▼星リク・みじかめ
今日も橋の下には歌声が響く。時に燃え上がるように熱く、時に囁くようにしっとりと。長く盛り上がったライブ(俺目線)も、悲しいかな幕がおりる時がやってくる。
ぱちぱちぱちとのんびりしたニノの拍手が響いた。小さくとも俺には最高のスタンディングオベーションだ。今日もお前の為にこの歌たちを捧げるぜ、最高にキュートな俺の天使。
「おい星」
川辺で一人すずみながら喉を潤していたところに、興奮に水をさす人物の声がした。ちらりと見やると、リクが不機嫌そうな顔でつっ立っている。
「…なんだ、いたのかよ」
人のライブも聞かないようなやつが。いや、正確には、はじまった時にはニノに連れられてこいつも最前列に座っていたのだが。歌の途中で席をたって、ひとり何処かへ消えてしまった。まあ、俺的にはニノさえいればオッケーだから、こんなやつに聞かせる歌なんてねぇけどな。
「残念だったな、リク。あんな最高のステージ見れなくてよ」
「馬鹿やろう。…何が最高だよ」
「ああ?」
「健康管理もろくに出来ないような奴が、笑わせるなよな」
突然、何かが投げつけられた。あまりの勢いで、俺の素晴らしい反射神経がなけりゃ川ポチャだったに違いない。
何かと思えば、ここからちょっと歩いた所にあるコンビニのシールが貼られたそれは、
「……喉あめ?」
「べつにお前の為じゃないからな。お前が喉壊したら、ニノさんが悲しむんだ。…おれにはわからないけど」
相変わらずのしかめっつら顔で言い捨てると、リクはさっさとニノたちの方へと走り去ってしまった。嵐のような出来事に、俺はぽかんと立ちすくむ。…まさに言い逃げってやつだ。
「…つうか」
……なんで、喉の調子があんまりよくなかったとか、実はちょっと無理してたとか、お前にわかるんだよ。普段鈍チンのくせに、あんなほんのちょっと歌声を聞いただけで。ニノでさえ、いつもと違うってことに気付いてなかったのに。
手の中に残されたのは、ごく普通の喉あめ。貼られた105円の値段シール。
遠く白いワイシャツの背を目で追いながら、俺はいつもの煙草のかわりに、開封したそれを一つ口の中にほうりこんでみた。カリンのどこか薬草っぽい味が広がる。
…どうやら俺のハートは、思ったより安いものだったらしい。
▼お題・悩みの種さま