▼徹夏・R18


※甘い苦い〜と同じ、逃亡設定
※けどこっちはただのイチャエロ





「夏野よ…急にどぉしたんだ?」

徹ちゃんが何を言いたいのかはわかっていた。けど、その声が妙に弾んで聞こえる訳まではわからない。

「悪かったな、似合わないことして。あと名前はやめろよ」

包丁を置いて振り返り、腰に手を当てて、ちらりと入口を睨み上げた。

このあいだ、こののほほんとした男に、料理という意外なスキルがあることが判明した。…負けず嫌いなタチの俺は、徹ちゃんに出来るなら俺にもできる筈、と早速エプロンと材料を購入してきた。バイト先で貰う弁当にも、飽きてきたし。
それで、アパートの狭いキッチンで食材と格闘する現在に至るわけ。

日が沈み、もそもそ起き出してきた徹ちゃんは、珍しくキッチンに立つ俺に驚いた顔をしてたが。それから入口に凭れて、どこかそわそわと楽しそうに観察を始めた。
…こんなのじろじろ見て、一体何が面白いんだ?しばらく放って料理を続けてたが、いい加減集中を欠くからやめてほしい。

「い、いや。似合わないどころか、だな…」
「?何?」
「あー…ゴホン。それよりソレは?家にあったか?」
「…これのこと?今日買ってきた」

着用した紺のエプロンをつまんでみせると、徹ちゃんはうんうんと頷く。

「夏野って、形から入るタイプだろう」
「……」

…悔しいが否定はできない気がしたので黙っていた。くるりと踵を返し、もう一度刻みかけの食材に向き合う。形が大分いびつな気はするけど…どうせ食べるのは俺だけなんだし、腹に入れば一緒だよな。うん。

慣れない包丁を扱ってると、遠い昔、母親の料理を手伝ったことを思い出す。いつからか、両親への反発心も手伝って、めっきりやらなくなってたな。

…珍しく、そんな回想に浸っていたのが悪かったのかもしれない。


「なんでも器用にこなしそうなのにな。意外とぶきっちょなんだ…夏野」
「!」

すぐ背後で、直接耳元に吹き込まれるような声がした。びくっと身体が揺れて包丁を持つ手を滑らせそうになったけど、その前に包丁ごとひんやりした手の中に握り込まれていた。

「ちょ、徹ちゃ…」
「ほら、こうだぞ。こっちの押さえる指はちゃんと丸めんと。指切ったら大変だろ?」
「…わ、わかったから。さっさと離れろよ…!」

かあっと顔に血が上るのがわかった。耳まで赤くなっていませんように、と切に思う。こんなことくらいでいちいち動揺する自分を、徹ちゃんには知られたくない。


「…嫌だ、って言ったらどうする」
「え?」

彼には珍しく、静かな感じのするトーンだった。冷たいゆびが俺の手から包丁を奪いとり、まな板の上へ、きちんと刃は奥に向けて。そのまま俺の腰へとまわる。

「ん、」

鼻先が首筋に埋められて、ふわふわの髪がうなじに触れてくすぐったい。身体を竦めると、さらにぐしぐしと押し付けられた。

「……なんだよ、徹ちゃん。腹へったの?」
「んにゃ。腹は、そんなに減ってない」

血を吸いたくなったのかと思えば、そうでもないらしい。

「じゃあ何。今おれ忙しいから、」
「ただ、可愛いエプロン付けて、一生懸命料理する夏野見てたらな……違うのが、食いたくなったとゆおうか」

全く理解できない台詞に、ぽかんとしてしまう。
…違うの?食べる?可愛い?

「はあ?あんた何言って……んぅ、」

突然後ろから顎を引き寄せられ、肩越しにふってきた唇にも勿論、体温はなく。けど、頭の隅がじんとしてそんなこと気にならなくなるまで、さして時間はいらなかった。

「っは、…違うの、って。あんた、血しか受けつけないんじゃ」
「…おれの一番の好物」
「好物?」
「なつの、」


最高にこっ恥ずかしい台詞に絶句してると、性格そのままの悪戯な手がエプロンの脇から差し込まれ、Tシャツを捲られた。





次からエロです



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