▼カゲタマ過去捏造



何もかも、飽き飽きしていた。上っつらな人間関係も、退屈なだけの学校も、そうやって積み重なっていくだけの薄っぺらな日常が。
抜け出してみたら何かが変わるとか、漠然と夢みたのかもしれない。俺もまだ、青いガキだったから。

律儀に毎日同じ時間に迎えに来る車をまいて、カゲミツは制服のまま、ひとり繁華街を歩いていた。夜を間近に街はさまざまな人で溢れかえっているけど、中でもやっぱりカゲミツは人目を集めてしまう。いつものこの見てくれへの好奇か、制服のままこんな場所をうろつくことへの批難か。どっちにしろ、うんざりだった。歩みはどんどん早くなり、苛立ちと空しさが募るばかり。

「はあ…、」

こんな街中をうろつくのは、正直慣れてない。行くあてもすぐに無くなり、なるべく人の流れから外れた壁に凭れてため息をついた。こんなにヒトとモノで溢れているのに、カネだって十分すぎるほどあるのに、何でちっとも楽しくないんだろう。

「ねえねえ、」

はかったように話しかけてきたのは、見たことのない女たちだった。3人組で、女子大生か何か。露出の多い格好と、カゲミツとは違った意味で派手な頭をしている。

「さっきからぶらぶらしてるみたいだけど、暇なの?」
「よかったらあたしたちと遊ばない?」
「てゆうかきみ、超カッコイイねー。高校生?」

いっそ、何も考えずに誘いに乗っちまうか?…けれど、綺麗に着飾った女たちの顔が、カゲミツにはみんな同じに見えた。媚び。甘え。期待。外見は違っても、社交界でうんざりするほど見てきた光景と、何もかわらない。

「…キャーキャーうるせえよ。ほっといてくれ」

勝手に低く剣のある声がこぼれていて、ニコニコしていた彼女らの表情が豹変するのに、時間はいらなかった。

「なにあれ。感じわる〜」
「ちょっとツラいいからって調子のんじゃないわよ」
「あんな髪して、どーせ遊んでる癖にね。いこいこ」

なんだよ、勝手に期待して話しかけてきたのはソッチだろ。好きでこんな髪と外見してるんじゃねえよ。

馬鹿馬鹿しくて、そのままずるずる無気力にしゃがみ込んでしまった。何に向ければいいのかわからない苛立ちが、むなしく汚れた都会の空にとけていく。

目の前を通り過ぎる、無数の足。あんな足早にみんな何処へ向かうんだろう。その先には何があるんだ?

…俺にはない。何も、ない。

こんなことをしてみたって、何にも変わりゃしねえんだ。もう、帰ろう。

くしゃりと金の髪を掻き混ぜながら力なく立ち上がったとき、奥まった路地裏から何かが聞こえた。



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