▼星リク・かるい話



リクルートは生意気だ。

まだまだこの橋の下じゃ新参者でひよっこの癖に、顔見りゃ人に向かって嫌味皮肉あげくに暴力、スイッチが入りゃ自慢のオンパレード。もうちっと先輩を立てて腰を低くしてもいいと、この星様は思うわけよ。可愛くないったらありゃしねえ。
いや、こいつの性格の悪さは初対面から確信してたし、生意気じゃないこの男なんて想像するだけで気色悪ィから、そんなとこも何だかんだ気に入ってる…のかどうかは置いといて。

何をどう間違ったのか。未だに信じられないがこの俺がうっかりこいつに惚れてしまい、更に良いのか悪いのかその気持ちが通じてしまってからも、リクの態度は一向に変わらなかった。それどころかむしろ、酷くなる一方だ。

「人に慣れ慣れしく触ってくるなよ」「男同士でべたべたして何が楽しいんだ理解できない」「それ以上近付くな殴るぞ」「俺に許可なく触っていいのはニノさんだけだ!」えとせとら。

おいおい、近寄らない触らないでどうやって恋人たちは仲を深めんだよ!?
(自称)恋愛百戦錬磨の俺でもこうなればお手上げだ。呆れもしたし、正直ちょっと落ち込みもした…やっぱりニノがいいのかよとか云々かんぬん。プライドにかけて絶対口には出してやらないが。

それとも男同士だとまた勝手が違うのか?流石に経験ねーからわからねえな…。最後にゃそんな下らないことまで考えたが、そもそもこんな恋愛ピカピカ一年生の野郎に、男との経験なんてものはある訳なかった。


こうして俺たちがいびつな付き合いをはじめて、3か月も経った頃。宥めすかし鳥肌が立ちそうな言葉で口説きついには半ば強引に、俺はようやくここまでこぎつけたのだ。ああ、気の長い方とは言えない俺にとっちゃ、本当に果てしない道のり!自分で自分を褒めてやりたい、マジで。


「…っ…、いいか、リク。いくぞ…」
「あ、ま、まて」
「アホ。今更待てるかよ」
「お、おねがい…」

腰だけを高くあげ四つん這いになっていたリクが、慌てて顔だけでこっちを振り返った。まあ俺もぶっちゃけあんまり余裕はねーし、色んな意味で素の顔を晒してるだろうけど。…リクルート、お前その顔はねーよ。

ごくりと思わず唾を飲み込んだら、赤く染まった目が苦しそうに細められ、濡れた唇がゆっくり開いた。涙まじりの、普段の憎らしさからじゃ考えられないような、たどたどしい声で。


やさしく、してくれ。


その時俺は、どすん、と頭のかたすみにでっかい隕石が落ちる音を確かにきいた。


それからは暗転、ブラックアウト。空からふる一億のお星さま。





「…反則だよなあ」
「……あ?なにがだよ」

この汗をかいた髪が乾くまでは、愛用のマスクを被れない。一服しながら、暇つぶしがてらさらさらとやけに指通りのいい黒髪(お坊ちゃまは髪質まで違うってか。ハッ)を梳いていると、伸びてきた白い手にパシッとそっけなく弾かれた。

「触んなって」

あ、戻った。いつもの生意気なリクルートに。

「…いや、初めてわかった気がするなと思ってよ」
「だからなにが」
「女の子がよく言う、ギャップ萌え☆ってやつ」
「は?」
「普段は見せない彼の意外な一面。私だけに見せてくれるギャップにキュンときちゃう!ってな」

さっきまでの誰かの恥態を思い出しながらニヤニヤしていると、「死ね、変態」と憎々しげな悪態がとんできた。

「なんだよ。ずいぶん冷てーじゃん」

まったく、さっきまでの可愛げはどこいっちまった?
流石にちょっとムカついて、散らかった部屋から灰皿を探し出し、短い煙草を揉み消しながら振り返った……ら、いつのまにか、狭いソファの上にはでっかいタオルケットの塊。

「…あ?リク?」

ぶつぶつと、塊の中から声が聞こえてくる。

「信じられない…」
「ああ、俺はもう終わりだ…」
「何でこの俺が、星なんかと同じ思考回路なんだ…」

タオルケットのはじからは、隠しきれなかった黒髪と、可哀相なぐらい真っ赤に染まった耳が覗いていた。




リクルートは生意気だ。

(最近わかったんだが、それは素直になれないこいつなりの究極の照れ隠しらしい。)

ああ、くそったれ。
……なかなかどうして、男心をくすぐるじゃねーか!





▼結局リクも星のギャップにやられましたという話 あまあま


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