「…そっか」
しまいこんでいた記憶が蘇ってきたのは、突然のことだっだ。不注意で指を切ったカゲミツを、「大事な商売道具だろ!」と過剰なくらい心配してくれたタマキが、大袈裟に包帯でぐるぐる巻きにして。それから、こつん、と額を寄せてきた。
気恥ずかしそうな顔で、「いたいのいたいのとんでいけ」、と。
そのなめらかな額の感触と、照れ臭そうに揺れる瞳に、あの日の記憶が走馬灯のように蘇ってきて、ハッキリと確信した。
ああ、あれはお前だったんだな、タマキ。今まで気付かなかったのが不思議なくらいだ。
カゲミツがこの世で一番愛しく思うこの男は、一度ならず、二度も自分を救ってくれていた。息ができないくらいの孤独から。たまらなくなって、その細い背中をかき抱いていた。
「か、かげみつ?急に…どうしたんだよ」
俺はもう、あの頃のような人形じゃない。タマキと同じ、人間だ。それが、たまらなく嬉しかった。
「タマキ」
「…なに?」
「もう一度、お前に会えてよかった」
「は?」
「すげー、嬉しい…」
訳のわからないタマキは、不思議そうな顔をする。…いいんだ、覚えてくれてなくたって。いまこの腕の中にあるぬくもりだけで、充分。
「それってどういう…」
それ以上の言葉を交わす間も惜しくて、柔らかなその唇をふさいでいた。
(おしまい!)
→さらに後日談