▼カゲタマ
bitterエンド後



指をからめるという仕草は、なんとなく、エロチックだ。


「喉渇かない?何かジュースでも買ってこよっか」
「いや、大丈夫。…サンキュな、タマキ」
「ん。何か欲しいものあったら遠慮なく言ってな」

カゲミツが長い眠りから目を覚ましてから、タマキはこうして足繁く見舞いに通ってくれる。といっても、自分が眠っていた間のことはわからないから、比べようはないんだけど。前にこっそりヒカルに尋ねてみたら、「お前を喜ばせんのシャクだから、教えてやんない」と舌を出された。…なんだよそれ、俺、調子に乗っちゃうだろ!

病人を気遣ってくれてるのか、会話はさほど多くない。カゲミツは眠ってていーよ、なんて言われることもある。けれどカゲミツにとっては、大好きな人の顔をずっと見ていられるってだけで、顔中の筋肉が緩みきるくらい幸せな時間。…うるさいな、我ながらお手軽なのはわかってる。

けど、実は最近、すこしだけ困ったこともあった。


(あ…)

まただ。タマキのほっそりした指が、さりげなくカゲミツの掌に触れる。途端にカゲミツは心拍数急上昇なのに、お構いなしにとんとん手の甲でリズムをとったり、軽く握って力を込めてみたり、戯れに指先を絡ませてみたり。

それは別にセクシャルな意味じゃなくって、たぶんタマキは無意識にやってるんだと思う。現に今も、ぼんやりと窓の外を眺めていたりするし。いわゆる手持ち無沙汰ってやつ。

けど、いくらわかっていても…意識するなってのは酷な話で…

「な、なあ、タマキ」
「ん?どした?」

ぱっと視線と笑顔が向けられて、いつもながら懲りずに胸の奥がキュンと甘苦しくなる。こっちのがよっぽど病気じゃねえかな?ついでに絡まった指先にも力を込めてしまったらしく、タマキがはっと手を離した。

「あ、ゴメン。…嫌だった?」
「ま、まさか!嫌な訳ねーだろっ!?」

むしろその逆で、嬉しすぎて困っちゃってるんですけど。もっともっとと不相応な期待と、よこしまな想いが膨らんでいってしまう。

「ただちょっと、タマキ、手弄んの好きだよなって思っただけから」
「…うそ、俺、そんなにやってる?」
「え?あ、うん」
「うわ、無意識だった…。癖になっちゃってんのかな」
「癖?」

手をいじるのが、癖に?
ひょっとしてひょっとすると、俺が目を覚まさない間も、こうしてずっと握っててくれたんだろうか?

「タマキ…」
「お前がなかなか目覚まさないのが悪いんだろ」

ぷいと拗ねたように顔を背けるのは、もしかして照れ隠しだろうか。
そういえば、夢と現のあいだの暗闇の中、誰かがずっと優しく手をひいてくれてたような気がする。

なんだか色々たまらなくなって、今度は自分から指をからめ、握ったタマキの手を胸元にまで引き寄せた。

「ありがとうな…、タマキ」

この優しく力強い手が、あたたかいこの世界に、俺をもう一度引き上げてくれた。こんな凄いことって他にねえよ。ありったけの感謝と愛情を込めて、繋がったその指にキスを落とす。

「…バカ。そんな王子様みたいなこと、すんなよな」

頬をうっすら染めたタマキが言うもんだから、カゲミツも急に気恥ずかしくなった。うん、確かにちょっと、気障すぎたかも。

「ははっ、確かに俺がやっても似合わねーよな。どっちかってと、タマキの方が王子様?俺の目、覚まさせてくれたし」
「…自覚ないとこがまたムカツク」
「へ?」
「今日はお前、元気そうだし、俺そろそろ帰る」
「タマキ!」

何故か突然離れていこうとする手を、慌ててぎゅうっと掴んだ。

「カゲミツ、」
「もうちょっとだけ……こうしてていいか?」

情けなく眉を下げてお伺いを立てたら、困ったような顔をしたタマキが…やがて観念したように、ちいさくはにかんでくれた。

「ちょっとだけ、な」


好きな人と指を絡めるのはやっぱりちょっとエロチックで、それ以上に、泣きたくなるくらいしあわせなコトだ。

ふたりは言葉を交わすかわりに、長いこと黙ってお互いの手を握っていた。ふたつの体温が、ぴったりおんなじになるまで。





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