2010 / 12 / 08


生温いゼリーにつかったような倦怠感の中、医者はだるい半身をおこした。まくった腕からたらりと垂れた赤を見ていて、ぼんやり頭に浮かんだ疑問。

「人の血を吸うってのは…どんな気分なんだい」

ソファにだらしなくもたれかかる医者から少し離れた窓際には、ひとりの少年がいた。冷えた瞳が、ちらりと一瞬医者を流し見る。

「気を悪くしたなら、謝るよ。…ただ、連中はあれだけうまそうに血を吸うのに、君だけは違うんだなと思ったから」
「別に、謝る必要はない。俺が化け物なのは、事実なんだし」

その言葉を医者は否定できないし、少年もそれを望んでいない。二人は戦友でありながら、あくまでまじいれない、異世界の住人なのだ。

「…先生の血は、美味かったよ。ヘビースモーカーの癖に、血だけは綺麗なんじゃない?」
「はは、そりゃあ良かった」

わざと軽い口調にあわせながら、まだ力の入らない手で早速煙草を取った。火をつけようとして、医者の手がとまる。

「…こんなことさせてすまないな。余計なことを、思い出させた」

少年は医者にほとんど自分のことを語らなかったが、一見感情のない瞳の奥に、誰の面影を映しているのかは明らかだった。

少年の命を奪った『彼』も、罪悪感にのたうちながら、もしくは愉悦に浸りながら、その甘美な味に酔ったのだろうか。それは、まるで極楽のような地獄だろう。

「…何を今更」

その世界を垣間見たはずの少年は、その底の見えない瞳に、まっすぐ医者を映し出した。

「それでもやるしかないのは、あんたが一番わかってるだろう?」





敏夏は仲間のようでそうじゃないのがもえる。ほんのり敏→夏→徹のつもり



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