▼星リク・ややエロ・暗注意



狭いトレーラーはただでさえ物が多いし、窓も開けられないから匂いも熱もこもる。そういう行為に及ぶのにあまり適した場所とは言えない。

けど俺とリクは、いつもこの場所でセックスをする。別にそういうプレイな訳じゃなく、この荒川じゃ他に場所がねえから。橋の下の家は広いがダメだ。あれは家主の彼女という正当な肩書を持つ、可愛いあの子のものだから。

「はあ……」

狭い壁に跳ね返る荒い吐息は、もし目に見えたらきついピンクいろだろーなと思う。ぐるりと円を書くように腰を回したら「あッ」と声が一際高く跳ねた。いいところにあたったんだろう。

「……っほし、」

首にまわった手が、ぎゅうと強い力で俺の襟足を掴む。これはコイツの癖らしく、俺はいつも自分の髪が将来心配になる。

「気持ちいいか?」

耳元で問うと、少し躊躇う間があったあと、こくりと頷いた。普段おそろしく素直じゃないこの男は、意外にエッチの最中はわりと素直なのだ。我慢できなければねだってくるし、いいかと問えば素直に頷く。始めは声を抑えたがったが、最近じゃ男にしては甘すぎる声で気持ち良さそうに喘ぐ。それが俺にはまるでコイツの罪滅ぼしのように感じて、可愛いのと同じくらい憎たらしいのだ。

コイツといると、普段はしっかり手綱を握ってる筈の暴力的な雄の衝動が、自分の手から離れていってしまう気がする。

「ここ好きだよな、お前」
「んっ、」

せわしく上下する喉仏にキスを一つ落とし、指先でわざと優しく白い首筋を愛撫する。火照った身体と冷たい指との温度差にか、ぶるりと背中を震わせ、たまらなそうに目を細める。その顔を、ぐちゃぐちゃに歪めてやりたい。


「セックスしながら首締められたら、もっとイイらしいぜ。試してみるか?」

返事も待たずに、ゆっくり右手に力を込めていった。ぎりぎりぎり。リクの首は、俺の指が余ってしまうくらいにか細い。無限の音楽を生み出すこの手は、こうして無限の命を終わらせることだってできる。

「あ、やめ、…かはっ、」

リクの顔が、真っ赤に染まっていく。比例して、ぎゅう、と中の締め付けが強くなった。こんなに苦しそうなのに、彼自身も萎えることなく、涙を流したまま。なるほど、どっかのイカれた女が言ったことは本当だったらしい。アブノーマルなプレイにさほど興味はなかったけど、確かにちょっと癖になりそうだ。

「へー、イイんだ?意外と変態だよな、お前、ハッ、俺もいいぜ…」
「っ、」

涙の膜を張った瞳が、俺を見上げてくる。くるしい、たすけてくれ、星。…馬鹿だな、その苦しみをお前に与えているのは誰だ?

「リクルート」

耳元に唇を寄せ、とびきり甘い声で、言い含めるようにねっとりと囁く。

このまま本当に殺してやろうか?

それは目がくらむような甘すぎる誘惑だった。俺たちの歪な関係にいつか終わりがくるのは分かりきってんだから、別にそれが今でも問題無いはずだろ。お前が事切れたら、目の前にある川の底に沈めてやる。運がよければ、そのまま海にまで運ばれていくだろう。

こいつが最期の瞬間に思い浮かべるひとは、きっと俺じゃねえから。…せめて、最期にその瞳に映すのが俺であればいいのに。


とうとう大きな瞳から零れた透明な雫が、頬を流れ、強張った俺の手の甲を伝っていった。魔法がとけたように、ゆっくり指から力が抜けていく。やっと酸素を取り戻したリクは、顔を横に向け、苦しそうに何度も咳込んだ。

「ゲホッ、かはっ、は…、はあ…」
「大丈夫か?」
「アホ、大丈夫じゃな…けほっ」
「そっか。…でもゴメンな」
「あ、!」

最悪だとは思うけど、咳込んで痙攣する身体がナカの俺に快感を与えて、これ以上耐えられそうにねえんだ。

本能のまま、リクの膝を抱えて腰をつき動かした。もともと高ぶっていたリクは、くるしいのか気持ちいいのか、その両方に顔を歪め、しゃっくりのような喘ぎ声と一緒に果てた。俺もすぐに後を追って、糸が切れたように上に覆い被さる。


うるさかった呼吸の音がようやく落ち着いたころ、掠れた声でリクが呟く。

「疲れた」
「俺もだ」
「誰のせいだよ」

とりあえずブツを抜いたり嫌がるこいつを宥めて後処理をしたり、やることはいくらでもある。けど、そのどれもやる気が起きない。珍しくリクがぼんやりしてるのも、同じ理由かもしれない。

「…なんで、」

途中で言葉を切ったあいつが言いたかったのは、「何であんなことしたんだ?」か、「何で殺さなかったんだ?」か、どっちだろう。

どっちの理由も、本当はわかってる。俺にコイツは殺せねえ。あらゆる意味で俺たちの関係を終わらせることができるのは、目の前の卑怯者だけだ。

「おい、星…?」
「じっとしてろ」
「でも、」
「いいから」

さっき壊すことのできなかった首筋に、顔をうずめる。いつのまにか、泣いているのは俺の方だった。いつだって悔しくて苦しくて逃げ出したいのも。

伸びてきた指が慰めるような優しさで頭を引き寄せるもんだから、俺はリクの良心の軋む音にまた泣いた。


ああ、本当参るよな。
恋愛なんてモンは、惚れた奴の負けで決まってんだから。






▼間男な星さん
このリクの本命はニノさんだけど、殺されてもいいかと思うくらいには星のことも愛してます(最低)

お題:悩みの種さま



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