
あー、あー。もうどうしようもないな、この人達。
「…そう思うのなら、これは逆効果だと思うけど?
ね、インゴさん。今日は楽しかったです。どうかまた、私を攫いに来てくださいね?」
「...Certainly. I will come and get you again, princess.」
「Thank you. I'm waiting for you.」
インゴさんがセリフに合わせて、胸に手を当てて足をクロスさせた、ちょっと古風な礼をした。乗ってくださってありがとうございます。
あ、またインゴさん笑ってる。やっぱり、怖い顔よりその顔のほうが素敵だし、かっこいい。
打って変わって兄さん達のこの時の顔は、ちょっと写真に収めておきたいレベルだった。ざまぁ。
「ちょ!!?ナマエ!?なに…!?」
「…隙アリ、でございマス」
「なっ!?」
「…ノボリ様、クダリ様、申し訳ございませんガ、支払いはお願いいたしマス」
兄さん達の隙をついて、インゴさんがモンスターボールを投げ、ウォーグルが姿を現した。
そして私を兄さん達から奪い、抱き上げ、ウォーグルに飛び乗った。
ひゃー、お姫様抱っこだ!
「ライモンまで、お送り致しまス」
「あはは、はいお願いします!」
「あっ、ちょ!インゴこのやろう!」
「お待ちなさい!この泥棒猫!!」
兄さん達が下でわめいてる。…ノボリ兄さんそのセリフ無駄に似合ってるわね。
「これに懲りたらバカなことをするのはもうやめてね?兄さん達?これ以上何かしようものなら私、兄妹の縁切っちゃうんだから」
「そ、そんな!?」
「待って!待ってよお!ナマエ思い直してえええ!!」
「行って下さい!インゴさん!」
「I got it!」
…さて、これでお馬鹿な兄さん達が、ちょっとでも行動を改めてくれればいいんだけど。
あ、そうだ。今のうちにキャス番交換でもしておこうかな?
この素敵な盗賊さんとね。
−−−−−−−−−
インゴはうちのロマンス担当。
姫と盗賊の組み合わせにピンときた方は、アレクサンドリアで私と握手!
デートで電気石の洞穴チョイスされたら私は落ちる。
シオンさんリクエスト『変装したインゴがシスコン妹を拉致、からのデート』でした!
ちなみにサブマスは鉄道員達に「死ぬ気で勝て。勝ち進ませるな」と指示してます。相変わらず可哀想な役回りの鉄道員…。ホロリ