(R18)




「っ、んなの、おかしーだろ…!」
「なにが?」

とぼけた顔で首を捻る目の前の男に罵詈雑言を浴びせようとしたら、偶然を装っていいトコロをやんわり掠められた。

「ぁんっ!」
「あ、わり」

びくびくと背中をかけあがる震えをごまかす為に自分の身体を抱きしめたいのに、それすらできない。こんな体勢でバランスを崩すのが怖くて、目の前の首に縋り付く手が解けないからだ。

「いい加減に、しろよっ、なんでおれが」

こんな目に!
向き合うように星の膝の上、足を広げて座らされ。身体を支えるのは繋がるたった一点だなんて不安定な体勢。
しかも俺の格好たるや、綺麗に剥かれたのは下半身のみ、上は背広を脱いだだけ、はだけたシャツも解きかけたネクタイさえ中途半端に絡みついたまんまという情けない有様。星は星で一部を除いてほとんど着衣が乱れてないのが、またしゃくにさわる。

「いつも俺の為に頑張ってくれるお前に、サービス」

片手で面白がるようにくるくる肩甲骨をなぞりながら、
散々弄ばれて立ち上がった胸の飾りを、ちゅく、とわざとらしい音を立てて吸われる。

「んっ、」

鼻にかかった高い声がまたあがってしまったのが悔しい。ばかやめろ、そんなとこいじくんなくていいから、せめて腰くらい支えろってんだよ!

力いっぱい睨みつけても、ちっとも悪びれない顔(かつ腹の立つスケベ顔)で、にやにや笑っていやがる。いま繋がってなければ、確実に腹に一発入れてるのに。

「仕事で疲れて帰ってきた夫を、ベッドで慰める。かいがいしい妻のつとめじゃねーか」
「ばか、か、ふつー逆、あ……っ」

そりゃあ可愛い奥さんが、「ごはん?おふろ?それともわ・た・し?」なんて出迎えてくれて、そのままベッドでにゃんにゃんなんて、男の夢だよな。

けれど現実は、奥さんは俺より背が高く煙草くさい男。ちっとも可愛いくなんかない。それもこうして、俺の方が組み敷かれてるなんて。おかしい、世の中間違ってる。

「ムリっ、疲れて、から…あっあ」
「だからこうして優しく忘れさせてやってんだろ。ほら、」
「やぁ……」

たしかに星の指が与えるのは、激しさなんて皆無の、とろとろと溶けるような愛撫のみだ。起立したものを擦りあげる指も、いつもとは全然違う。ゆっくりと先端に熱をかき集めるような、触れるか触れないかのタッチで……それがこんなに辛いものだなんて、生まれてはじめて知った。

挿入前に指で散々慣らされたせいで、後ろだってもうぐずぐずなのに、挿れるだけ挿れてそれからは何もしてくれない。たまに思い出したように軽く腰を揺さぶるだけ。それってあんまりだろ、誰のせいでこんな身体になったと思ってるんだ!?蛇の生殺し、という言葉がちらりと受かんで、蛇なのはどっちだよと頭の中で悪態をついた。

もどかしい。もっと強く確実な刺激が欲しくて、勝手に腰が揺れてしまう。畜生。なんで家帰ってまで、こんな目にあわなきゃならないんだ。

「ふ、う、うっ」

辛い。苦しい。悔しい。昼間の会社のことも混じりあって、気付いたらみっともなくぽろぽろ涙がこぼれていた。

「おいおい。何も泣くことねえだろ」

ちょっと焦ったような声、舌が睫毛にたまった雫を舐めて拭う。そのざらざらした感触さえ敏感すぎる今は辛くて、俺は大きく首を左右に振った。きらきらと汗やら涙やらが玉になって飛び散る。

「ひ…、い、いやだ、もう」
「…優しく慰めてやってんのに、何が気に入らねえの。お前は、俺にどうして欲しい?お前が望むなら、何だってしてやるから」

ねっとりと絡みつくような声が耳元で囁く。こんな優しげなこと言うくせに、恋人が泣いても許してくれないなんて、本当にヒドイ男だ。

普段なら絶対に屈服なんてしてやらないけど、やっぱり今日の俺は大分情緒不安定らしい。縋り付く首にぎゅっと力をこめ、大声でなんて言えないから、形のいい耳に唇を寄せる。

「もっと、ちゃんと…しろ…」
「ちゃんと、どうすんの?」

ああ、全部わかってるくせに!

先を促すように、器用な舌先が俺の耳をなぶり、くちゅりといやらしい音に頭が犯される。ぼんやり霞みがかる頭で思った。たぶん俺は、こんな意地悪なところにも、弱いのだ。どんな弱みも見せたくないのは建前で、ほんとはどんな醜態だって全部知って欲しい。それがおまえ相手なら。

「ちゃ、ちゃんと、奥まで、ついて、あっ、もっと強く、擦って、」
「それで?」

「お前ので、イカせて…」

熱に浮された声で囁けば、ぐんと腹の中のものが質量を増す。一層強くなる快感と圧迫感に潤んだ瞳に、憎たらしく目を細める男の姿がうつりこんだ。あ、今までで一番、エロい顔。

「オーケイ。ダーリン」





それからは散々だった。自称ハニーのおもうままに揺さぶられ突き立てられ、信じられないカッコや言葉まではかされて…あああ思い出したくもない。

ただでさえ疲れて帰ってきたのを限界まで無茶されたから、体力は完全にパロメータ0。さんざん鳴かされて声もガラガラ。ベッドの上からも立ち上がれないような酷い状態。

たぶん明日朝から会社に出るのは無理だ。今日のこともあって大変な時期なのに。

「最っ悪」

つまり一言で表せばそれにつきる。
コイツの顔みてほっとなんかした、数時間前の健気な自分を抹消したい。というか今すぐこの男を追い出したい、ベッドからと言わずこの家から。

その旨をベッドを共にする相手に伝えたら、寝煙草をふかしながらこんなこと言いやがるんだ。

「けど、嫌なことなんか、忘れちまっただろ?」

よく考えたらそれはその通りだったけど、まさかそんなこと認める訳にはいかない。

「俺ってば、いい奥さんだよなあ」
「全国の奥様方に全力で謝れ。…いいからさっさと風呂連れてけよ。その後、メシ」
「はいはい。仰せのままに旦那様」

とにかく俺は、男として最後の面子をかけ、精一杯亭主関白らしく振る舞うことにした。






▼星が妻てかヒモっぽい件
いつか逆パターン(新妻リク)も書きたいです


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