▼アラタ+レイ+カナタマ
「えー!なんでー!?」
今日もJ部隊は朝からにぎやかだ。
…というと随分楽しそうに聞こえるけど、悲鳴を上げた張本人、アラタにとってはそれどころじゃない。だって、タマキの細い腰にべたべた纏わり付いているのは、あの小生意気な、レイとかいう新参者。それは自分のポジションなのに!
「ちょっと、この状況なんなの!?」
「んー…。なんか、懐かれちゃって」
タマキが少し困ったように首を傾げるのも、レイはお構いなしだ。
「ほら、いい加減離れろって。皆もう来るし」
「ヤだ。タマキにくっついてたら、あったかくて気持ちいいんだよ」
「もう…。レイお前なぁ」
そんなことを言っても、無理やり引き剥がすつもりはないらしい。タマキが気を許した相手にとことん甘いのは、身を持って知るアラタだけど。
「お前、こないだまで散々タマキちゃんのこと嫌ってた癖にっ」
「そうだっけ?あ、安心しろよ、お前のことは今でも嫌いだから」
「…殺す。今すぐ息の根とめてやる」
「できるもんならやってみろよ。返り討ちにしてやる!」
ぎらぎら敵意まる出しで睨み合うのは、見た目は可愛い少年二人でも、まともにぶつかったら子供の喧嘩どころじゃ済まないのをタマキは知っている。
「ああもうっ喧嘩すんなよ!」
「タマキが言うならしなーい」
「……」
途端に手の平返してニコニコする、親猫に懐く子猫もかくやのレイ。アラタの眉がぴくぴく動く。何なんだその変貌ぶりは…この猫かぶりめ…。
「アラタも何をそんな怒ってんのかわかんないけど、落ちつけよ。レイはもう俺たちの仲間だろ?」
「…タマキちゃんの分からず屋」
「え?」
ぽかんとするタマキからぷいと顔を背けたところで、「おはよう」とのんびりした挨拶が聞こえてくる。アラタが待ちに待った声だ。
「カナエく…」
「カナエ!!」
またもやレイに先を越されてしまった。今度は、嬉しそうにカナエにまとわり付いている。
…ぷちん。アラタの中で、何かが切れた音がした。
「ちょっとカナエ君!こっち来て!」
「あっ」
二人の間に無理やり割り込んで、問答無用でミーティングルームの外までひっぱり出した。
「ちょ、痛いよ、アラタ。いきなりどうしたの?」
「あれ。どういうことなの」
カナエを取られむすっとしているレイを流し見ると、流石にカナエも合点がいったのか頷いた。
「レイのこと?なんだか、すっかりタマキくんを気に入っちゃったみたいだね」
「気に入ったみたいって…。カナエくん巡ってガキみたいに対抗心燃やしてたんじゃなかったの」
「うーん。たぶん、俺とレイって小さい時から一緒に育ってきたから…」
「好みも似てるって?」
「…そうなのかな」
何だよそれ。聞いてない。
「カナエ君はそれでいいわけ?タマキちゃん、取られちゃうかもよ」
カナエとタマキが紆余曲折を経てようやく結ばれたのは知ってるし、カナエ君なら…とアラタも認めるところだけど。今ばかりは意地悪に言ってやると、カナエは気にした様子もなくにっこり笑う。
「……俺がタマキ君を、誰かに渡すように見える?」
たっぷり含みのある笑顔、普段のふわふわした感じからは想像つかない、一瞬のぞいたカナエの裏の顔。…やっぱり、カナエ君、僕と同じ側の人間なんだな。
「…カナエ、遅い〜。待ちくたびれたよ俺。タマキも淋しいって」
「ちょっ、馬鹿レイ!俺がいつそんなこと言ったんだよ」
「そうなの?嬉しいな」
部屋に戻ると、タマキと腕を組んだ残りの片方で、カナエの腕を嬉しそうにひっぱるレイ。3人でいちゃいちゃする姿は、まるで仲のいい親子のよう。たぶん、その自覚がないのはタマキくらいだ。
今更カナエ君のポジションを奪いたいとは思わない。辛い時期の二人を見てきただけに、タマキちゃんにもカナエ君にも幸せになってほしいから。
けど、あのクソガキだけは許せない…!
アラタの中で、めらめらと火が燃え上がる。
上等じゃない。見てろよ、その場所、今に僕が奪い返してやるんだから。
「タマキちゃーん!こいつばっかりズルイ。俺も甘やかしてよー」
「うわ!もー、どいつもこいつも…」
★カナタマBITTERエンドっぽい
レイはタマキ大好きっ子になると信じている!