▼徹夏・パラレル



※田中鈴木さんの漫画「Like a dog,as a dog」の徹夏パロディ。
もちろん漫画を知らなくても読めます。てかかなり別物です。原作ファンの方には焼き土下座…。







…ずっと、田舎での暮らしが嫌だった。閉鎖的なのに押し付けがましい近所付き合い。古いしがらみに縛られた人たち。何もかも我慢できなくて、必死に勉強して都会の大学に入った。そうすれば何かが変わると、根拠のない期待を抱いて。
所詮はおれも、世間知らずの田舎のガキだったってわけだ。


「おーい、結城」

今日の講義は昼で終わり。わざわざ大学のまずい食堂で食う必要もないと席を立ったら、学部の知り合いが声をかけてきた。

「なんか用?」
「お前、今日暇?向かいの女子大と合コンすんだけど、お前も来ねえ?ちょーど面子、一人欠けちゃっててさぁ」
「…ごめん。俺バイトあるから」
「そこをなんとか!頼むよ〜オトコ少ないとまじぃんだ。女のコ可愛いのは保証するし、結城ぐらいのレベル連れてったら俺の顔も立つしさぁ」

馬鹿馬鹿しい。…角が立たないように断るのすら、もう面倒だ。

「そういうの、興味ないから。もう誘わないでくれ」

そっけなく言い切り、後は返事も待たずに踵をかえす。背後からは舌打ちと、「付き合いわりい」「調子乗ってる」だの。全部聞こえてるって。

そりゃあ、あの村にいるよりは顔は広くなったのかもしれない。友人と呼べる人間もいなくはない。けど、心から親しいと思えるヤツなんかいなかった。結局田舎も都会も変わらないんだ。煩わしい人間関係。望んでもない役割をふられる自分。

…何の為に、わざわざこんな騒がしい街まで出て来たんだろうな。


キャンパスを出たらやけに平和的な日差しがまぶしく、手をかざしてタメ息をつく。メシ食ってさっさと帰ろう。そう思って、歩き始めたときだ。

ふと、そちらに目を奪われた。

校門の向かいのガードレールに、ひとりぽつんと腰掛ける男。背はたぶん俺よりあるし年上っぽかったけど、何故か『ぽつんと』って表現があう。

人待ち顔だし、彼女か誰か待ってるのかな。俺には関係ないし、その顔も確かに見覚えはないのに、不思議な既視感。なんとなく目が離せない。

「やっと…」

男が何事か呟いて立ち上がった。ゆっくりとこっちに歩いてくる。何だ、俺に向かってくる…?

真っ正面までやってくると、男は確かに俺を見、ふわりと眉を下げて笑った。

「やっと、会えた」


……次の瞬間、信じられないことがおきた。
見知らぬ男はこの白日、衆視のもとで、がばりと力いっぱい、俺に抱きついてきたのだ。


「な、な…!」

いきなりのことに声が出ない。何となく害のなさそうな外見に騙された。何だこれ、コイツ変質者?

「夏野。ずっと、会いたかった」

やけに嬉しそうに、滅多に呼ばれない名前で呼ばれて、身体が震える。慌てて、意外に力のある両腕を振り払った。…何で俺の名前、しって。

「あんた、誰だよ……」
「おれ?俺はトール」

とーる。その名前には、どこかしら懐かしい響きがあった。けど俺は、こんな男は見たこともない。知り合いじゃない筈だ。

「…失礼だけど、人違いじゃないですか。俺はあんたを知らない」
「俺は夏野をよくしってるよ」

…これは、流行りのストーカーって奴かもしれない。
呆然とする俺に、男はまたふにゃりと微笑って、肩を引き耳に唇を寄せてくる。


「…昔、子犬を助けたことがあるだろ?」









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