▼徹夏・ほのぼの




「うー、大分寒くなったなあ。コート着るには早いけど、夜はちょっときついぞぉ…」
「…確かに、風冷たいね」

バス停からの帰り道。
学校帰りに夏野を引っ張って寄り道したせいで、バスが外場に着く頃には日がすっかり落ちてしまっていた。村を囲む山から吹きおろすのは、秋を通りこして、その先の冬の気配さえ感じさせる風だ。

ブレザーの上から肩をさすりつつ夏野をみると、無意識だろうか、両手の指先を擦り合わせているところだった。その動作にふと、目を奪われる。

…夏野の手は綺麗だ。女の子みたいな、って言うとまた違うんだけど、俺みたいにごつごつ骨が出て節ばってないし、すらりとして爪の形も整ってる。農作業なんてしたことないんだろうな。はじめの頃、これが田舎と都会の違いって奴かあ、と思ったのが随分昔のようだ。

「?徹ちゃん?」

そんな指先が、今はなんだか酷く寒く、心細げに見えた。だからふと手が伸びた、そんな軽い衝動だった、のに。

ほんの少し指先がふれただけで、電流が走ったように大袈裟に手を引いて。その反応の大きさに、俺のほうもびっくりしてしまう。

「ちょ、何すんだあんた!」
「…いや、すまん夏野。そこまでびっくりされるとは思わなくて…」
「あ、いや…」

珍しく落ち着きなく目線をさ迷わせる夏野は、自分の過剰な反応にうろたえてるようにも見えた。

「男どうしでこういうのは、おかしい、だろ…」

搾り出したような声には、普段の落ち着きがちっとも感じられない。暗いからあんまり自信はないが…心なしか、顔が、赤いようにも見える。滅多に顔色を変えない、あの夏野が。

……これは、もう一歩進めてみてもいいってことか?夏野よ。


「なぁ、夏野」
「……だから名前でよぶなって」
「今日もこれから、帰って勉強か?」
「まあ…暇あればゲームばっかりの誰かとは、違うから」
「なはは。相変わらず手厳しいな…」

立ち止まって、こほんとひとつ、わざとらしい咳ばらい。

「じゃあ、手がかじかんで、鉛筆持てなくなったら困らないか?」

こうやって言い訳まで作って、お伺いを立てて。ずるいと思われてもいい、夏野の意思を、夏野の口から聞きたかった。

一瞬、僅かに目を見開いた夏野は、それきり黙りこんでしまう。沈黙は重くはなかったけど、それでも内心ドキドキしながら返事を待って。

「……それは、困るな」

そっぽを向いていたけど、でも、確かに届いた夏野の言葉と、気持ち。自分でも、残念なくらい顔中の筋肉が緩みまくるを感じた。

「夏野!」
「ぅわっ」

初めて握りしめた手は、何度か脳内で思い描いたより華奢に感じて、すっぽり自分の掌に収まってしまう。俺は生まれて初めて、自分の手が人より大きいことに感謝した。

いまはひやりと冷たいけど、その温度の差すら、嬉しいと思う。だって、違うからこそ、重ねることに意味があるんじゃないか?

「これからは、俺が夏野の手袋代わりだなぁ」
「……何馬鹿言ってんの」

呆れたような声も、今なら夏野なりの照れ隠しだとわかる。



ずいぶんあったかい手袋だな。



何故かもう冷たく感じない風が運んできた小さな呟きに、また胸に温かい何かが溢れて、握る指先にぎゅっと力をこめた。







★徹夏ではじめてのおてて繋ぎ。
二人はゆっくり距離を縮めていけばいいとおもう。

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