「私を当日アポで呼びつけた挙句待たせるなんて、いい度胸ねサブウェイマスター?

…で?そのかわいこちゃんは誰かしら?」


ノボリさんとクダリさんに連れられギアステーションから程近いオープンカフェに行くと、なんかすごくお綺麗な方がいらっしゃいました。

帽子とサングラスという姿なのに、…いや、寧ろその『お忍びです』感のせいか、スターのオーラを振り撒いていらっしゃいます。



「あらバチュル。どう?ビリビリクラクラしてる?」

「ばちゅー!」










11. カミツレさん。と、お兄ちゃん?テイク2










「お待たせして申し訳ございませんカミツレ様」

「ごめんごめん〜」

「あなた達が珍しくどうしてもなんて言うから、頑張って早めに撮影切り上げて来たのに。とんだ頑張り損だったわよ」

「ではそれで先月の貴女様の大遅刻の件を帳消しということで」

「あら、言うじゃないノボリ」

「ごはん〜ごはん〜♪」

「あなたも相変わらずねクダリ」


ノボリさんとクダリさんはそのお綺麗な女性が座っている席へと腰を下ろした。
待ち合わせをなさっていたようだけれど…この方は一体?
随分と親しそうだ。


「ああナマエ様申し訳ございません、ご紹介致しますね。この方はカミツレ様。ここライモンのジムリーダーを務めてらっしゃるお方です」

「ジムリーダー…!」

「あーんど!テレビや雑誌でひっぱりだこのスーパーモデル!カワイイでしょ〜」

「す、スーパーモデル…!」


一見したときから只者ではないだろうと思ったが、スーパーモデルの…ジムリーダー…。
なんだかとにかくすごい方なんだな…!?
肩書きが全て派手だ。
でもそんな方が何故ここに?


「カミツレ様、この方はナマエ様と仰います」

「ナマエちゃん。どうもはじめまして、カミツレです。会えて嬉しいわ」

「あ、ナマエです…!こちらこそお会いできて光栄です」


カミツレさんは掛けていたサングラスを外し、にっこりと微笑んだ。
うっ、美しい…!周りにキラキラとしたエフェクトが見える。
挨拶を交わすと、またサングラスをかけ直してしまった。残念。


「ごめんなさいね。ライモンだと人が多いしどうしても目立ってしまって、迂闊に外せないの」

「あっ、い、いえ!すいませんじろじろ見てしまって…!」

「いいのよ。かわいい女の子が見てくれるのはモデルの勲章だわ」


かっ、かっこいい…!
ていうか年自体はそこまで変わらないと思うんだけど…なんだろうこの圧倒的な差。女の子って…ちゃん付けだし…。


「あはは。カミツレも相変わらず女の子すきだねー」

「ちょっと、誤解を招くような言い方しないでよ。…にしても、ナマエちゃんって随分二人と似ているわよね?あなたたちに妹がいるなんて話は聞いたことがないけれど」

「昨日できたの!ナマエはぼくたちの妹だよ!」

「なぁにそれ」

「カミツレ様をお呼びしたのは他でもありません。少々お頼みしたいことがあるのでございます」


あ、そうなんだ。
こんな綺麗な方に頼みごとって、内容が想像できないな。なんなんだろ。
あ、ランチセットのスープうまい。


「ふぅん…内容によるわね。何?」

「今日一日、ナマエ様を連れまわして着せ替え人形にしていただきたいのです」

「乗った」

「…は!?え、私?」


な、なにそれ!?着せ替え人形!?
危うくスープ噴出すところだったんですけど!
てゆかカミツレさん即答した?今。


「の、ノボリさん?何を言って…!?」

「詳しく話すと長くなりますので省略させて頂きますが、ナマエ様は今現在、衣料品から生活必需品、とにかくなにもかもをお持ちでらっしゃらないのです。カミツレ様はこういったことがお好きでしょう。一から十まで見繕って差し上げて下さいまし。支払いはこれにて」

「ノボリさん!?」


ちょ、ちょちょちょ何ブラックカード渡してるんですか!
そして着せ替え人形ってそういうことか!確かにノボリさんとクダリさんのところにご厄介になるにあたって、生活必需品の類と多少の服はお金を借りて買わなきゃいけないかもですが!
何故カミツレさんに頼むの!?そしてカミツレさんも何故そんなに嬉しそうになさっているのだ!?


「ふふふ、いいわね〜。もちろん上限金額なんてつまらないことは言わないわよね?」

「ええ。貯まるばかりで使い道もありませんし、お好きにお使い下さいまし」

「そう♪」

「ま、待ってください!買い物ならそんな、カミツレさんのお手を煩わせるまでも、自分で…!」

「それはなりません」


んなっ!?


「な、何でですか!?」

「ナマエ様お一人では、わたくし達に気をお使いになられてごく最低限のものを安価第一で買われるに間違いないからでございます」

「い、いいじゃないですか別に!」

「あら駄目よ、ちゃんと自分に合うものを選んで買わないと!任せなさい、あなたを最高にクラクラさせるものをわたしがコーディネートしてあげるわ!」

「よろしくねカミツレ〜」

「く、クダリさんまで…」


もぐもぐとハンバーグを頬張り、いつも以上にニコニコなクダリさんが口を挟んできた。
あ、口の横に食べカス付いてますよ。…じゃなくて。


「そ、そんなことをしていただくのは…悪いです…!」

「いいの!ナマエはぼく達の妹になったんだから甘えればいいの!
カミツレ!これぼくのカード!ノボリとおんなじくらい使っちゃって!」

「クダリさん!」

「あとそうそれ!そのクダリさんっていうの!だめ!ちゃんとお兄ちゃんってよぶ!ほらっ」

「え、ええっ!?」


なんでそんな話になるの!?


「ナマエちゃん、いいじゃない。二人が出してくれるって言うんだから」

「カミツレさんまで…!」

「カミツレ様の言う通りでございますよ、ナマエ様。それにこの方は、女性を着飾ることが何よりも大好きなお方なのでございます。付き合って差し上げてくださいまし」

「こらー!ふたりとも話に水差さないで!ホラッ、ナマエ、お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「いえ水を差したのはどちらかというとあなたですよクダリ。…ですが、そのことに関してはわたくしも話をさせていただこうと思っていたところでございます」


あ、ノボリさんめんどくさくなったのか話を終わらせやがった!このやろう!
ぐぬぬ…昨日からこの二人には負けてばかりだな…!泊まることといい、住み込みのことといい。人の話を聞いてくれ。


「ギアステーションにて鉄道員とお話をされたのならば、耳にされたかもしれませんが…わたくし達はナマエ様を我々の妹ということで説明させていただきました」

「ああ…はい。妹さんだから〜と皆さん自己紹介して下さいました」

「あら、なに?結局ナマエちゃんって二人の妹じゃないの?…でも顔そっくりよね?年は違うけれど、三つ子みたいよあなたたちって」

「厳密に言いますと、違います。ナマエ様とわたくしたちに血の繋がりはございません。ですがこの度、わたくしたちの家にて共に生活することと相成りました」

「…また変な関係なのね。口挟んでごめんなさい。続けて?」

「はい。…ナマエ様をわたくし達の妹と致しました理由は、カミツレ様が仰いますように我々の関係が少々奇妙な巡り合わせでございますため、無意味な混乱を招かない為でございます。クダリと話し合い決めさせて頂きました。」

「はぁ…まぁそれは、分かります。特に異論はありません」


顔がそっくりで、一緒に暮らしていて、でも妹じゃないってのは…うん。
果てしなく面倒だよね。きっと。
妹ですか?って聞かれるのを一々否定していたらきりが無いし、そもそもこれだけ似ていたら信じてももらえないだろう。
それなら最初から妹ってことで認識してもらったほうが手間がない。


「つまり、これからはわたくし達は兄妹、家族ということなのでございます」

「…本当はただの住み込みの家政婦、ですけどね…」

「ナマエちがう〜!家事手伝い!の、ぼくらのいもうと!」

「…家事手伝い…」


家事手伝い、ね…。なんか家事手伝いってネーミングだとニートっぽいなぁ…
いやまぁニートだろって言われたら否定出来ない気がするけれども。


「そこで、でございます。まがりなりともわたくし達は家族なのです。そう考えますとナマエ様…いえ、ナマエの言葉遣いは、家族に対してのものとしては固すぎではないかと。」

「えっ、それノボリさんにだけは言われたくないんですが」

「わたくしはこれが地の口調でございますので。ですが、ナマエはポケモン達に対してなどは砕けた話し方をするではございませんか。わたくし達に対しても、そのようにお話いただきたく。」

「…敬語をやめろと?」

「だってお兄ちゃんに対して敬語なんておかしいじゃない!」

「ん、ん〜…まぁそう…かもですけど…」


でも…昨日知り合ったばかりだよ?しかも私からすれば一種の、いや立派な恩人だ。
…まぁ半無理矢理な部分は多々あったが。
そんな方々に対してタメ口っていうのはちょっと…というかだいぶやりずらい。私は。


「い、今すぐ変えなきゃダメですか?」

「ダメ!」

「このような事は、出来る限り早急に切り変えた方が宜しいかと思われますが?先延ばしにするのは得策ではございませんね」


ぐぬぬ…確かに正論だ。
後に延ばしたら、より変えづらくなるか…。
…仕方ない。


「わかりました。あ…いえ、えっと……わかったわ。これでいい?ノボリさん、グダリさん」

「ダメ!」

「ダメでございます」

「…は?」


何でよ。敬語やめたじゃん。


「ノボリ"さん"、ではまだ他人行儀でございます。呼び捨ててくださいまし」

「え、ええ!?さ、流石にそれは無理ですよ!」

「あ!また敬語!ダメダメ!」

「え、あ……な、なんと言われようと!呼び捨ては無理!」

「じゃあ"お兄ちゃん"!お兄ちゃんでもゆるしてあげる!」

「ぐっ…!!に、二択…!?」

「そう!どーするの?」

「ええ、どうなさいますか?」


こ、こいつら笑ってやがる…?くそぉこれが狙いか!?
呼び捨てか…兄呼びの…二択…。

……よ、呼び捨ては…やはり無理だ。このお二人を呼び捨てるなんて恐れ多くて出来そうにない。
でもだからって…お兄ちゃん、なんて…。私一人っ子だからお兄ちゃんなんて言葉ほとんど口に出したこと無いよ…!や、やっぱどっちも無理!

あっ、でもこれ逃げられそうにない。お二方また目見開いてる怖い!見開いてからかうように笑ってる怖い!ノボリさんはすんげぇ分かりにくいけど、でも笑ってる…クソッ
お、お、おにい…ちゃん…?お兄ちゃん……
…うっわ恥ずかしい顔赤くなってきた!

っあーあーもう!早く済ませよう!
『お』と『に』と『い』を続けて発音して語尾にちゃん付けるだけ!それだけ!!
それだけだ!!!


「…っぉ、……おにい…ちゃん…!
…ってあ、違ったえっと……の、ノボリお兄ちゃん、クダリお兄ちゃん!」

「「………………。」」


…言った!言ったぞ!言ってやったぞ!!
でもやっぱこれ恥ずかしいよ無理だよ!!
ていうか、反応無し?あなた方が言えっていうから言ったのに!
二人はあの怖い顔で固まってる。そしてカミツレさんはなんだか「うわぁ」というような顔をしてる…?

そんな中、硬直から先に立ち直ったのはクダリさんだった。


「…ね、ナマエ」

「な、何ですか…?」

「…もっかい、言って?」

「「………。」」←わたしとカミツレさん


ちょっと顔を赤くしたクダリさんが人差し指を立てて…言う…。
あ、わたし、ここに来てようやくカミツレさんの表情の意味が分かりました。


「…い、

嫌ですよ嫌ですよ嫌ですよ!!!!なんですかそういうことですかなんなんですかヤダー!!!!
おんなじ顔のハタチ越えの女にそんなこと言わせて楽しいんですかうわあああああああ」

「…引くわー。何?あなたたちって妹属性だったの?
ナマエちゃん、その性犯罪者手前の奴らから離れてこっちいらっしゃい」

「うあああんカミツレさあああああん」

「っち…!違います!断じて違います!そ、そんな趣味はございませんしそんなつもりではありませんでした!!ですよねクダリ!?」

「そ、そうそうそうそう!!!!!!た、ただこれからいっしょに住む家族としてナマエはぼくらのことお兄ちゃん呼びじゃなきゃおかしいよねって…!!あんまり嫌がるから面白くて、ちょっとからかったけど!そんなつもりないよ!!」

「じゃあさっきの『もう一発いい?』みたいな顔とジェスチャーはなんだったのよ、クダリ」

「ぼくそんな顔してないもん!!!」

「…してましたよ…」

「…ばちゅー…」

「やだあああああバチュルまでそんな顔でぼくを見ないでよおおおおお」








結局、呼び名は「ノボリ兄さん、クダリ兄さん」ということで落ち着きました…が。
ノボリさん、クダリさんのお二人との同居生活に一抹の不安を覚えずには…いられません…。



…どうなるんだろう、コレ。







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…クダリ寄り?か?

ヒロインとサブマスは5歳差くらい。20代前半と後半。
カミツレさん?不詳です。ちなみにポケモン仲間で飲み仲間。悪友みたいな。
ライモン組は麗しいねぇ〜。



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