▼星リク・1000hit記念フリー
(フリーは終了してます)



「ちょっと付き合えリク」
「はあ?」

そんな軽い一言で、まさか一日中振り回されることになるなんて!



俺は今、訳もわからぬまま人通りの多い都心にまで連れられて来ていた。あんまり慣れない人の多さに、ちょっとくらくらくる。

すいすい人ゴミを進む星にまず連れられたのは、自分じゃ絶対着ない洋服が並ぶ店。店主と知り合いらしい星は、何やら親しげに会話をしてる。確かに、いかにもこいつが好みそうな雰囲気の店だけど。

「コイツの服、適当に見繕ってやってくれ」
「任せといて」
「…な、何ですか?ちょ、やめて、アッー!」

優男のくせに妙に力は強い店のオニイサンにひっぱられ、あれやこれやとあっというまに俺まで着せ替えられていた。

細身のカーゴパンツに、ロンT、ちょっと長い丈のパーカー。あとスニーカー。派手すぎず普通の格好かもしれないけど、慣れない服装に何となく落ち着かない。

「へえ。さっすがオーナーだな。何だっけ、馬子にも衣装?」
「ふん、俺くらいになれば何着ても似合うんだよ。つか馬子にも衣装って女の子に言う台詞だろ馬鹿め」
「んじゃこれ、全部。タグだけ切ってくれりゃいいから」

星の言葉に、はたと我に返る。

「はあ!?何でお前に服なんか買って貰わなきゃならないんだよ!」
「じゃあ自分で払えば?」

…なんだか酷く納得がいかないけど、渋々カードを取り出した。俺の差し出したブラックカードに店主が目を丸くしたのは、ちょっと気分が良かったけど。

ちゃっかり自分も買ったストールを巻いて機嫌良く先を歩く星に、ぶつぶつ文句をつける。

「だいたい、なんでわざわざ着替える必要があるんだよ」
「ここらでネクタイ着用の奴なんかいるか?周り見てみろよ」

そんなこと言われても、訳もわからず引っ張ってこられたんだから仕方ないだろ。着替える間もなかったんだぞ。

「お前の私服はどちみち却下」

うるさい天体。自分がちょっとお洒落だとか思って調子乗んなよ。

実際マスクを取った星は、若者たちで溢れるこの街にしっくり馴染んでいた。いつもはアホっぽいと思う赤茶の髪も、服装も。なんだか知らない人と歩いているような不思議な気分になる。

「なあにぼさっとしてんだよ。さては星さまのカッコよさに惚れ直したな?ん?」

ニヤニヤ笑う顔と中身は、やっぱり星のまんまだけど。



それから色んな場所を引っ張り回された。今にも潰れそうな映画館で知らないロックスターの一生を追う映画をみて、下品な割には意外と面白かった。

映画館を出て、ワゴンでアイスを買ったときには、
「わり、小銭ねーわ。ついでに払っといて?」
ムカつく笑顔で言われて殴ってやろうかと思った。折角のアイスが落ちるのは嫌で、やめておいたが。

微妙な気候の中でアイスをペロペロしながら、今度は目についたゲームセンターに引っ張られる。そんな場所ももちろん初めてで、物珍しさにキョロキョロしてしまう。

「?何だあれ?」

目についたのは、車のシートを切り取ったみたいな機械?乗り物?だった。わ、ちゃんとハンドルまでついてる凄いな。

「おう、レーシングゲームね。やるか?言っとくけど俺、これでも昔は…」

えらそうに胸をはっていた星も、一緒に何回かゲームした後には、すっかりげんなりした顔をしていた。いつかのじめじめしたヒトデを思い出す。

「まさかお前がスピード狂とは…」
「ははは。国際ライセンスも持ってる俺をなめないで欲しいな星くん」

ゲームもなかなか馬鹿には出来ないなあ、ドリフトがあんなに気持ちよく決まるなんて。胸がすっとして、俺はニコニコご機嫌だ。

「リク。あれ」

負けっぱなしは悔しいのか、次に星が指差したのは、一番のスペースを占める見たことのない機械だった。人形やマスコットがいろいろ並び、小さなクレーンみたいなものが上に付いている。何だろう、要するにアレでアレをああしてああするのか?

「ニノにお土産とってやろうぜ」
「ニノさんに?」

なるほど、星にしてはいい案だ。あのニノさんがこういう人形を好むのかどうかは正直よくわからないが、また星をぎゃふんと言わせてやろうと思った……のに。

ぱっと見あんなに簡単そうになのに、なかなかさっきのようにはいかなかった。

隣では既に戦利品を二つ抱えた星が、煙草をくわえてにやにやしてやがる。クソ、形勢逆転じゃないか!

「リク、いい加減もう行こうぜ」
「待て、あと一回!ここを支点にこうしてあそこに力点がくるんだから、理論的には次は必ず…」
「頭いい奴って何か大変そうだな」

ぽすんと、柔らかい何かが頭にふれる。振り返ると、星のとった可愛いんだか可愛いくないんだかよくわからない人形が差し出されていた。

「お前にやるよ」
「…いいのか?」

こいつに施しを受けるのはかなり悔しいけど、正直な話…取れる気配がないのは自分でわかっていた。誰だって得意不得意があるもんな。星にも一つくらい花を持たせてやらないと。俺だけ手ぶらで帰る訳にはいかないし。
「けどいいのか?俺に借り作って」

そういえばそうだった。
しばらく考えて、「どうせ俺のじゃなくなるんだから、別に借りじゃない」と答える。これは、あくまでニノさんへのプレゼントだからな。「何だよソレ」と、星はからから笑った。



昼ご飯はファーストフード。またもや生まれて初めての経験だった俺は、席から手を上げて店員を呼ぼうとして星に鼻で笑われた。…うるさいな、仕方ないだろ初めてなんだから!
おそるおそる口にした驚くほど安価なハンバーガーは、身体には悪そうだけど結構いける。並々ならぬ企業努力に涙が出そうで、俺も負けてられないなと思った。


ちょっと思ったんだけど、何というか、友達と普通に遊ぶのってこんな感じなんだろうか?


本当はちらっとデート、という単語が浮かんだが、男同士で寒すぎる!と、ぶんぶん首を振って却下。おかげで星に変人扱いされてしまった。
…お前だけには変人言われたくない。



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