▼カナタマ



いつぶりだろう。こうして誰かとベッドで一夜を過ごすのは。

隣で眠るタマキ君はまるで子供みたいで、とても精鋭部隊のリーダーには見えない。そんな彼とさっきまで大人の行為に及んでいたのが不思議に思えてくる。あの桃色の唇が、熱っぽい吐息と甘やかな喘ぎをたくさん吐きだして。…思い出しても不毛なだけなので、カナエはゆるく首を振った。

馬鹿だな、安心しきった顔しちゃって。…俺は君の敵なのに。いつ寝首かかれたっておかしくないんだよ?

カナエのすべきことは、警察内部の情報を仲間たちに伝えること。今ここで彼を殺したところで、何の益にもならない。そんなことは、もちろん理解してるけど。

「……」

ちいさく上下する、目立たない喉仏にそっと触れた。余程疲れてしまったのか、タマキ君が目覚める様子はない。

まどろっこしいことはもうやめて、この細い首を絞めてしまうのはどうだろう?それはカナエにとって呼吸するのに等しいくらいたやすいことだ。この指先にほんのすこし、力をこめれてやればいい。

J部隊は確かに優秀だけど、アラタのいない今機動力に欠ける。カナエ一人でも問題なく潰せるだろう。みんな、一人残さず、ころしてしまおうか。そうすればこんな馬鹿みたいな演技を続けなくてすむ。心にもない言葉を囁いて、甘ったるいセックスをすることも。まるでそこに愛があると、勘違いしてしまいそうな…

「ん…」

ほんの少しだけ指に力を篭めたとき、小さな吐息とともに、タマキ君がみじろぎをした。長い睫毛がふるえ、夜を流しこんだみたいな瞳がカナエを映し出す。

「カナエ…?」

さりげなく手を滑らせて、そのまま黒い髪を撫でた。少し癖のある黒髪が、カナエの指の間でさらりさらりとこぼれていく。


本当は自分でもわかってるよ。
早く早くとこんなにも気が急くのは、怖いからだ。きみをこの手で殺せなくなる日が来るのが、こわい。


「おはよう、タマキ君」


彼のよく知る『カナエ』のいつもの困ったような笑みを浮かべながら、このまま君の目が醒めなければよかったのにと、内心そっとひとりごちた。






(お題:Aコースさま)




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