「はーい、お待たせ。あなたたちのお姫様連れてきたわよ〜」

「遅くなってごめんなさい。ノボリ兄さん、クダリ兄さん」

「わー!ナマエかわいい!」

「よくお似合いでございます。綺麗ですよ」








13.本当のこと









あの後、カミツレさんの専属メイクさんのサロンにてメイクをしていただき、化粧品の購入リストを作っていただいた後、休憩を挟んでスタイリストさんと合流し、ショップをハシゴしまくった。
…もう、本当…すごかった。何がって、カミツレさんの情熱が。
正直舐めてた。
わたしもとても楽しかったのだが…試着ってなんであんなに体力削られるんだろな…

一応予定を全てクリアして、今はカミツレさんが兄さんたちとよく使うのだという会員制のバーです。
しかもVIPルーム。本当金銭感覚狂いそうだ…


「もう本当に楽しかったわ!久しぶりに熱くなっちゃった」

「それはナマエの顔を見れば分かります。随分連れ回したご様子で」

「化粧品も服も、全てナマエちゃんに見合うものを全力で探させていただいたもの。
あ、でも一部店舗の取り扱いがないものもあったから、このメモに書いてあるものは後日通販で取り寄せて頂戴。」

「了解いたしました」

「あはは、ナマエぐったり」

「カミツレさんの体力を見習いたい所存です…」

「荷物はこれで全部でございますか?」

「まさか。ここにあるのはすぐに必要なものを含めたほんの一部。残りはウチのスタッフが近日中にあなたたちの家まで届けるよう手配したわ」

「そうですか。ナマエ、楽しかったですか?」

「はい…うん。人に服を選んでもらうなんて新鮮だったわ」

「わたしの知り合いを何人か召喚したのだけれど、皆仕事でもないのに嬉々として協力してくれたわ。今着てるブランドのプレスなんか、ナマエちゃん撮りたがってたし。」

「えっ、ナマエモデルやるの!?」

「え、まさか。社交辞令よ、クダリ兄さん。私なんかが務まらないわ」


確かに今の姿は一般的に見て美人の部類に入るだろうけど、そんなモデルになれるほどじゃない。
まぁ浮かれなかったと言えば嘘になるけど。モデルとか。


「そんなことないわよ。ほんとにやらない?カジュアルブランドだし、写真撮るだけならナマエちゃんは背も十分よ」

「とんでもない。やりませんよ!」

「やればいいのに!ぼくらの妹かわいい!サブウェイマスターの名前も出して売り出しちゃえ!ね!ノボリ!」

「ええ、わたくしは構いませんよ」

「ノボリ兄さんまでからかわないでよもう…」

「ふふ。…あぁそうだ二人とも、ナマエちゃんがね、二人に話があるって」

「話?」


ハッと隣に座るカミツレさんを見ると、わたしと目を合わせて笑顔で頷いた。
…今、ここで、ですか…。

でも、丁度いいかもしれない。
昼、カミツレさんに話した時からお二人にもすぐ話そうということは決めていた。
カミツレさんがなんでもないことのように受け止めてくれたことはわたしをとても勇気付けたし、それに何より、話さないのはお二人に対して失礼なような気がした。信用していないみたいで。
だから、できるだけ早くに話したいとは思っていたんだ。

頑張れ、私。


「ノボリ兄さん、クダリ兄さん。…いえ、ノボリさん、クダリさん。わたしは、お二人に謝らねばなりません。…私はお二人を、騙しています。」


…わたしに好意を持ってくれた人に対して、助けてくれた人に対して、後ろめたいのは、嫌だから。
妹として迎えてくれた、この人たちに。


「私は、孤児ではありません。家も追い出されておりません。両親は健在ですし、親子仲も良好です。…身、一つで、行くアテが無いことは、本当なのですが」


すー、はー。ああ心臓がうるさい。
怖くてお二人の顔が見れないが、今どんな顔をしているかな。


「わたしは、この世界の人間ではないんです。わたしが生まれ育った世界には、ポケモンは実在してません。いきなり昨日、こちらの世界に来てしまったんです。信じられないとは思いますが、本当なんです。
昨日は朝からの記憶が無く、気付けば電車に乗っていてギアステーションにいたのです。
…そして、こんなこと誰にも話せないと思い、孤児だという嘘を、つきました。

騙して、ごめんなさい。」


…言った。ちゃんと言った。
クダリさんが放心したような声で問う。


「…この世界の人間じゃない?」

「はい」

「…まとめます。ナマエは生まれ育った世界には、両親もいらっしゃり帰る家もあるものの、突然見ず知らずのこの世界に何故か来てしまった為に、行くところがなかったと。…そうおっしゃるのですか?」

「…はい」


勇気を出して顔を上げてみる。
下を向いていては駄目だ。目を見て、話そう。

お二人は、口をポカンと開けて驚いている。ああこういう顔をすると本当に一緒の顔に見えるな。


「…だって。ノボリ。びっくりだね」

「ですね。予想外でしたね」

「えーちょっと自信あったんだけどなぁぼくー」

「残念ながらかすってもおりませんね」


…ノボリさんとクダリさんはなんだかよく分からないことを言っている。
そこにカミツレさんが口を挟んだ。


「二人とも、何のお話?」

「ナマエは本当は何があったんだろうねー?っていうのを、ノボリと予想してたの」

「まさか異世界とは。そこまでは考えが及びませんでした」

「ちょっとねぇ。思わないよねぇ〜」

「……ちょっと待って下さい?」


予想してた?

ん?…待て待て待て。…え?


「あの、えっと…お二人は、私が嘘を付いていることに気が付いてらっしゃったんですか?」

「うん。気付いてたよ?」

「え、い、いつから?」

「ぼくはけっこう最初から」

「わたくしは昨晩のリビングです」

「え、ええええええ?えっ、ちょっ…えっ!?」


…どういうこと!?


「二人はどうして嘘だって気付いたの?」

「うん?ぼくはふつーにナマエ見てて。あ、嘘付いてる、って。カミツレも見たら分かると思うよ〜ナマエ嘘付くの下手だもん。超不振。」

「それは暗にわたくしが鈍いとおっしゃってるのですか?クダリ」

「否定はしなーい」

「…わたくしは、クダリとナマエの会話を聞いて、ですね。
その時、ナマエはクダリの『ポケモンを持たないのか』という問いに対して、『帰らねばいけなくなった時に可哀想だから』と言ったのです。
もし本当に孤児で引き取られた家庭から追い出されたとすれば、そこに帰らなければならなくなるというのは、考えにくいですから」

「……」


そういえばそんなこと、言ったっけ…?
クダリさんが指摘もせず普通に流したから、気にも留めなかった。
…にしても、何で…


「…どうして、そんな嘘をついていると分かって、泊めたりしたんですか?」

「嘘じゃなかったから。泊まるとこないの。ぼく、ナマエが悪い人には見えなかったし。それにおんなじ顔のおんなのこなんて面白いし。けっこう気まぐれ」

「き、きまぐれ…」

「すみません、わたくしは警戒いたしました」


ノボリさんが苦笑しながら言う。


「昨晩、シャンデラが起きていたでしょう。実は監視を頼んでいたのです」

「…えっ、そ、そうだったんですか?」

「ええ、あなたが何か不振な…そうですね。何かを盗もうとするであるとか、そういった動きを見せたら、サイコキネシスで動きを封じた上でわたくしを起こすよう命令していたのでございます」

「そんなことしてたのノボリ」

「はい。まさか窃盗ではなく、一宿一飯の礼と称して夜を徹して家事をやられるとは考えもしませんでしたね。笑い話です」

「ああ。あなたたちの部屋汚いものねえ…あれに手をつけるとは。勇者ね」

「シャンデラの様子を見ても、わたくしたちに近づいたのは悪意を持っての行動ではないと分かりましたので。それならば家政婦として住み込んで頂ければ都合がいいと考えまして。手のひらを返した訳でございます」

「…だってよ?ナマエちゃん」

「…ちょっと脳が追いつかないです……」


気付いていた…とか。
えっと、つまり…つまり?


「…嘘を付いたこと、怒らないんですか」

「え、うん。怒ってないよ?」

「わたくしも特に。」

「…何故。」

「ナマエもともと嘘つくような人じゃないでしょ。そんな人が嘘ついてる。何かあったんだな。でおしまい」

「わたくしも大方クダリと同意見です。何か事情があるのだなと思っただけでございますね」

「…でもまさか異世界から来たとかな〜ぼく家出だとおもった!」

「それは考え付いたのが唯一家出だっただけではありませんかクダリ」

「まあそうともいう」

「…はあ…」


肩の力が抜ける。へなへなという音が聞こえそうな勢いで。

…何?じゃあ私は一人で空回っていただけなの?こんなに緊張したのに?


「じゅ、柔軟すぎ、です…異世界とか、驚かないんですか」

「え、びっくりしたって言ったじゃん」

「…軽いですよ…」

「世界は不可思議なことで溢れているのでございますよ。ナマエ。伝説ポケモンでは時渡りをすると言われているものもいるのです。何が起こるかわからないものです」

「…そ、そう、ですか…アハハ」

「……ぷ。ふふふふ…ナマエちゃん一本取られたわねえ。お昼すぎ、あなたたちと別れた後にね、泣いたのよこの子」

「か、カミツレさん!」


ちょ!やめてカミツレさん言わないで!
もう私のライフはゼロよ!!


「嘘をついてしまったことで二人に嫌われるのが、拒絶されるのが怖いって。それはもうボロボロと。ね、バチュル?」

「ばちゅ〜」

「あ、あ、あ…えっと…」


寧ろ今恥ずかしさで泣きたい。
一人気にしてたわたしが馬鹿みたいじゃないか。ていうか馬鹿だったじゃないか。あんな号泣して。それでオチがこれとか。

あああああああお二人もそんな慈しむような目で私を見ないでえええええええ


「あは。ナマエ顔まっか。ダルマッカみたい」

「うるさい妹属性の変態」

「だ、だから違うって言ってるでしょおー!?それまだ引っ張るの!?」

「ああー!もううるさいうるさい!いいんですわたしが言いたかっただけなんです!お二人に嘘ついたままで生活するのが嫌だっただけなんですよ畜生緊張して損した!」

「…だそうよ?愛されてるわねぇ二人とも?」

「違います私が愛しているのはバチュルです。相思相愛なのです。ねーバチュル」

「ばちゅー」

「おやいつの間にそんな関係に」

「ふっふっふ〜照れなくてもいいんだよナマエ〜」

「うっさい」

「ノボリ、妹が反抗期」

「早いのか遅いのか判断しかねますね」

「あらあら」

「……これからしばらく、お世話になります。ノボリ兄さんクダリ兄さん。
私、いつどうやってもとの世界に戻れるのか、戻ってしまうのかわからないけど、どうかそれまでわたしをお二人の下に居させてください」

「うん!いいよ!」

「こちらこそ、改めてよろしくお願い致します」

「…昨晩も、今朝も。二人の強引な優しさ、嬉しかったわ。ありがとう。」

「ノボリ、反抗期おわった」

「早かったですね」

「うっさいなぁもう!」






…して、わたしが気に病んでいたことはすっぱりあっさり解決してしまいました。

でも、言えてよかった。

なんだかやっと、二人の『妹』になれたような、そんな気がします。









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シリアスパートをさっさと片付けてしまいたかったのが見え見えである。

一応これで第一部的なものが終わりました。のでこの設定の短編とかに手を出していきたいな。
しかしまぁ話の進行が遅い。遅かった。
トリップなんてもんをしたらどんだけ大変だろなーってところをリアルに書きたかったこともあり、ここまでめちゃめちゃ長くなってしまった。ちょうグダグダ。

これからはこの兄妹の生活をグダグダ書いていきたいです。ラブストーリーとはなんぞや。


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