辺りには情事後特有のけだるい空気と微かに青臭い匂いが漂っていたが、酒のせいかクスリのせいか男たちは気にならないようだ。もちろんタマキも気になんかしない。

「…ふー。やっぱタマキちゃん、最高だわ。マジ具合いい」
「ん……そう?」
「その清廉そうな見た目と、ド淫乱な中身のギャップが、また堪んねえな」

なあ?と男が周囲に話をふると、「いっぺん回して下さいよぉ兄貴」だの「俺もタマキちゃんとヤりまくりてぇ!」だの、下卑た野次があがる。

やらしい手つきで頬をなでてくる無骨な指に、タマキは満足そうに目を細めた。

「…なあタマキちゃん、マジでおにーさんのモノになんね?大事〜に飼って、毎日可愛がってやるぜ」
「だあめ」

キッパリ即答すると、今まで厚い胸板にしな垂れかかっていた身体を起こし、にっこり笑う。


「知ってるでしょ。俺の身体はアマネのもので、心はカナエのものだから」


その笑顔に、男たちは思わず息を呑んだ。子供のように無邪気でいて、娼婦のように妖艶で毒々しく。

「まぁ…あの二人を敵に回す度胸がオニーサンにあるなら、考えてもいいけど?」

一見楽しそうなその目は、ぞっとするくらい底冷えていて、『身の程を知れば?』と語っていた。しばらく見入られたように黙っていた男だが、やがて諦めたように肩をすくめる。手の届く相手ではないのだと。

「あんな化け物たちを敵に回そうなんてヤツ、この街にはいねーよ。…ったく残念だ、そういう小生意気なとこも気に入ってんのによォ」
「ふふ。ありがと」

タマキはもそもそ立ち上がると、散らばった衣服や下着を集めて着け始めた。

「もう行くのか?」
「うん。あんまり待たせちゃ悪いし」
「待たせる?」

誰か来てんのか?と不思議そうに首を捻る男には、返事をしなかった。というか、男に向けた意識も興味ももう失っていた。

「じゃ、」
「おう。また抱かせろよ」
「気が向いたらね」

…10秒後には顔も忘れてそうだけど。





「お待たせ、カナエ」

タマキの予想通り、カウンターの一番端の席に、カナエの姿はあった。前に置かれたたっぷり汗をかいたグラスは、ちっとも中身が減ってないようだ。

「ごめんな。迎えに来てくれたのに、待たしちゃって」
「……」
「あれ、カナエ、何か機嫌悪い?」
「…わざとやってるの、それ」
「んー、何が?」

のんびり首を傾げ、広くあいたシャツの襟から首元を覗かせる。もちろんわざとだよ、カナエ。

いつもはふわふわ優しい栗色の瞳が、氷のように冷えてタマキを貫いた。カナエは普段から格好いいけど、別人のように鋭利な美貌で睨めつけられたら、ぞくぞく背中をかけあがるものがある。

「…マスター、奥、トイレ借りるよ」
「……お好きにどうぞ」
「来て」

タマキの返事も待たずにそのまま強引にひっぱられ、店のトイレに連れ込まれた。

手首を掴む、普段じゃ有り得ない強すぎる指の力に、タマキはゆったりと微笑むのだった。






タマキの遊び相手って色々いると思うけど、このモブはちょっとイイ奴。身体目当てだけじゃなく、アマネに酷くされてボロボロのときとか、心配もしてくれる。
けどタマキが心を許すのは、カナエ(とアマネ)だけだよね


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