▼徹夏


※パラレル
※夏野編第柩話で、夏野が言った通り二人で逃避行してたら…






「ただいま、」

バイト帰り、がらんとした部屋から返事はない。わかっていても毎回律儀に言ってしまうのも、あの両親の躾の賜物…と思うと何やら複雑だ。

ドアを閉めてしまえば、狭いアパートの部屋は昼間だというのに真っ暗だった。いくら待っても殆ど目が慣れることのない、ほんものに近い闇。閉じた雨戸の隙間に目張りまでしてるんだから当然か。

特に困ることなく、すたすた歩いて部屋に上がる。もう慣れたのもあるし、もとより部屋に物はほとんどない。

別に電気をつけても支障はないんだけど、何かがあって日光が漏れたときにすぐ気付けるように、俺は昼間のたいていを暗闇で過ごす。といっても特にすることもなくて、ぱたんと畳みの上に転がった。

暗闇には慣れた。孤独にも、慣れていた筈だった。けど、暗闇というヤツは、どうあってもひとを侵食するものらしい。じわりじわりと、身体のはじから食うように。

地の底のような闇の中にいると、どうしようもなく自分がひとりきりな気がしてくる。そんなことを言えば、夜目の効く彼は笑うだろうか?

…おもむろに、俺は立ち上がった。壁に沿って、部屋の一番奥にある、押し入れの前へ。まず手に触れるのは、遮光カーテンのつるつるした感触だ。

この中で、俺の同居人は、昼間のあいだ静かに眠っている。





押し入れに遮光カーテン、というアイデアを提案したのは、徹ちゃんの方だった。よくすぐ思い付いたね、と言えば、顔を曇らせて「辰巳が…」と言っていたからそれ以上聞くのはやめた。徹ちゃんの口から、その名前は聞きたくない。

本当は、昼間はよくないんだけど。

思いながら、手探りでカーテンをたぐり、押し入れをそっと開く。
暗闇に目をこらせば、微かに、ぼんやりした輪郭だけが見えた。探るようにして手を伸ばすと、指先に触れるひんやりしたモノ。ほっとする反面、ああ、命を持つものの体温じゃないなと思う。
それはいやでも、彼の葬儀を思い出させた。突然訪れた、無慈悲で絶対の、別れ。

…わかってる、コレが歓迎されるべき生き物じゃないことは。俺たちが背を向けたあの村は、もしかしたらもうあいつらに喰われてしまったのかも。

けど。徹ちゃんがあのままあの暗い穴で眠ったままだったら。ドロドロに腐って骨になって朽ちていっていたら。

そう思うと、たまらない気持ちになる。あいつらを憎んでいるのか、それとも心の底では受け入れているのか。俺はいつも、わからなくなる。









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