▼オミとカナエ
DC2・9話後



一戦を終え、オミたちナイツオブラウンドのメンバーは、現在主に腰を据えている拠点にまで戻ってきていた。今回、大きな怪我をした者がいないのは幸いだ。

「もうすっかり元気そうだったね」
「…J部隊のリーダー、ですか?」

主の言葉の先を的確に読み取るサヤに、オミはにっこりと笑顔をむけた。彼の話が出た途端、「俺あいつ嫌い、」とレイが顔を背ける。わかりやすい態度だ。

「あれだけちょろちょろされると、うっかり殺したくなっちゃうな」
「…ご命令さえ頂ければ、いつでも」

いつもの淡々とした口調で、サヤが畏まる。

その瞬間、確かに感じた刺すような視線…いや、瞬間なんて生ぬるいモノじゃない。これは、明らかな殺気。サヤは表情は変えぬものの背筋をぴりぴり泡立たせ、レイは一転、酷く不安そうな顔をする。

今にも飛び出しそうなサヤを手で制し、オミは、ゆっくりと視線の先へ歩みを進めた。

「カナエ」

いつも穏やかに笑っている男の顔には、感情というものが浮かんでいなかった。ただ、その瞳の奥に、隠しきれない炎が揺らめいているのがオミにははっきり分かる。この男はわかりにくいように見えて、実はとても分かりやすい。そういうところを、オミは気に入っていたりする。だって、からかいがいがあるだろう?

「ふふ、冗談だよ、冗談。さっきも言ったろ?彼は殺さない。こう見えても、彼のことは結構気にいってるつもりだけど」
「…どういう意味かな」

刺々しいやりとりも楽しくてたまらないんだというように、オミはつ、とカナエの頬に人差し指を滑らせた。カナエはぴくりとも反応せず、ただ、動向を探るように、ガラス玉のような瞳を向けるだけだ。

「君がそうやって怖い顔するからさ。…そうだなあ、彼のことは、ここに招待してもいいくらい可愛いと思ってるよ?いっそ、閉じ込めて飼ってやってもいいな。彼の泣き顔ってなかなかそそりそうだし、屈服しがいがある。手錠とか、似合いそうだしね」
「…スパロウ」

カナエの手が、戯れに遊んでいたオミの手首を掴む。…細く繊細な指先からは想像できない、骨ごとへし折ってしまいそうな力だった。オミは日に焼けない肌をしてるから、たぶん2、3日は痣が残る。…本当に、可哀相なくらい、正直な男だ。

「っ!」

自由な方の手でカナエの片腕を握り返し、同じだけ…いや、それ以上の力を込める。ぎりぎりぎり。はじめて、無表情だったカナエの顔が歪んだ。

一方のオミは、痛みなんてモノ微塵も感じていないように。相変わらずくすくす笑いながら、カナエの身体を力ずくで引き寄せ、形のよい耳に唇を寄せる。さながら悪魔のような、おそろしくも甘いコエで、そっと。

「何事も、中途半端は良くないなあ」
「何、を…」
「殺すのもダメ、可愛がってあげるのもダメ。じゃあお前は一体どうしたいんだ?そんなことも自分でわからないようじゃ、今度は、何もかも全部、失うことになるかもね…?」
「……っ」

思いきり腕を振り払われて、オミは素直に身体を引いた。真っ赤になった手首をぶらぶさせながら、「リニットはご機嫌ナナメみたいだな」とわざとらしく首をすくめてみせる。
何か言おうと口を開いて、結局、カナエの口から何も言葉はでなかった。

「…少し頭を冷やせ、カナエ」

酷く落ち着いたアマネの声に、カナエは黙って俯き、そのまま、ふらりと部屋を出ていった。

「カナエ!」

その後を、慌ててレイが追う。



俯いたカナエが立ち去る寸前、ほんの小さな声で吐き捨てた言葉。オミは、思わず声に出して笑い出しそうになった。


『…俺にはとっくに、何もないよ』


ああ、その通りだねカナエ。お前は、失ってしまった。愛したあの男と一緒になれなかったあの時点で、お前をお前たらしめていたモノを、全て。


けれど、既に何もかも失っているのは、オミだって同じなのだ。




(お題:水葬さま)


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