▼カゲタマ・DC2後
咄嗟だった、人ゴミの中にその明るい茶の色を、ふわふわ跳ねる髪を認めた瞬間、ぎゅっと腕を掴んでしまっていたのは。
「…何か用スか?」
不審そうにまじまじと見られ、はっとして手を離す。後ろ姿よりも幼いの顔立ちは、見たことのない顔だった。
「すみません…。人違い、で」
男は迷惑そうな顔をして、人ゴミにあっというまにとけていった。あとに残ったのは、確かなのに不確かな手の中の感触だけ。
…俺はあの茶色い髪を、一体誰に重ねたんだろう。
「お待たせ、タマキ。ちょっとレジ並んでて時間かかっちま……タ、タマキ!?」
カゲミツの声が上擦る。ジュースを両手に帰ってきた途端、タマキが腕にすがりついたからだ。
幻じゃない、勘違いでもない、確かなものに触れたくて。
折角買って来てくれたジュースが零れそうになっても、お構いなしだった。
「タ、タマキ…どうかしたか?ここ、外だし…いや、その、俺は嬉しいけど…」
こんな公衆の面前で、確かにらしくないな。カゲミツの方からしてきたら、普段なら蹴り飛ばしてる。自分でもそう思うけど。
見上げれば、今は頬を染めて困惑してるけど、ため息がでそうなほど整った顔があって、胸がくるしくなる。
それこそ、ホントはいつも綺麗な洋服をきて、自分は何にもしなくて良くて、何百何千もの人が彼の手足になって動く。そういう人。
俺みたいな庶民には、一生お目にかかる機会なんかないはずだった。
ヒカルは帰ってしまった、元の光の世界へ。
カナエは帰ってしまった、元の闇の世界へ。
…カゲミツも?
いつか届かないほど遠くに帰っていってしまうんだろうか。本当に彼が棲むべき世界へ。
「…ごめんな、ありがと」
腕を離して買ってきてくれたジュースを受けとると、余ったふたつの掌が、ぎゅ、と重なりあった。
「あ、」
「…ん。ワリ、嫌だった?」
何か、繋いで欲しそうに見えて…つうか、ホントは俺が繋ぎたかっただけなんだけどな。
照れ臭そうに笑うカゲミツに、やっとタマキも、笑うことができた。
「……帰ろうぜ、もう」
「そだな、」
人ゴミに紛れて手を握り、ぬるくなり初めたコーラを飲みながら、二人でゆっくり歩く。
みんなそれぞれ、あるべき場所へ帰っていく。それは仕方ないことかもしれないけど、酷く寂しくて、いつまでもその幻影を追っかけてしまう。楽しかったあの頃を懐かしんで、戻せない時計の針をなげいて。
…それでも、と、繋いだ手に力をこめて思う。
なくしたのがこのぬくもりじゃなくて、良かった。
彼の帰る場所が本当は他にあるとしても、このまま目をふさいで、見えなくしてしまえばいい。
「タマキ?」
「…なんでもない」
なんだよー今日のタマキ、と首を傾げる彼には、この醜い本音を一生隠し続けようと思う。それが俺にできる、数少ない罪滅しだから。
★タマキにも汚い部分はあるはず。そしてカゲミツの方もきっと、タマキには言えないものを抱えてる。恋ってそんなもの。