「オレモモウ一個食ベルー。ナマエサン、コレマジデ美味シイヨ〜特ニ、海老アボカドガ最高!」
「ありがとうございます〜。私も海老アボカド好きなんです。この組み合わせは正義ですよねぇ。わざび風味のドレッシングがまた合うんですよー」
「いやー全部美味いで。そういえばこれって元々はボスらに作ったんやろ?何でいらなくなったん?」
「あ〜それはですねぇ」
「負けちゃったー!!……あれっ?なんでナマエがここにいるの?」
バターン!
私の言葉を遮るように、クダリ兄さんがけたたましく乗務員室に入ってきたかと思うと、私の存在に驚き目を丸くした。
時間差で入ってきたノボリ兄さんも同様に驚いている。どうもお邪魔しております。
「どうしたのですかナマエ、何かございましたか?」
「ううん、そういうわけじゃないわ。ただちょっと暇だったから、二人のバトルを見せてもらいがてら遊びに来ただけ。ホラ、バトル見せてくれるって約束だったでしょ?」
「えっ、ナマエいまのバトル見てたの!?」
「ええ。兄さん達もポケモン達も、とってもかっこよかったわ」
「えー!?でも負けちゃったじゃん!ナマエが来るって知ってたら絶対負けなかったのに!なんで来るって教えてくれなかったの!?」
「今日のお昼前に突然思いついちゃったから。仕事中は連絡してもまずライブキャスターには出られないでしょ?」
「…それでも連絡して下されば、もしかしたら出られたかもしれませんのに…」
「えっ…あれ?ノボリ兄さんもしかして怒ってる?」
「怒ってなどおりません」
「じゃあ拗ねてる?」
「…ナマエ。」
「あ、何でもないです。」
その顔やめて怖いから。
「もー、ナマエ分かってない!ぼくもノボリも、勝ってかっこいいとこ見せたかったの!」
「十分かっこよかったわよ。良い勝負だったんでしょ?負けちゃったけれど、晴れやかな顔してたじゃない、兄さんたち」
「…兄としてのプライドの問題でございます。次は必ず勝ちます。ナマエはもう少しここにいなさい」
「え、でもこれ以上はお邪魔に…」
「いなさい。」
「…はひ。」
だからそのキチ顔はやめろと。
「天下のサブウェイマスターも、ナマエさんの前じゃただの兄ですか」
「ありゃシスコンの域やで。ナマエさんいつまでも結婚とか出来なさそうやな」
「ナンダッケ、『俺ヲ倒シテ交換日記カラ始メロ!』ダッケ?ボス相手ジャ洒落ニナラナイヨネェ。勝テネ〜」
朗らかに笑わないで下さいよちょっと。
あと行き遅れは兄さんの存在が無くてもめちゃめちゃ不安なんですから、抉らないでくださいお願いします。
てかそもそも、わたしこの世界で結婚とかすることにだろうか…?うーん?
「あ!クラウドたちなんか美味しそうなの食べてる〜なに?それ」
「ボス愛しのナマエさんの手作りサンドイッチですよ」
「えっ、ナマエ、これお弁当!?」
「ああそうでしたそうでした」
軽く忘れてたや。危ない危ない。
これこれ。彼女さん達から預かった愛妻弁当。
「はいどうぞ。こっちがノボリ兄さんで、こっちがクダリ兄さん」
二人にお弁当を渡すと、顔がぱぁっと明るくなる。うわー嬉しそう。
「わーい!ありがとナマエ!」
「ありがとうございます…!」
「いえいえ」
私ただ預かってきただけですし。
「早速いただきます」
「ぼくもぼくも!」
「ボス、愛妻弁当ですか〜?うらやましいわ〜」
「あげないよーだ!」
「いいですもーん。サンドイッチ美味しいですもーん」
………クラウドさんっ!!
「クラウドさんっ…!好き…!」
「「!!?」」
「おや」
「ワァ」
「…へっ!?あ、ありがとうございます?…ってちょ、ちょちょちょ待ちぃどうしたんやナマエさん!?」
「怖い者知らずだねクラウド。君の事は忘れないよ」
「…説明していただきましょうかクラウド?」
「…なぁに?これって一体どういうこと?」
「ボスら顔!顔!!ちょお誰かモザイク持って来い!!この顔は放送禁止やで!!サブウェイから人が消えるで!!!」
「ソノ消エル人ッテクラウドデショ?」
「くそぉこんな時にまでツッコミをしてまうこの体が憎い!…って、ちゃいますちゃいますわしなんもしてませんて!ナマエさんほんまにどないしたんや!?」
「私は、私の作ったごはんを美味しいと言って食べてくれる人が好きです。なので兄さん達よりクラウドさんのが好きなのです。」
別にさ〜彼女がいたことに文句があるわけじゃないのさ。兄さん達だっていい歳だし、こんなイケメンだし、優しいし。彼女いないほうがおかしいよ。
でもなんだか…なんだかなー……二人のごはんを作るのは、私の役割だと思ってたんだよね。…うーん、なんだかぐるぐるする。
ああでも…そうだな、この気持ちを言葉にするとするなら…
「…寂しい。」
「「寂しい!!?」」
「オオー。ボス達の背後ニかみなりノエフェクトガ見エル。"ガーン"ッテ文字モ見エル」
「ノ、ノボリどうしよう!?ナマエ寂しいんだって!寂しいからクラウドなんかを!?」
「白ボス!なんかってなんや!」
「確かにわたくし達は朝は早く夜は遅く…これですか!?これでございますか!?ああまさかナマエにそんな寂しい思いをさせてしまっていたなんて…!!」
「あたかも倦怠期の夫婦のようだね。女は寂しくて浮気をするというし」
「浮気て!わしは間男か」
「はぁ…私もブラコンだったのかなぁ〜」
「ブラコン大歓迎!!ほらナマエ!クラウドなんかやめてぼくにしときなよ!」
「またなんかって言ったな!?」
「そんなことはいいから、兄さん達はさっさとお弁当食べちゃいなさいな」
「そんなことて!!」
「浮気いたしませんか!?」
「ハイハイ、しないしない。…はぁ」
「またため息ついた!ナマエ一体どうしたの!?」
「…もうええわ。痴話喧嘩には付き合っとれん。わし、もう時間やから上がるな。ごっそさん」
「キャメロン、ぼくたちもそろそろ上がろうか。ごちそうさまでした。ナマエさん」
「ソウダネ〜ゴチソウサマー…ッテ、聞イテナイネコリャ」
まぁ私も異性として好きな人には、特に自分の料理食べてもらいたいって思うだろうしな。
…なんだか大人げないな、私も。
にしても兄さんが彼女さんとセックスやらなんやらするのは別になんとも思わないのに、手作りのお弁当は嫌とか、私も随分特殊型だな。
…ま、寂しいと思うのは今だけで、そのうち慣れるでしょ。うん。
兄さん達はなんだか足取り重くデスクに戻って、お弁当を開けている。
彼女さんの愛が詰まった愛妻弁当なんだから、もっと喜べばいいのに。
さて。私は自分のお弁当の片付けをしよ。最後一個残っちゃってるから、それ食べよ。
もりもり沢山食べる兄さん達が満足する量+αをと思って作ってきたバケットサンドは、トトメスさんとジャッキーさんが比較的少食だったこともあり、無事足りたようだった。良かった良かった。
ってあれ?何時の間にか皆さんがいないや。いつお仕事に戻ったんだろ。
「「……」」
「…どうしたの兄さん、食べないの?」
BLTのバケットサンドをもぐもぐしながら二人の方を見ると、何故かお弁当のフタを持って固まっていた。
なんだどうした。
「…ナマエ、このお弁当は、貴女が?」
「へ?ええわたしが預かってきたものよ?」
「…預かってきた?…だれから?」
「それは勿論、兄さん達の彼女さんから。可愛い方達ね、彼女さん。遠慮しないで家にも呼んでいいのよ?言ってくれれば私その時間家空けるし」
「……誰だそれはーーーーーーーーーー!!!!!!!」
どんがらがっしゃーん!どーん!どかーん!!…と、口で効果音を発しながらクダリ兄さんがデスクでちゃぶ台返しをするパントマイムを披露してくれた。
「誰って。ひどいのね兄さん、自分の彼女に対して誰だなんて。見損なったわ」
「いやいやいやナマエ何言ってるの!?ぼく彼女なんていないよ!?お弁当もナマエが作ってくれたやつじゃなかったの!?」
「……えっ?でもしっかりと、兄さん達の彼女だって言ってたわよ?」
「嘘!嘘だからそれ!誓ってぼくは今フリーです!」
「え、ええ!?」
えっ、なになにどういうこと?
あの女の子達はノボリ兄さんとクダリ兄さんの彼女さんじゃないの!?
「…いるのですよ。わたくしたちのファンだと謳い、ストーカーまがいのことをする困った方々が。その一部の方はよく分からない妄想に取り付かれておりまして、わたくしやクダリの恋人であると吹聴するのです。」
ノボリ兄さんはげっそりした様子で、お弁当のフタを閉めている。
え、えっと…つまり…?
「…じゃあわたしが会った女の子達は、自分は兄さん達の彼女だと思い込んでるだけのただのファンだったってこと?」
「はい、そういうことでございます」
…なんだそりゃ。あれか?運動部のエースのイケメンに女子が集るあの図か?
『先輩〜私のタオルつかってくださ〜い!』『先輩!ドリンク用意したんです〜』『先輩、私のお弁当たべてくださーい!』『いえ私のお弁当を!』『私の!』『何よ!あんたたち邪魔よ!先輩は私の…』『いいえ私の…』ギャイギャイ!
…みたいな?一昔前の少女漫画のコレ?
…うわあ。
初めて生で遭遇したわ。
「…じゃあ妹であるわたしは、その人たちにとってこの上ないカモだったと」
「…ええ。ネギを背負っていたでしょうね」
「カモネギ…」
上手い様に使われた…わけ…。あーまぁいきなり腕掴んでくるとか、ちょっと変だとは思わなくもなかったけど。
でもまさか自称彼女さんだったとは。そこまで頭回らないわよ…
「なんか変だと思ったんだ…ナマエがぼくたちに対してこんなちっちゃいお弁当を用意するわけないし…ましてやにんじんを星型で抜くとか…」
「ああ…うん、しないわね…」
「でんぶでハートも描かないでしょう」
「描かないわね…」
「描いてもいいんだよ?」
「ハイハイ」
「流された!」
「とにかく、手をつける前に気付けたのは幸いでございました。これは元通りにして、駅構内にあった忘れ物として処理いたします。ナマエも、これを受け取ったことは無かったこととし、誰にも漏らさぬように。以降、本人に捕まってしまったら全力でとぼけて下さいまし」
「…はい。なんだかごめんなさい、面倒なことを持ち込んでしまって」
「知らなかったのですから、仕方ありませんよ。ナマエが気に病むことではございません」
「…うん」
「でもお腹すいた〜」
「う"っ、ご、ごめんなさい兄さん。本当は用意してきたの…だ、けど…サンドイッチはもう…」
私の手にある食べかけ以外、全てクラウドさん達のお腹の中だ。
「悪いけど、適当なものを買って食べてもらえると…」
「…じゃあせめてそれちょうだい。ぼく達に作ったんでしょ?」
クダリ兄さんが指差したのは、食べかけのBLTサンド。
「…食べかけよ。これ」
「うん。あー」
あーん、とクダリ兄さんが口を開ける。…まぁいいけど。
大きく開けた口にサンドイッチを運ぶと、ばくりと大きく一口かぶりついた。もぐもぐと租借し、飲み込む。
「ん。おいしい!じゃあ残りはノボリのぶんね」
「はい。いただきます」
「へ?え、ちょ!?」
ノボリ兄さんが私のサンドイッチを持っている方の腕を取り、そのまま私の手からサンドイッチを…食べた。
…えー?もうなんなのこの双子?
ノボリ兄さん、今の無駄にエロかったです。…ちょっと私の指舐めたし。
「美味しいです。流石ナマエですね」
「え、あ、ありがとう…?」
そして頭を撫でられる。
私がどう反応して良いか分からずポカンとしていると、兄さんたちは乗務員室に入ったときに脱いだ制帽とコートを、何故か再び身に着け始めた。
「いよっし。じゃあ午後もがんばろっか、ノボリ」
「はい、頑張りましょう。クダリ」
「…え?兄さん達、お昼は?」
「今たべたよ?」
「大変美味しゅうございました」
「…いや食べてないわよ!?」
何を言ってるんだこの人達は!?
「頂いたではありませんか、BLTのバケットサンドを」
「正気なの兄さん!?あなた達燃費とっても悪いじゃない!今の一口なんて食べたに入らないわよ、栄養不足で倒れちゃうわ!」
「確かに少々少なくはありますが、もうそれしか残っておりませんでしたし」
「何か他に適当なもの買って食べてよ!」
「やだ」
「何で!?」
「今はナマエが作ったもの以外、食べたくない気分なの。他のもの食べるくらいなら、お腹減ったのがまんして、夜にいっぱい食べるよ!」
「…まぁ、そういうことでございます。」
「な…!?」
あんまりな理由に声が出ない。そんな私に対して、憎たらしいことに二人は優しく微笑んできやがった。
こっ……、この人…たちは……!
…反則だろ!!!
なんなのもう!エスパータイプか何かなの!?
…くそっ、受けて立つわよ!
「…じゃあ兄さん達はこの昼休憩の残り時間、中途休憩にずらしてちょうだい。
何か食べたいものはある?」
「ナマエがさっき作ってきたやつが食べたい!」
「右に同じでございます」
「バケットサンドね、了解。…覚悟してね?あんなこと言ったからには、もうその辺に売ってるようなものなんて食べられないような舌にしてあげるから」
キッ、と兄さん達の端正な顔を睨みつける。
せいぜい、これからの彼女探しに苦しめばいいんだわ。
私より料理上手な人、探すの結構大変なんだからね?
兄さん達の胃袋は、私が掴んで放してあげないんだから!
「ヒュウ!ナマエかっこいーい。惚れちゃう」
「あら、惚れ直すの間違いでしょ?」
「では明日以降の昼食も、お願いして宜しいので?」
「ええ、昼間の時間がありすぎて暇潰しに困っていたところなの。喜んで用意させて頂くわ」
「わーい!」
「じゃ、一旦帰るわね。食材の買い出しに行かなきゃいけないから、ちょっと時間がかかるわ。悪いけど2時間我慢して」
「分かりました」
「…で。兄さん達はその間、1戦だって負けちゃ駄目だからね?そして2時間後は、私に最高のバトルを見せて。兄さん達の勝ちバトル」
「これは腕が鳴るね?ノボリ」
「ええ。腰のボールも、カタカタと揺れております。お約束いたしましょう」
「じゃあ、また後で」
空のバスケットを手に、乗務員室を後にする。
もう、これでもかというほどの量を作ってきてやろう。
それでも、間違いなくあの二人は完食してくれるのだろう。『美味しい』という言葉と共に。
私の大好きな兄さん達は!
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一人暮らしをしてみて分かる、お弁当のありがたみ。
お弁当箱は魔法の箱なのです。
サブウェイマスターって会いに行けるアイドルですよね。
思いの外ヒロインがしっかりサブマスが好きみたいで、書いてる私がびっくりしました。なんとまあ。