「よぉ夏野!」
「ナッちゃん。今帰りー?」
「保ちゃん。葵。」

授業を終えてキャンパス内を歩いていると、久しぶりに武藤兄弟に出会った。大学で数少ない、友人と呼べる人間だ。

「今日は終わりだけど。二人は?」
「あたしはこれからゼミ。こいつはサークル」
「夏野、最近ちゃんと学校来てるかー?」
「…行ってるよ」
「そおよ、ナッちゃんはまじめだもん。いつもサボって遊び呆けてんのはアンタの方でしょ」
「いてえ。殴るなよー、葵」

相変わらず漫才みたいな小気味よいやりとりを見ていると、ふと、葵が思い出したように俺をみた。

「そういえばナッちゃん。あのストーカーとかいうのどうなったの?」
「ストーカぁ?」

保ちゃんが素っ頓狂な声をだす。

「こないだ変な男に急に校門トコで抱きつかれたんでしょ?付きまとわれて結局、ゴハンまで奢ったげたとか」
「なんだあそれ。マジ?」
「まあ……」

なんて答えたらいいものか。この二人に嘘をつくのも躊躇われて、曖昧に返事を濁す。

「確かにナッちゃん、変なのに好かれやすそうだもんね…」
「…ちょっと。どういう意味だよ」
「あ。ひょっとして、あれか?」

不意に保ちゃんが校門を指差した。手を振る見慣れた姿が視界に入って、思わずフーとため息がもれる。

「うそ…。ナツ、まだ付きまとわれてるの?」
「夏野ぉ、まじでヤバかったら警察に…」
「いや…大丈夫だから気にしないで。じゃあまた」
「あ、ナッちゃん!」



二人と別れたまま、スピードを緩めずに男の隣をすり抜けた。当然の顔で、後ろからトコトコついてくるのは分かってるけど。

「なつの、おかえり」
「気安く名前で呼ぶな。…あと学校まで来るなって言ってるだろ」
「まぁそういうなよ。あ、腹減ってるのか?」

悪びれない様子に呆れながら、気がつけばいつもの喫茶店にいる。
来るなと言っても毎日校門まで迎えにきて、その後ここで食事をしたり一服するのがいつのまにか日課みたいになっていた。


「で、夏野。信じてくれたか?」
「なにを」
「俺が、昔お前に拾われたトールだってこと」
「……」

無言のまま、パスタと魚貝をぐるぐるフォークに巻き付ける。自称トールは、相変わらず口の周りをケチャップで赤くしながら、ナポリタンを頬張っていた。

…そんな風に、がつがつと効果音をつけたくなる食べ方をするところは、確かにトールと一緒かもしれない。それは俺がこっそり家から持ち出した残飯や、ソーセージの類だったりしたが。だからって、はいそうですかと俺に言えってのか。

「……信じてないなら、なんで俺を飼うことにしたんだ?」

男の言葉にハッとする。そうだ、俺は結局、あの日からこの怪し過ぎる男を家に泊めている。そのまま普通に学校に通ったりしてるんだから、俺も大概だと思うけど。

「…飼うとかいうなよ」
「?何かヘンか?」
「もういい」

そうきょとんとした顔をされたら、拍子抜けするだろ。このひとに常識が通じないのは、もう十分わかってきた。
葵の言葉が頭をよぎる。ストーカーか…それよりだいぶ悪いかもしれない。なんせ、いい年した自称『犬』だし。

なんで俺は、まだこの男と一緒にいるんだろう。つまらない日常に突然訪れた非日常を、楽しんでるのか。…本当に、それだけ?


「…帰ろう」
「おぅ」

それだけ見れば普通に整った顔をくしゃりと歪ませて、男はいつも、とても嬉しそうに笑う。

もし本当にトールなら、全力でしっぽでも振ってるんだろうなと思った。









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