▼けいなつ



※暴力表現注意


好きな娘には、笑っていてほしい。
それは男にとって至極当然の願いだと思う。

普段はあんまり表情をかえてくれないあの子の可愛い笑顔が見れたら、そりゃあもう、身体にぶるりと震えがくるくらい嬉しいね!なに、気持ちわかるって?ああそう、ありがと。

…けど、けどね?

カワイイ笑顔で、他の男の名前を呼ぶくらいなら
たとえぐちゃぐちゃの泣き顔でも、自分の名前を呼んでほしい

……男ってそういう生き物だろ?






髪の合間から覗くうなじは指が一回りしそうなくらいほっそりして、今は薄ピンクに染まっている。うん、見てるだけで舐めまわしたり、噛み付いたりしたくなるよ。
早速その両方を実践したら、ほとんど肌があらわになった肩がしゃくりあげるのも、目を楽しませてくれた。

「なぁつの」

そっと耳に近付いて名前を呼ぶと、背けられてその顔が見えなくなった。けど、貝殻みたいな耳までうっすら赤くて、いい気分。

「っなま…え、よぶ、な」

その反応に、思わず吹き出してしまう。心も身体もひとつになって、こんなに深く愛しあってるのに、今更名前が恥ずかしいんだ?

「まだ照れてるの、可愛いなあ。わかった、代わりに夏野が呼んで?」

しっとり濡れた大きな目が、こんな時も強い力で、こっちを見据える。

「   」

その唇が紡いだ名前を認識した瞬間、柔らかな髪を掴んで、力任せに目の前に壁にぶつけていた。
大袈裟なくらい大きな、鈍い音がする。もともと彼女は壁に身体を預ける体勢だったから、大した衝撃じゃなかったはずだけど。

おかしいな、耳鳴りがする。この世で一番思い出したくもない不快な顔が浮かびそうで、首を振って打ち消した。

「何て?ゴメン、よく聞こえなかった」
「……っツ…た…」
「ねえ、いま、誰呼んだ?…言えよ」

いつまでも顔をあげてくれないから、焦れてもう一度髪をひっぱって、強引におもてをあげさせた。
額と唇、鼻から伝う目が覚めるような赤、それから、膜の張った双眸からぽろぽろ零れる透明な大粒の宝石。

…ああ、いたいよね、かわいそう。けどそれらも、結城夏野を構成する一部だと思うと、たまらない。優しく、丁寧に、舐めとっていく。

「…凄いな。夏野は、血も、涙まであまいんだ」

どんなに血や涙に濡れていても、夏野の顔は、とても綺麗だ。ペロリと自分の唇のはじまで舐めて、笑いかける。彼女は何も口を開かず、もう抗うそぶりもみせなかった。ただ赤く腫れためで、じっとこっちを見るだけだ。

「もっかいだけ、聞くね。夏野が呼ぶのは、誰の名前?」
「……しみず」

震えるように吐き出されたその声の、みえない一音さえとびっきりあまくて、素直な唇にご褒美のキスを送った。















なっちゃんは暴力に屈してるというより、けいくんの狂気が怖いんだとおもいます(私も怖い)(自分が)

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