▼カゲ→タマ・フリリク・暗
DC2途中くらい
「−−タマキはさ。死ぬほど後悔してることって、ある?」
カゲミツの言葉にとっさに浮かんだのは、顔もわからない誰かのこと。きっと離しちゃいけなかった筈の手のこと。思い出そうとするたび頭が割れそうに苦しくて、けど、泣きたいくらい胸がいっぱいになる。理由はわからないけど。
「何だよ急に…そういうカゲミツは?」
小さく頭をふって、ごまかすように笑って問い返したら、「あるよ」とあっさりした返事。
「へぇ、ちょっと意外だな。カゲミツでもそんなことあるんだ?」
「ははっ、何だよそれ?シツレーだな、タマキ」
「ごめんごめん。でもカゲミツって、割とサバサバしてるイメージがあったか…」
珍しく、こっちの言葉を遮るように、カゲミツがソファから立ち上がった。明かりを背に見上げる形になったせいで、その表情はよくわからない。
「…カゲミツ?」
「死にたいくらい後悔してること、あるぜ。今でも毎日夢に見る…」
「っツ?!」
突然、ソファに押し付けるように、強い力で肩をつかまれた。
「ちょ、いきなり何だよ、カゲ…」
「この腕を、」
「え、」
「折っちまっとけば、アイツの手を取ったりしなかったのに、とか。」
…何の話?カゲミツは、何を言ってるんだ?
ぽかんとしてるうちに、腕を滑って手首に辿りついた掌で、握り潰されるんじゃないかってくらい、ぎりぎり締めあげられた。
「っ、つ…」
抑揚のない声と、とんでもなく強い力は、どこまでもカゲミツらしくない。とっさに逃れようと後ずさると、もう片方の手で顎を強く引かれる。
「この瞳を、」
「ひっ…!」
「刔っておけば、アイツを探して追いかけたりしなかったのに、とか。」
熱い舌でべろりと眼球をなめられ、ぎゅうっとかたく目をつむった。痛いというより気持ち悪さと恐怖でぶるりと背中が震え、喉がなる。
「この喉を、」
その震える首筋に思いきり噛み付かれ、びくんと身体が跳ねた。
「ぅぁっ!」
「潰しちまえば、もうアイツの名前なんて呼べなかったのに、とか。」
跡が残りそうなほど強く歯を立てたあとは、労るように、慰めるように、そっと喉仏をなめあげて。
「この脚を、」
今度は泣きたいくらい優しくなったトーンで、残酷なことばをつむぐ。
「……動かないように折ってやれば、アイツと一緒にいなくなったりしなかったのに、とか。」
「ふ、ぅっ…」
太股をそっと撫でる優しい指が、まるで今から実行に移すといってるみたいで、余計におそろしくて。ぶるぶる震える身体を止められない。
なあタマキ、俺、ずっと考えてたんだ。あの日お前がいなくなってから何であの時そうしなかったんだろうって何回も何十回も何百回も何千回も毎日毎日毎日繰り返し繰り返し繰り返し血を吐くほど後悔しつづけて…
「…っ、やめ…もう、やめてくれ、カゲミツ…!」
もう嫌だ、これ以上、堪えられない!
必死で首を振ったら、残像のような金色が瞼の奥にちらつく。
目の前の『彼』はだれだ?さっきまで何でもないことで笑いあってた、大切な友人はどこへいってしまったんだろう。
「……なぁんてな。冗談だよ。俺が、タマキを傷つける訳ないだろ?」
始まりと同じくらい唐突に、ぱっと手を離し、カゲミツがくすくす笑う。
そのいつも通りの声に、どっと全身から力が抜けてって。
「っ、カゲミツ…あのなあ…」
「だから、なあタマキ、頼むよ」
カゲミツが、すとんと隣に腰をおろす。
タチの悪い冗談に文句を言うはずだった言葉は、そのまま、いっぺんに凍りついてしまった。
−もう、いなくならないでくれな?
首を傾げて微笑む瞳はからっぽで、まるでこの世のものではないような笑みが、かなしいくらい美しかったから。
(つぎは、きっと×してしまう)
★『病みカゲ→タマ』
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