▼星リク




「…あいつは、何をしてるんだ?」


荒川一ヘラヘラした優男が、荒川一のアイドルにしきりに何か話しかけている。それじたいは、腹が立つものの最近は見慣れてしまった光景だ。けれど今日のリクは、こうしてはたから見ていても明らかに様子がおかしい。

「ニノさん、今日は『きっと』一日『ずっと』天気がいいんでしょうね!」
「そうだな」
「このまま『ずっと』晴れていれば、いつもより『もっと』たくさんの魚がとれますね」
「たくさんとれるか?」
「ニノさんなら『大丈夫』です!『きっと』とれますよ」
「そうか。なら私に任せろ、リク」

「…なんなんだよ。その会話」

遠くでそれを聞いていた星は、酷くげんなりした。…本人たちが気付いているかどうか知らねえが、明らかに不自然この上ない。ニノの声に抑揚がないのはいつものことだが、おかしいのはリクルートだ。一体何なんだ、その棒読み加減と、やたら変な部分を強調すんのは。

「あいつ、どうしちまったんですか」

側にいた村長に聞いてみると、「あー、リクか」とたいして興味のなさそうな声。実際村長の興味は、たらした釣竿の先にむかっているようだった。川の中に住む河童が川釣りなんてちょっと考えれば可笑しな話だが、すっかりここの生活に染まった星の頭は華麗にスルーした。

「なんかな、雑誌だかでいい情報ゲットしたとかって張り切ってたぞ」
「いい情報?」
「女の口説き方だよ。女は『きっと』『もっと』『ずっと』『大丈夫』って言葉に弱いんだとよ」
「…どう考えても、使い方間違ってねえか…?」
「女なんて、こっちから口説こうと思ってるうちはついてこねえのにな」

何気に格好いい台詞をさらりと吐く村長はともかく。

あのド級の恋愛音痴なリクなら、ああなるのも仕方ないのかもしれない。あいつに女、それも俺たちのニノを口説くなんて、10年いや1万年早い。星の腹の中で、何かが炎を出してめらめら燃えはじめた。いっちょ、恋愛上級者のこの星さまが、お手本でも見せてやるか!

「おい!リクルート!」

という訳で、大声で呼びかけて手招きしたが、綺麗サッパリ無視された。結局自分で足を運びながら、ないがしろにされた星の闘志がさらに燃えあがる。

「うるさいなあ、なんだよ星。邪魔しないでくれるか?今、俺とニノさんが甘い恋人同士の時間を…」

いや、どこがだよ。というツッコミは心の中に留めて、星は黙ってじっと、リクの顔を見つめた。よく見ると、リクルートの瞳は、星が好きな月のない夜のいろをしている。

「…なんだ?珍しく真面目な顔して」
「リク」

その瞳が戸惑いに揺れたところを狙って、さりげなくかつ強い力で、腰に手を回す。その感触は思ったよりずっと頼りない。「リク」切なげな響きで、もういちど名前をよんだ。ぽかんとした彼が事態を理解する前に、顔を耳元に寄せて囁く。もちろんバッチリ勝負用の、自慢の甘く響く低音で。

「俺ならきっと、お前を幸せにできる」
「お前が望んでも望まなくても、ずっと側にいてやるよ」
「だから、もっとお前のことが知りたい」
「全部俺に任せりゃ、大丈夫だから…」

よし、どうだ。これで完璧だろ。

満足して手を離したら、リクはへろへろとその場にしゃがみこんでしまった。

「何だァ、腰抜けちまったか?」

思いっきりからかってやろうとリクをみて、星は硬直する。リクの顔が、今にも火をふきそうなくらい真っ赤だったからだ。

「リ、リク…?」

憎きリクが顔を真っ赤にする様子は見ていてすっとしたが、あまりにオロオロするもんだから、次第にその照れが星にも伝染しはじめた。

「あ、おま、誤解すんなよ。お前があんまりお粗末だから、俺が手本見せてやろうと…」
「ハァ!?な、なんでそれを俺にやるんだよ!…いや、あんなのニノさんにやっても承知しないけど…」

…あれ、そういえばそうだ。俺がああいう言葉を捧げたいのはニノなのに。なんでよりによってコイツに、あんなこっ恥ずかしい台詞がすらすら出てきたんだろう。

「だ、大体な、お前が変な反応なんかするから…」
「へ、変な反応ってなんだよ!全身鳥肌たっただろ!」
「どこがだよ!真っ赤な顔しやがって!」
「してない!お前こそ、自分でやった癖に柄にもなく照れやがって!」

いい成人男子二人が、頬を染めながら罵りあう様子は、かなり気持ち悪いに違いない。そうは思っても、星はよくわからないこの感情をごまかすすべを、目の前の男にあたること以外知らなかった。

「と、とにかくな、お前が女口説こうだなんて冗談じゃねぇ!お前はなあ、チキンでのろまでいつまでも女に手なんて出せねーで、だから俺は安心してお前を…アレ?何言ってんだ俺」







ギャーギャーとうるさい二人の怒鳴りあいが荒川じゅうに響き渡るのも、いつものことだ。

「星とリクは仲良しだな、村長」
「んー。あいつら馬鹿同士だからな」

川辺では、避難してきたある意味こっちも似た者同士の二人が、のんびりと竿に魚がかかるのを待っていた。




▼ほんまでっかTV見て書いた
普通ドン引きしそうな星の口説き文句にくらっときちゃうのがリクルートクオリティ


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