俺にアラタ、カナエくんにそのお父さん。そんな不思議な4人で先生に挨拶を済ませて、俺たちは揃って園の門に向かって歩いていた。

「なんかほんと、スンマセン。うちのアラタが、こんな時間まで面倒かけて…」
「あ、気にしないで下さい。アラタくんいい子だし、俺たちも楽しかったし!な、カナエ?」
「……」
「カナエ?」
「…うん。そうだね」

お父さんはともかくカナエくんの方は、ややご機嫌斜めらしい。何故かほんのり刺のある視線をコッチに感じる…気がする。さっき俺が到着したときは、楽しそうに見えたんだけどな。

「おっきいおしろ出来てよかったなー?アラタ」
「へへへー。うん!」

アラタはといえば、カナエ父のほうに懐きっぱなしだし。こう見えて人見知りの激しい息子なのに、初対面の大人にここまで懐くのなんて初めてだ。まあ、この人なら分からないでもないか…なんて、様子を横目で伺いながら思う。

「たまきちゃん〜」
「あ、こらアラタ。何度も言ってんだろ、よそのお父さんに何て呼び方するんだ!」
「構わないですよ〜。息子にだって名前で呼ばれてるくらいだし」

カナエ父、いや、タマキさんは、気にした様子もなくニコニコ笑う。それどころか、

「あの、アラタくん、さらさらで綺麗な色の髪してるなぁって思ってたんですけど。遺伝だったんですね」
「えっ…」

生まれ持ったこの金髪、幼い頃も社会に出てからも、珍しがられたり眉を潜められることはあっても、正面切って褒められたことなんてない。

アラタだけならまだしも、俺なんて褒めても何も出ねえのに…。

「ねーぱぱぁ、おかおあかいよ?」
「そ、そうか?…いやぁ、夜になってもまだまだ暑いな」
「だいぶすずしいとおもうけど…」

まだ何か余計なことを言うアラタの手をひっぱる。何でこんなに気持ちが落ちつかないのか、こんなに頬が熱いのか、自分でも問いただしたかった。





二人は徒歩で通える距離のアパートに暮らしているらしい。せめてもお礼にと、車に乗っていって貰った。

道中話をして驚いたのは、俺とアラタと同じく、タマキさんとカナエくんも二人暮らしの男やもめだってこと。
まさか、同世代で同じ境遇の父親とは思わず、俺たちは親同士、親近感で話が盛り上がった。

「え、IT関係のお仕事?…凄い!俺、パソコンはからっきしだから」
「そ、そんなスゲェもんじゃないですよ。えっと、お父さんは…?」
「おれは一応……警察官」
「警察官!?そっちのが凄ェじゃないすか」
「そんな、交番のヒラ巡査ですよ?」

恥ずかしそうにひらひら手をふる彼をバックミラー越しに見て、なんとなくピッタリの仕事だなと思った。警官の制服も似合いそうだ……って、何考えてるんだ、俺は。

ぶるぶる首をふったところで「あ、そこです」と声がかかって慌てて車を急停車する。

「わざわざ送ってもらって、なんかかえって悪かったですね」
「いやっそんな、俺の方こそ」
「じゃあ、俺たちはこれで…」
「あ、あの!」
「…え?」

思わず呼びとめてみたところで、きょとんと首を傾げるタマキさんを見たら声なんて出なくなった。
なんて言やいいんだろう、アドレスでも聞く?唐突すぎやしないか?
でも、ここであっさり別れて、このまま会えなくなるのは勿体ないとか、らしくもないことを思う。普段は近所付き合いとか、アラタにも注意されるくらいてんで駄目なのに。

いや、ほら、アラタもこんなに懐いてるし、おんなじような境遇の父親仲間ってなかなかいねえから……。

「……」

そんな言い訳じみたことをぐるんぐるん考えていてたら、またカナエくんの視線とぶつかった。そんな筈ねえのに、考えを見抜かれたみたいで居心地が悪い……。

「…タマキくん。おなか、すいたな」
「あっ、もうこんな時間か!ごめんなカナエ。あの、送って貰ってホント、助かりました!おやすみなさい」
「あ、はい、おやすみなさい…」

手を振って、親子仲良さそうにアパートに向かう姿を、結局黙って見送ることしかできなかった。

「はー…」

完全に姿が見えなくなってから、がくんと肩を落としたら、ズボンの足元をくいくい引かれた。さっきまで無邪気にはしゃいでいたアラタが、呆れ顔で見上げてくる。

「まったく。ぱぱったら、あいかわらずつめがあまいんだから」
「アラタよ、どこで覚えてくるんだ、そんな言葉…」

我が子ながら、この二重性格っぷりは誰に似たんだろう。今から将来が思いやられる。

それはともかく、幼稚園の息子にまで言われるようじゃ俺もおしまいだよな…。


「タマキさん、か…」

結局一度も口には出せなかった名前を唇に乗せて、また会えるだろうかと、ぽつぽつ明かりの灯るアパートをぼんやり見上げる。

待ちに待った再会はそう遠い話ではないと、このときの俺はまだ知らなかった。





★とりあえず、出会い編はここまで!
またちょこちょこ書いていきたいです



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