▼屍鬼と人狼・夏徹っぽい徹夏
病み気味
「徹ちゃんに、プレゼントやるよ」
そう言って夏野は、ちらりと口端に笑みを浮かべた。それはそう遠くない昔、夏野が俺に向けてくれていた笑顔とは比べるべくもないが、それでもこおった心臓がドクンと躍った気がした。だって今の夏野が俺に笑いかけてくれるなんて、本当に、滅多にないことなんだ。
「プレゼント…」
「いつもスパイとしてしっかり働いてくれてるだろ。だから、ご褒美」
「……」
ご褒美、という響きは甘かったけど、容易に信じるワケにはいかなかった。これまでも、ご褒美とか、報酬とかいう名目で、いろいろ辛い目をみてきた。夏野に何をされても甘んじて受けいれる、それが今俺のできる唯一で殆ど存在意義でもあるし、辛いなんて言う資格はないのだけども。
少し体を固くして待っていると、夏野は引き出しから大きめの包みを取り出した。
「ハイ」
「あ、ああ。さんきゅ…」
本当にものを貰えるとは思わなかったから、正直驚いた。おそるおそる包みを解いていって、現れた思わぬモノに思わず手が止まる。
「夏野……これ」
「いいだろ。父さんに頼んで作って貰ったんだ」
それは、首輪だった。
丁寧に作りこまれたとわかる、上品で重厚な赤の革。バックルは鈍く光る鉛色の金属。
大型犬用なのか、サイズは両手に乗らないくらい大きかった。
けれど、夏野がこれを犬の為にあつらえた訳じゃないのは、十分すぎるほどわかっていた。
「似合うと思うよ」
真っ直ぐ俺を貫く瞳。一瞬だけ言葉にしがたい思いで目が泳いでしまったが、黙って頷き、それを手にとった。
「貸して。…俺がやるから」
珍しく、夏野の方から俺へ手を伸ばしてくる。素直に歩み寄って、夏野が腰掛けるベッドの下、板張りの床に直接座りこんだ。それこそ本物の犬のように。
何も間違っちゃいない。既にひとですらない俺は、言わば夏野の犬なんだろう。そんなものでも側にいられるだけ幸せだ。同時に、辰巳や沙子たち…兼正の奴らの犬でもあるのは、情けないけど。
夏野の手で少しキツめに首輪を締められても、窮屈さは感じなかった。あ…もう息してないんだったっけ。
顔をあげると、どこか満足げに目を細めた夏野が、首に巻き付くそれを、形のいい人差し指でなぞっていく。
その動作があんまり綺麗で、俺は思わず、離れていくその指を目で追ってしまう。
「安心しろよ。徹ちゃん」
最近じゃ殆ど許されない近さで、夏野の声がした。年下なのに落ち着いた、耳に心地いい声。うぬぼれかもしれないが、俺の前ではほんの少し柔らかく、時々年相応の幼さを覗かせるのが、たまらなく好きだった。
「あんたは俺が大事に飼って、最後にはちゃんと……、殺してやるから」
おかしいかな。
その殺してやる、が、俺には殺してくれ、と言ってるように聞こえるんだ、夏野。
「…ああ、」
哀れな飼い犬は、自分を縛る首元の戒めに触れ、主の細い背を思い切り抱きたい衝動に耐えた。
★夏野さまの口から飼うって言葉が出たからには…なネタ。9巻読む前に好きにやってしまおうと思って。後悔はしてない。